98 / 131
王都組⑭
しおりを挟む
ひたすらジョゼフが困惑している。
ポカンッと口を開けて固まったり、パクパク驚いて口を開閉させて手を空中で彷徨わせたり、その一連の動作をずっと繰り返している。
そんなジョゼフを見ながら顔を真っ赤にしつつも未だ情熱的にジョゼフを見つめるローレン。
そしてその仄暗い話数割、甘酸っぱさ七割の話を聞きながらお茶を飲む僕。
聞いて欲しいとは言われたがかなり場違いなのは自分でも分かってる。…だが、僕は…僕はヴィルマにこういうのは鍛えられている。耐性があるのでちょくちょく「キャッ。」とそのほぼ愛の告白の話を聞きながらそう叫びそうになるのを抑えている。
ヴィルマにこの内容話したい。
一緒にお茶飲みながら語り合いたい。
今日は甘いお菓子と恋バナでオールナイトです。
ジョゼフがやっと喉から声を搾り出し、ローレンをしっかりとその目は見つめる。
「……ずっと、辛かった。俺にとってはアレは傷としてずっと残ってる。」
「分かってる。詫びても詫びきれない事をした。」
「あの誓いは…、あの呪いは…まだ俺の身体の中に巣食ってる。まだ蝕んでる。」
「ああ、俺はやってはいけない事をした。それがやっとこの前本当の意味で分かった。あのリヒトの処断で…。」
花びらの舞降る光景がふと僕の脳裏に浮かぶ。
僕もあの光景を大広場で見ていた。
皆、「美しい。」と花びらに手を伸ばし、新たに生まれた『従騎士』に想いを馳せていた。しかしその美しい光景よりも僕の目に強く残ったのはシュネーの並々ならぬ覚悟を感じさせる表情だった。
処断の場でリヒト元王子に『従騎士の誓い』を立てたシュネー。リヒト元王子の為に全てを捨てる覚悟でそこに立っていた。
だからきっとあの誓いは成立したのだと僕は思う。あの大量の花びらが降ったのもシュネーの覚悟の表れだ。
「……アレは無理矢理誓わせるものじゃない。全てを主人の為に捨てて初めて成立する誓いだ。」
ローレンが少し震える手でカップを持ち、心を落ち着かせるように紅茶を飲んだ。そしてあの光景を尊ぶかのような少し羨むかのような複雑でそれでいて少し優しい表情を浮かべた。
「親友だって恋人だって夫婦だってアレは無理だ。本当に…死なせたくなかったのだろうな。シュネー・フリューゲルは。」
ジョゼフがその名を聞いて、ヤケを起こしたように口の中にお菓子を放り込む。
「アイツはいとも簡単にそうやって飛び込めるから困るんだよ。こっちの心配をよそに走って行ってしまうから困る。…何時そんなにリヒト元王子と仲良くなったのか。知っていれば後追い紛いなんてさせなかった。」
「…仲がいいのだな。」
「当たり前だ。アイツのお陰でちょっと吹っ切れた所があるんだ。アホな弟よりよっぽど可愛がってるわッ!! それなのに相談しないわ。遠慮するわ。…で、やっとしてきたお願いが『リヒト元王子を死なせたくないから一緒に行きます。冤罪解くのは任せました。』だ。……もっとそうなる前に早く相談しろよ!! しかも解けなくても『しょうがないかな…。』とでも思ってそうだからタチが悪いッ。お前は走って行く前に人を頼るって事覚えろってんだッ!! 恩返す前に死なれてたまるかッ!! 」
ジョゼフがガッと紅茶でお菓子を胃に流し込む。ローレンがそんな姿を見て、少し嬉しそうに微笑んだ。
「俺が後ろ盾になればお前の友を救えるのだな。」
「ああ、そーだよ、ローレン。」
「…ッ。そうか…ジョゼ。」
ローレンの少し泣きそうな幸せそうな表情を浮かべた。ジョゼフは何故そんな表情を浮かべたかよく分かっていないようで首を傾げた。
きっとこの二人はここからまた歩き始めるのだろう。止まっていた二人の時間がここから動き始めるのだろう。それがローレンの望むものになるかは分からない。
「めでたしめでたしって言いたい訳? 」
………帰ってきた猛毒が勝手に僕の分のお菓子を摘む。
「……ブルーノは。」
「知りたい? 」
にっこりとフェルゼンが嗤う。
僕は全力で首を横に振る。
もげるかってくらい首を振る。
その後、一度だけ僕はブルーノにあった。会ったけど…うん…、僕は今無償にヴィルマに会いたい。ブルーノがどうなったかはご想像にお任せします。
ーーーーーーーーーーーーーーー
なんちゃってキャラ紹介
カール・アーバイン
女装癖と乙女心を持つ伯爵子息。甘酸っぱい恋バナは大好物。
ジョゼフ・デーゲン
騎士団長の息子で騎士団長補佐。シュネーの良き友。デーゲン家は基本鈍感。
ローレン王太子
フォルメルン王国の王太子。実はリヒトの事は自分の欲しいものを持っていってしまう点以外は嫌いではない。別に破滅して欲しいとも思っていない。
フェルゼン・ハースト
シュネーの事になると容赦のないシュネーの元兄。ある意味エリアスより容赦がない。
ブルーノ・ベルンハルト
ローレンに気のある我儘な公爵子爵。実はローレンのルートでの悪役。彼がどうなったかはご想像にお任せします。
ヴィルマ・イーリス
なんちゃって男爵令嬢。カールの婚約者。こんなんでもカールにとっては心の支えです。こんなんでも。
ポカンッと口を開けて固まったり、パクパク驚いて口を開閉させて手を空中で彷徨わせたり、その一連の動作をずっと繰り返している。
そんなジョゼフを見ながら顔を真っ赤にしつつも未だ情熱的にジョゼフを見つめるローレン。
そしてその仄暗い話数割、甘酸っぱさ七割の話を聞きながらお茶を飲む僕。
聞いて欲しいとは言われたがかなり場違いなのは自分でも分かってる。…だが、僕は…僕はヴィルマにこういうのは鍛えられている。耐性があるのでちょくちょく「キャッ。」とそのほぼ愛の告白の話を聞きながらそう叫びそうになるのを抑えている。
ヴィルマにこの内容話したい。
一緒にお茶飲みながら語り合いたい。
今日は甘いお菓子と恋バナでオールナイトです。
ジョゼフがやっと喉から声を搾り出し、ローレンをしっかりとその目は見つめる。
「……ずっと、辛かった。俺にとってはアレは傷としてずっと残ってる。」
「分かってる。詫びても詫びきれない事をした。」
「あの誓いは…、あの呪いは…まだ俺の身体の中に巣食ってる。まだ蝕んでる。」
「ああ、俺はやってはいけない事をした。それがやっとこの前本当の意味で分かった。あのリヒトの処断で…。」
花びらの舞降る光景がふと僕の脳裏に浮かぶ。
僕もあの光景を大広場で見ていた。
皆、「美しい。」と花びらに手を伸ばし、新たに生まれた『従騎士』に想いを馳せていた。しかしその美しい光景よりも僕の目に強く残ったのはシュネーの並々ならぬ覚悟を感じさせる表情だった。
処断の場でリヒト元王子に『従騎士の誓い』を立てたシュネー。リヒト元王子の為に全てを捨てる覚悟でそこに立っていた。
だからきっとあの誓いは成立したのだと僕は思う。あの大量の花びらが降ったのもシュネーの覚悟の表れだ。
「……アレは無理矢理誓わせるものじゃない。全てを主人の為に捨てて初めて成立する誓いだ。」
ローレンが少し震える手でカップを持ち、心を落ち着かせるように紅茶を飲んだ。そしてあの光景を尊ぶかのような少し羨むかのような複雑でそれでいて少し優しい表情を浮かべた。
「親友だって恋人だって夫婦だってアレは無理だ。本当に…死なせたくなかったのだろうな。シュネー・フリューゲルは。」
ジョゼフがその名を聞いて、ヤケを起こしたように口の中にお菓子を放り込む。
「アイツはいとも簡単にそうやって飛び込めるから困るんだよ。こっちの心配をよそに走って行ってしまうから困る。…何時そんなにリヒト元王子と仲良くなったのか。知っていれば後追い紛いなんてさせなかった。」
「…仲がいいのだな。」
「当たり前だ。アイツのお陰でちょっと吹っ切れた所があるんだ。アホな弟よりよっぽど可愛がってるわッ!! それなのに相談しないわ。遠慮するわ。…で、やっとしてきたお願いが『リヒト元王子を死なせたくないから一緒に行きます。冤罪解くのは任せました。』だ。……もっとそうなる前に早く相談しろよ!! しかも解けなくても『しょうがないかな…。』とでも思ってそうだからタチが悪いッ。お前は走って行く前に人を頼るって事覚えろってんだッ!! 恩返す前に死なれてたまるかッ!! 」
ジョゼフがガッと紅茶でお菓子を胃に流し込む。ローレンがそんな姿を見て、少し嬉しそうに微笑んだ。
「俺が後ろ盾になればお前の友を救えるのだな。」
「ああ、そーだよ、ローレン。」
「…ッ。そうか…ジョゼ。」
ローレンの少し泣きそうな幸せそうな表情を浮かべた。ジョゼフは何故そんな表情を浮かべたかよく分かっていないようで首を傾げた。
きっとこの二人はここからまた歩き始めるのだろう。止まっていた二人の時間がここから動き始めるのだろう。それがローレンの望むものになるかは分からない。
「めでたしめでたしって言いたい訳? 」
………帰ってきた猛毒が勝手に僕の分のお菓子を摘む。
「……ブルーノは。」
「知りたい? 」
にっこりとフェルゼンが嗤う。
僕は全力で首を横に振る。
もげるかってくらい首を振る。
その後、一度だけ僕はブルーノにあった。会ったけど…うん…、僕は今無償にヴィルマに会いたい。ブルーノがどうなったかはご想像にお任せします。
ーーーーーーーーーーーーーーー
なんちゃってキャラ紹介
カール・アーバイン
女装癖と乙女心を持つ伯爵子息。甘酸っぱい恋バナは大好物。
ジョゼフ・デーゲン
騎士団長の息子で騎士団長補佐。シュネーの良き友。デーゲン家は基本鈍感。
ローレン王太子
フォルメルン王国の王太子。実はリヒトの事は自分の欲しいものを持っていってしまう点以外は嫌いではない。別に破滅して欲しいとも思っていない。
フェルゼン・ハースト
シュネーの事になると容赦のないシュネーの元兄。ある意味エリアスより容赦がない。
ブルーノ・ベルンハルト
ローレンに気のある我儘な公爵子爵。実はローレンのルートでの悪役。彼がどうなったかはご想像にお任せします。
ヴィルマ・イーリス
なんちゃって男爵令嬢。カールの婚約者。こんなんでもカールにとっては心の支えです。こんなんでも。
10
お気に入りに追加
667
あなたにおすすめの小説
【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕
みやこ嬢
BL
2023/01/27 完結!全117話
【強面の凄腕冒険者×心に傷を抱えた支援役】
孤児院出身のライルは田舎町オクトの冒険者ギルドで下働きをしている20歳の青年。過去に冒険者から騙されたり酷い目に遭わされた経験があり、本来の仕事である支援役[サポーター]業から遠退いていた。
しかし、とある理由から支援を必要とする冒険者を紹介され、久々にパーティーを組むことに。
その冒険者ゼルドは顔に目立つ傷があり、大柄で無口なため周りから恐れられていた。ライルも最初のうちは怯えていたが、強面の外見に似合わず優しくて礼儀正しい彼に次第に打ち解けていった。
組んで何度目かのダンジョン探索中、身を呈してライルを守った際にゼルドの鎧が破損。代わりに発見した鎧を装備したら脱げなくなってしまう。責任を感じたライルは、彼が少しでも快適に過ごせるよう今まで以上に世話を焼くように。
失敗続きにも関わらず対等な仲間として扱われていくうちに、ライルの心の傷が癒やされていく。
鎧を外すためのアイテムを探しながら、少しずつ距離を縮めていく冒険者二人の物語。
★・★・★・★・★・★・★・★
無自覚&両片想い状態でイチャイチャしている様子をお楽しみください。
感想ありましたら是非お寄せください。作者が喜びます♡
タチですが異世界ではじめて奪われました
雪
BL
「異世界ではじめて奪われました」の続編となります!
読まなくてもわかるようにはなっていますが気になった方は前作も読んで頂けると嬉しいです!
俺は桐生樹。21歳。平凡な大学3年生。
2年前に兄が死んでから少し荒れた生活を送っている。
丁度2年前の同じ場所で黙祷を捧げていたとき、俺の世界は一変した。
「異世界ではじめて奪われました」の主人公の弟が主役です!
もちろんハルトのその後なんかも出てきます!
ちょっと捻くれた性格の弟が溺愛される王道ストーリー。
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
少女漫画の当て馬に転生したら聖騎士がヤンデレ化しました
猫むぎ
BL
外の世界に憧れを抱いていた少年は、少女漫画の世界に転生しました。
当て馬キャラに転生したけど、モブとして普通に暮らしていたが突然悪役である魔騎士の刺青が腕に浮かび上がった。
それでも特に刺青があるだけでモブなのは変わらなかった。
漫画では優男であった聖騎士が魔騎士に豹変するまでは…
出会う筈がなかった二人が出会い、聖騎士はヤンデレと化す。
メインヒーローの筈の聖騎士に執着されています。
最上級魔導士ヤンデレ溺愛聖騎士×当て馬悪役だけどモブだと信じて疑わない最下層魔導士
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる