寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ

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王都組⑬

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「……ジョゼフも助けたいのか? お前の友人を。俺から欲しいものを奪っていくあの愚弟を。」

サファイアの瞳が自信なさげに揺れる。何時も強く揺れる事のない瞳が彼の前だけではこんなに弱々しく見える。

何時だって『友人』とローレンの間には距離がある。それはローレンが意識して僕らから距離を置いている。これ以上、親しくならないようにという彼の意志だという事は『友人』全員が何となく分かっている。

ローレンはずっと拗れた初恋を引き摺っている。壊してしまった友情を引き摺っている。

「助けたい。そう友と約束した。だから貴方のお力をお貸し頂きたい。」

ジョゼフはそう丁寧に頭を下げ、お願いした。でも、きっとローレンが求めているのはそんな他人行儀なものじゃないんだ、ジョゼフ。

フゥッと一つ息を吐く。
きっと、僕は今、この為にここにいるのかもしれない。だから覚悟を決めて口を開く。

「ローレン。『友人』として言わせてもらうよ。話を進める前に一回…、もう一回二人で話し合ったら? きちんとお互いに向かい合って。」

「カール? 」

ローレンが僕の言葉に目に見えて驚く。

そうだね。
僕は今まで一回も君に意見をした事がない。『友人』なのに僕は君と一度も向き合った事がない。

「もう、君は王太子でしょ? だったらもっと周りを頼らないと国は一人じゃ納められないよ。王になるなら向かい合わなきゃ。だから……。」

深くジョゼフに頭を下げた。
ジョゼフは驚き固まっていた。

「話を聞いてあげて下さい。そして貴方の率直な気持ちを話してあげて下さい。貴方方の間に何があったのかは少しばかりしか知りません。でもお互い、きちんと話し合わないと前に進めないと思うんです。お願いします。」

ジョゼフは暫く固まっていた。
しかし、やがて僕の頭に優しくポンッと手を乗せるとホッと安心したように穏やかな笑みを浮かべた。

「ローレンにはこんないい友人が居るんだな。……良かったよ、君が居てくれて。」

それはとっても優しい声だった。
相手を思いやる優しい僕等とは違って本当にローレン事を思って…。

ー 違うんです。僕は…いい友人なんかじゃないッ。本当にローレンに必要なのはッ……。

ポンッとローレンの手が優しく僕の肩を掴む。その瞳には今まで見た事のない、とても優しい色が浮かんでいた。

「カール。俺も友人としてお願いしたい事がある。…お前も俺の話を聞いてくれないか? お前にも聞いて欲しいのだ。友人であるお前に…聞いて欲しいのだ。」

こんなあったかい言葉初めてだった。
『友人』になって初めて聞いた僕に向けられた血の通った温かな言葉。

多分、今、本当の意味で僕等は友人になったんだろう。

何だか少しむず痒くて何だか堪らなく心が暖かい。こんな冷めた『友人』関係でこんな気持ちになるなんて思わなかった。

やめてよ。
僕、涙腺人一倍弱いんだよ。


「…菓子やるから泣くのをやめてくれ…。お前が泣いていると女性虐めてるような変な気分になる……。」

「……イーリス嬢は女捨ててるのに何故、逆に婚約者の方は女子力が高いんだ……。」

何だか地味にジョゼフにヴィルマをディスられたような気がするけど、正直よく頭に入ってこない。僕涙腺弱いんだってぇーー。

この前刺繍した可愛いハンカチで涙を拭くとローレンとジョゼフが「まさか、その刺繍もイーリス嬢じゃなくて……。」と何か言い掛けたが口をつぐんだ。



「何故お前はリヒトに勝てんのだ? 」

それは父にとって何の感慨もないただのちょっとした疑問だった。

父はリヒトに興味がない。
だから、リヒトがどれ程有能であろうが一切見向きしない。

宰相にリヒトの成績の事と、倅がリヒトの『友人』になりたいと言っていると話をされて、その時だけ少し頭にリヒトの事が残っただけだった。

ー 俺はリヒトに劣っている?

その時初めて自覚してしまった。
あの無きものとして扱われているリヒトに勉強でも人を惹きつける才すらも劣っていることに…。

おそらく、今思えばそれもそう思わせる思惑だったのかもしれない。だが、当時の俺にはそれがとても受け入れなれない事で、大いに衝撃を受けた。

あの王家の影であるシャルロッテ侯爵の娘がリヒトの婚約者になるという事実も更に追い討ちを掛けた。

俺は期待されていないのだと。
もしかしたら父も俺を……。


努力はしたつもりだった。
信頼を取り戻そうと躍起になって勉強も今まで以上に取り組んだ。だが、どうしてもリヒトに勉強で勝つ事は出来なかった。更にリヒトの周りには有力な『友人』が集まっていった。

「ローレン王子って人望がないのかしら? 」

侍従の一部が陰でそんな言葉を漏らしているのを偶々聞いた。何時もであれば「そんな事ない。不敬だ。」と向かって行っただろう。だが、その時はヤケに胸にその言葉が刺さった。

「おいおい、ローレンが人望無いって本当に言ってんの? 」

ヒョコッと侍従達の前にいきなり現れたジョゼフが何時もと違い、冷ややかな表情でその侍従達と向き合っていた。

「見る目ないのな。その上、不敬だし。」

不敵に馬鹿にしたように一笑したジョゼフは「首かもよ。」と一言だけ呆然と立ち尽くす侍従達を置いて、こちらを見つけると嬉しそうに走ってきた。

俺を見てくれて、俺を分かってくれる俺だけの友人。

俺だけのジョゼフ。

何時も元気でコロコロ笑ってて、正義感が強くて、俺の話を聞いてくれる。楽しい話も悲しい話も辛い話も全てジョゼフは一緒に受け止めてくれる。

ー 俺はジョゼだけでいい。ジョゼさえ居てくれればそれで……。



「『従騎士の誓い』って知っていますか王子? 」

王宮にある図書館で勉強に勤しんでいるとそう宰相に声を掛けられた。

「『従騎士の誓い』? 」

「ええ、騎士が、自身が認めた主人に捧げる誓いですよ。…もしや、まだジョゼフから受けてないのですかな? 」

『従騎士の誓い』。
その言葉は歴史学で何度も建国の歴史の章で習った。しかし軽く誓いの内容を知っている程度だった。

俺の反応を見て、宰相がうむむと眉間に皺を寄せ、首をひねった。

「もしや…、ジョゼフは違う相手に誓いを立てるつもりですかな? 」

「ジョゼは俺の友人だ。馬鹿な事言うな。他の相手なんかに…。」

「しかし、ジョゼフはまだ殿下に立てていないのでしょう? ジョゼフも殿下から離れていくのですね。…お可哀想に……。」

ー 俺から…ジョゼが離れていく?

そんな訳ないとそう返そうとした。しかし言葉が思うように喉から出てこない。

本当に離れない?
だって宰相の息子はリヒトを選び、シャルロッテ家もリヒトを選んだ。もしかしたら父も心の奥底では…。

ー ジョゼもリヒトを選ぶのか?

ジョゼフも俺から離れてリヒトの隣であの笑顔を向けるのか?
そうしたら俺はどうなる?
俺は…、アイツの隣で笑うお前を見ていられるだろうか。

ー 無理だ。それだけは、それだけは許せない。

ならどうすればいい。
そう思案している間に宰相は居なくなっていた。しかしそんな事どうでもいい。俺はジョゼフを何とか俺に繋ぎ止めないと。

離れないようにそれこそ一生。

「そうか…。『従騎士の誓い』を立ててもらえばいいのか。」

誰かに誓いを立てる前に…。


好きだったのだ。
アイツに、リヒトに渡したくない程。片時も離れたくない程。愛していたのだ。

周りが見えていなかった。
お前の顔がきちんとあの時、あの頃俺には見えていなかった。必死だった。

その時この感情を何と言うのか自身でも分かっていなかった。想いが、独占欲だけが先行して深く考えようともしなかった。

そんな自身の浅はかさからお前を傷付けて失うなんて思わなかったのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーー

なんちゃってキャラ紹介

カール・アーバイン
女子力高めの女装癖、伯爵子息。ヴィルマの婚約者。涙腺弱めで泣いてる姿は正に女子そのもの。刺繍は趣味でヴィルマのハンカチにも刺繍してる。

ジョゼフ・デーゲン
騎士団長の息子で騎士団長補佐。元ローレンの友人。友人関係が破綻してもローレンの事は気に掛けてた。

ローレン王太子
フォルメルン王国の王太子。実は学園時代はバレないようにジョゼフの姿を目で追っていた。

宰相
並々ならぬ野望を持つ男。大概コイツの所為。

ヴィルマ・イーリス
彼女に女子力を求めても無駄というもの。そんな感じのなんちゃって男爵令嬢。
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