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一体何があったのか

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ー 夢オチってありかな?

見慣れた土の天井を見て、そう思った。

もしかしたらあれは悪夢で、まだ二ヶ月経っておらず、ネズミの寝ぐらに雲隠れしているのではないかと。

しかし何時ものように上手く身体が起こせない。身体が怠い。

助けられたのだろうか? 
それともまだディーガに捕まって最後まで…。もしかしたら『血染めの狼王』の…いや、獣の寝ぐらにしてはきちんとした作りだ。

無理矢理身体を起こすと何時もの寝泊まりしている部屋で何時もリヒトと寝ている布団だ。服も何時もの寝間着用の浴衣を着ている。

ー あの後助けられたのか? でもディーガ達を襲った『血染めの狼王』相手に?

まだ主戦力のネズミは怪我している。クジャクとキツネが助けに?
確かにクジャクもキツネも強いが人喰いの魔獣相手に二人では……。

立とうと小刻みに震える足で布団の上で踏ん張るが、上手く立てず倒れた。受け身も無しに倒れたので頭をぶつけると思ったが、身体をふわりと柔らかいものが支えた。

「くぅぅうん。」

ー 栗毛の柔らかい毛布?

ベロンッと柔らかい舌が私の頰を撫でるように舐める。

普通の狼より一回り大きな体躯。
柔らかな栗色の…毛。

ー 『血染めの狼王』!!

まだ脅威は去っていなかった。

驚愕してその場に腰を抜かすと『血染めの狼王』は私の身体を押さえつけるように乗り上げる。

「ーーッ!! な…ーーでッ!! 」

声が上手く出ない。
叫びにならない叫びを上げると叫ぶ口に『血染めの狼王』の舌が入り込んで舐め回す。

「ん…ーーッ!? ふ…ーーあっ!? 」

まだ味見の段階だったのか!?
しかし、ディーガ達を襲った時と違い、『血染めの狼王』の瞳には喜色が浮かび、ペロペロと真剣に私の口の中を舐める。尻尾はブンブンッと嬉しい時の犬のように尻尾が取れそうな程激しく降っている。

ー 何がどうなって…。

この魔獣は何をしたいのか。
私を食べる気がないのか。

『血染めの狼王』は存分に私の口の中を愉しんだ後、自慢げに私の上にボロボロで血で黄ばんだ汚い布を巻かれた前足を乗せる。

いや、何? 何だよ?? 
何が言いたい!?

そしてまた抵抗出来ない私の口を入念に舐め、私を転がしうつ伏せにする。
何!?

何だか分からないが少し『血染めの狼王』の身体が離れたので抜け出そうと腰を上げたが、何かが私の尻に何度も当たる。

硬い何かが……。

恐る恐る顔を上げるとそこには一心不乱に腰を振ってる『血染めの狼王』がいた。私に腰を打ち付けるように…。

「g@あ#ーーぁ!? Y/&#ひ@ーーッ!!? 」

言葉にならない叫びが喉から吐き出される。恐怖とか困惑とか飛び越えて、ただ本能がその場から逃げたいと叫ぶ。

動きの悪い身体で必死に床を這い、ただ逃げる為に身体を動かす。

久々に必死だった。
エリアスから死に物狂いで逃げていた身体の弱かったあの頃と同じくらい必死だった。

部屋から這い出ると何時もの居間のテーブルに入院している筈のネズミとクジャクとリヒトが居た。

「シュネー!? 目が覚めたんだね!! 」

リヒトが泣きそうな嬉しそうな表情で駆け寄るが、クイッと奴が襟を引っ張り部屋に連れ戻そうとする。ついでにそのまま服を脱がそうと…。

やらってぇやだってはなしぇッ離せッ!!ふらけんにゃふざけんな!! 」

必死に抵抗する為に発した声。
呂律が回ってない。

身体は上手く動かないので必死に口で抵抗するが襟元が緩くなっていく。

嫌だ!! 
ただでさえ人間だけでもお断りなのに。リヒト達の前で魔獣に犯…うっ…される。

待てステイ!! 」

リヒトが眉間にしわを寄せ、厳しい表情でそう『血染めの狼王』に言い放つ。すると『血染めの狼王』は途端に大人しくなり、何やら悔しそうな唸り声を上げる。

リヒトは私の襟を整え、「大丈夫だから。」と抱き寄せる。そして私を抱き上げ…ん? ……抱き上げられた…。

軽々と私を姫抱きするリヒト。
そういえば『刑受の森』に来てから何やらずっと身体を鍛えていた。だが、何故五センチしか背が変わらない私を抱き上げられるようになったのか?

私の名誉の為に言っておくが私はきちんと160センチはゆうに超えているし、筋肉は……そこそこ付いてる。そんな軽々と抱えられる程貧弱な身体はしてない。
してないんだよ!!

「シュネーに手を出さないなら居ても構わないと言った筈だ。手篭めにするのを赦したつもりはない。」

そう『血染めの狼王』と睨み合う。

何だこりゃ?
何で魔獣と対等に喧嘩してるの?
何があったの??

「ほうらぁ、拐われのお姫様が困惑してるよぉ~。王子方落ち着いてぇ。」

ネズミがまぁまぁと二人いや、一人と一匹をなだめる。リヒトは『血染めの狼王』を睨みながら私を姫抱きしたまま席に着く。『血染めの狼王』はそれでも離れず私の近くに居たがる。

そんな光景を見てクジャクが呆れた表情で溜息をついた。

「アンタ、あの『血染めの狼王』に何時見込まれたのよん。魔獣にツガイ認定されるって。」

ちゅがいぃツガイィ!? ふにゃけんにゃふざけんな!! みきょまれちゃ見込まれたおぼえにゃにゃい覚えはないッ!! 」

「…毒が抜けきってないわねん。喋れてないわよん。」

「にゃんにゃん言ってて猫みたいだねぇ。シュネッち。」

二人に生温かい目で見られる。

そもそも何時見込まれたって言うんだ……。

私はこんな魔獣、会った事ないし、あの状況でどの辺が気に入られたのかなんて分からない。

訳も分からず憤慨してると宙ぶらりんだった足の先を『血染めの狼王』が舐めた。すっごく嬉しそうに。何でだよ…。

リヒトは気分を害したようでシッシッと足で『血染めの狼王』を払う。すると『血染めの狼王』はリヒトに噛み付くでもなく、悔しそうに睨むだけ。

本当に何があったの…。
貴方達に…。

困惑を深める私を見て、ネズミが嬉しそうにニマニマと笑う。

だが、何時もなら「ねぇ? 聞きたい? 聞きたい?シュネッち!! 」とこの事の状況を弄りながら楽しそうに事の顛末を話しそうなのにネズミは見てるだけで口を開かない。

「じゃあ、取り敢えずわっちは帰るわん。また明日様子を見に来るわよん。ネズミは残るんだったわねん。」

クジャクはそう別れの言葉を言うとまだ足に包帯ぐるぐる巻きのネズミを置いて帰っていった。そして私は部屋からやっとの思いで這い出したのに戻された。

私は毒抜きの為の療養中で三日間意識なく寝込んでいたらしい。


薬は死ぬようなものではなく、カッコウが出した解毒剤を飲めば元のように身体は動かせるようになるとの事。

誰も何もあの後の事を話さない。
どうやって助け出されたのか。
『血染めの狼王』は何故ここに居るのか。

リヒトに呂律の回らない舌で必死に聞いても困ったような表情を浮かべて抱き締めるだけ。何も教えてくれない。

そしてリヒトは私を片時も腕の中から離そうとしなかった。
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