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王都組⑧

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「……付いていけばいいんだな、カール。…おい、ルノ、出掛けるから支度しろ。そしてオマエは家にいろ。付いてくるなよ。」

ルノはハイハイと不遜な態度を取り、フェルゼンから酒瓶を取り上げて、上着を剥ぎ取る。そして「少々、客間でお待ち下さい。」とわたくし達は書斎から追い出された。


「先に言っておくけど執事のルノさんは誰にでもあんな態度だよ。」

二人の関係で妄想に花を咲かせるわたくしにカールがクギを刺す。

えっ、あんなに妖しい雰囲気醸し出してただのドS ? 
嘘よ、きっと二人は夜、巡りめく………。

「シュネー様はお元気でしたか? 」

客間でカールに刺されたクギを早々に抜いて耽っていたら何だか怖い笑みを浮かべてお茶を出すドSルノ

あれ? 
さっきフェルゼンの用意を手伝ってた筈じゃ。

「シュネー様はお元気でしたか? 」

早く話せと言わんばかりにもう一度今度はドスの効いた声でリピートする。

果たして執事ってこんな感じだったっけ? 
ウチのセバスチャンはもっとほわほわしたお爺ちゃん……。


「ハイッ!! シュネー様は綺麗でかっこよく我が最高の推しでありますッ!! 」

「凄いどうでもいい内容ですね。…まぁ、何となく元気だったのは伝わりました。」

折角答えたのに余計な情報を喋るなとその怖い笑みは語る。笑み一つでこんだけものを言うものだっけ? 

「シュネー様はわたくしにとっても唯一の癒しでした。あの糞主人がきちんと奥方として迎える事に成功していれば……まぁ、過ぎた事は良いとして。」

割とサラッと本音を暴露するドSルノ

しかも敵側だったのね。
もしかしたらゲームのシュネーが心折られた原因はこの人にもあるのかも。


「で、協力する事での我々の報酬の話になりますが。」

「「え!? 」」

ニコリと怖い笑顔が薄まり爽やかな笑顔がルノの顔に浮かぶ。

報酬?
ただで助けてくれないの?
唯一の癒しって言ってたじゃん!?

まさか報酬を求められると思っていなかった。(そもそもレオノールに言われなければ来なかった。)
除籍したとはいえ、シュネーの生家だし。

二人で困惑の表情を浮かべる。

帰るか? 
なんか雲行きがあやしいぞ。

しかし、ルノは空いたカップに並々と紅茶を注ぎ、茶菓子まで追加してわたくし達を帰す気がない。

「別に簡単な事です。帰ってきたシュネー様に取りなして下さるだけでいい。せめて飲みに帰って来てくださるだけで宜しいのでハースト家に顔を出して下さいと。」

その目には少し憂いが乗っているが、紅茶のくだりが引っかかる。

その紅茶、本当にただの紅茶ですか?

「ご隠居なされた旦那様方も相当可愛がられていた。それこそ。シュネー様はハースト家にとって必要なお方だ。……マドレーヌとチョコも付けるから帰って来て欲しいと伝えて下さい。わたくしが自ら腕を振るいましょう。食べたら美味しいものを。」

瞳が潤み、もの悲しげな表情を浮かべるが全然共感出来ない。

寧ろ、冷や汗が止まらない。
マドレーヌとチョコに何を盛るつもりだ。余程フェルゼンよりルノの方が怖い。

裏のボス実はコイツじゃないよね、作製スタッフ。
そんな気がしてきたわ。

「話は……しますわ。」

「はい…。是非伝えて下さい。よぉーく心に響くように。」

ルノはフェルゼンが来た事を確認すると満足したように去っていった。去り際に「シュネー様に会った際はわたくしからと。」と囁かれて手に握らされたキャンディ。これは後でシュヴェルトに、「レオノールに食べさせて。」と言って渡そう。

これが必要なのはきっとシュネーじゃない。
素直になれないレオノールだよ、きっと。

「後で処分するから渡して。」

カールがそう言うとサラッとわたくしの手からキャンディを奪う。

何故だ。
それは後でレオノールで処分するというのに!!

「茶番はいいから行くならさっさとして。僕は君達には興味がない。」

石鹸の匂いを纏い、綺麗になって戻ってきたフェルゼンがさっさとしろと促す。

その目には何だか生気が宿っているような…。

「まさか…。シュネー様を本気でレオノール君は地獄に落とす気じゃ…。」

カールがブルリッと肌を粟立たせ、震え上がる。前で手を組んで祈るように震える姿は服装は今日はだけど女の子のよう。

「レイピア使いの暗殺者なら一度会った事がある。」

「えっ? 」

「シャルロッテ侯爵のご令嬢はよく第一王子の事を『友人』である僕に聞きにきてたんだよ。その時に陰についてた護衛がソイツだった。」

フェルゼンはどうでもいい話のようにつまらなそうに一番重要な話をサラッとゲロった。

何で陰の護衛に気付けたの? 

フェルゼンは開いた口が塞がらないわたくし達なんてどうでも良さそうに目もくれず、ヒョイッとカールの手から先程キャンディを奪った。

そして躊躇もせず、それを口に放り込んだ。

「えっ!? そのキャンディは……。」

「何を驚いているの? ……ああ、ルノにおちょくられたのか。」

コロコロとルノがシュネーにとくれた怪しいキャンディを口の中で転がす。しかしフェルゼンの様子は変わりない。

「アイツの話は八割がた、からかわれたと思った方がいい。奴は『オカン』だ。性格悪いから結構弄ってくるけど、根は『オカン』。」

「オカン。」

「特に病弱だったシュネーには甘いんだよ。病弱なシュネーを喜ばせたくてお菓子作りのスキルを習得した奴だ。……はぁ、アイツに休暇与えて追い出すのがどれ程面倒臭かったか。」

フェルゼンが馬車に乗る前に溜息をつき、チラッと二階の窓を見た。そこには怖い程満面の笑みで、こちらを見つめているルノの姿があった。

それは「分かってるだろうな? 」と言いたげな笑顔だった。
だから何で笑顔でこんだけものが言えるの?

フェルゼンは溜息をつき、馬車に乗り込む。

「…ハースト伯爵家は全面的に元第二王子であるリヒトの冤罪を晴らす事を誓うよ。何処までも真っ直ぐな。下心無くね。」

「それは……。」

「ホントはこのまま腐ってしまいたかったんだけどね。初恋を抱いたままゆっくりと…。」

その表情には兄の顔が浮かんでいた。
とても穏やかでただ家族を想う一人の兄の姿が。

「除籍したってやっぱり家族なんだ。弟として慈しんでいた事は恋が破れたって消えないんだよ。願わくば誰よりも幸せであって欲しいんだ。」

今のフェルゼンの表情を見たらシュネーはどう思うだろう。ふと、そんな想いが浮かんだ。

きっとこんな優しい表情を浮かべる兄をシュネーは支えたかったんだろうな。そう思うと、とても複雑でわたくしはフェルゼンから視線を外した。

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なんちゃってキャラ紹介

ヴィルマ・イーリス
なんちゃって男爵令嬢にして前世の記憶を持つ。前世では出しっ放しにしていたBL 本を弟(当時九歳)が誤って読んでしまい、距離を置かれて冷たい目で見られた悲しい過去がある。今世では性癖オープンなのは粗方この経験の所為。

カール・アーバイン
ヴィルマの婚約者。ヴィルマは好きだが、レオノール達の恋路にグイグイ参入していくのは本気でやめてほしいと思っている。女装癖はあるが男です。

フェルゼン・ハースト
やっぱりブラコンは抜けない。

ルノ
ハースト家の執事。ドSでオカン。果たしてそのオカン属性が作中で発揮されるかは謎。
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