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どうやら頭を打ったらしい

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「命拾いしたな。」

私に向けられる罪人達の視線を思い出して、ゾワリッと寒気が走る。

最初は七人だった。
七人がリヒト達を引き上げるのに協力してくれる筈だった。それが気付けば十七人になり、最終的には二十七人。人間二人を引き上げるのに過剰戦力だ。

何人か引っ張ってるふりして絶対協力してない。

ー これだから罪人は!! 

そもそも何で私の紐下g……やらハダk…エプロン姿なんて見たいのか。

男だぞ!?
フェルゼンのウェディングドレ…とかっ!? 今回のとか!?
何でこうも人を貶めるような格好させたいんだアイツ等は!!


「まぁね。ここ、基本男しか居ないんでい。」

人の心を勝手に呼んで来たネズミが答える。罪人って別に男女関わらず、大罪を犯したらここに流刑される筈だが……と聞きたいが、それ以上は流石に怖くて聞けない。

ここは弱肉強食だ。
たまたま、私達はネズミに拾われただけで、私達だってどうなってたかは分からない。

取り敢えずネズミの機転で紐下g…ハダk……エプロンは回避出来たのでもう考えるのはやめよう。


ネズミの怪我は酷かった。
足の骨が折れ、折れた骨が肉を引き裂き、出ている状態。
正直、流石にもう駄目かと思ったら一応、『リンク』にも腕利きの医者がいるらしい。

かなり時間と対価がかかるが、治せない怪我では無いらしい。まぁ、時間と対価が一番の問題なんだが。

「対価はヒヒ系の討伐代でいいわよん。後はネズミをアンタ達が面倒見る気があるかだけよん。」

リヒトはそのクジャクの問いに二つ返事で了承した。私も特に異論はない。

まぁ、当分私達の冤罪も晴れなさそうだし。ここ二ヶ月世話になった恩もある。

取り敢えず、ネズミはその腕利きの医者の元へ運ばれて私達は一度ネズミの寝ぐらに帰る事になったのだが……。


「……リヒト、貴方も怪我してるでしょ? 離してくれない? 」

部屋に戻った途端、リヒトにがっちりホールドされて約二時間。何故約二時間拘束されているのかは全く分からない。

「リヒト? 」

「…………。」

「あの、…どうしたの? せめて何とか言って。」

表情を確認するにも後ろからがっちりホールドされているので視認出来ない。本当に何考えてるのか分からない。

そして……。

リヒトとは五センチしか背は変わらない。シュヴェルトと比べると…悲しくなる程自身がちんまく見えるがリヒトとは大切な事だからもう一度言うが変わらない。

成長期に五センチは誤差。
十四歳の私は余裕で十六歳のリヒトを抜かす筈だから気にはしない。

気にはしないんだが…。
こうやってホールドされていると「アレ? もしや五センチって結構…大きい差じゃ…。 」なんて思ってしまう。

ー 落ち着け…。五センチは誤差だ。毛だって生えるし、これから背だって筋肉だって……。

自身にそう言い聞かせて、取り敢えずホールドからどうやって抜けるか考える。

すると耳裏にリヒトの鼻頭が当たり、スンッと耳裏の匂いを嗅ぐ。

「ちょっ!? 本当に何して…ちょっと!? 」

鼻息が耳を擽る。
そしてまたスンッスンッと匂いを…。
く、くすぐったい。

「シュネーの匂いだ。」

「……まぁ、私を嗅いだら私の匂いでしょうね。」

何がしたいんだこの人は。
リヒトは私を離す気が全くないようでスンッスンッと犬のように匂いを嗅ぎ続ける。

「ねぇ、シュネー。」

「何です? 」

「僕が生きたいって言ったら君は離れていくの? 」

「物理的にもう離れられないの知ってて言ってる? それ。」

崖に落ちて一体何があったのか。
生きる気力が湧いたのか。
はたまた頭を打ったのか。

「うん。知ってるし、もう離せないと思う。」

「……頭、打ちました? 」

「うん。打ったかもしれない。」

ー マジか。

話が地味に通じないと思ったら我が主人は頭をやってしまったらしい。ネズミの怪我はヒヒ系の討伐から出されるがリヒトの頭は診療してくれるだろうか。

そういえば『刑受の森』の外から持ち込んだ荷物の中に売れそうなものが……。

あれ? 
それを対価にふっかけてみればクジャクに口吸われなくても済んだのでは……いや、もういい。
もう、どうしようもない事を考えてもしょうがない。

ー 今思えば相当錯乱してたんだな、私。

溜息をつくとふと、身体の拘束が解かれた。そして首筋に柔らかな口付けが落とされる。

「ひゃッ!? 何してっ!? 」

そして今度は前から抱き締められる。
いや、だからどうしたんだって!?

「シュネー。」

「何!? 」

「今日、夜、触らせて。」

「断る。…怪我してるでしょ。ゆっくり休め。」

本当に何考えてんだ。
崖から滑落した後だぞ!?
縄使って降りてみたが、結構な高さだった。ヒヒ系みたいに死ななかったのが不思議なくらいなんだぞ!?

呆れていると不安そうなリヒトの顔が私を覗く。

頭打ったなら医者に行こうよ。
付き添うって。

「僕は君が隣に居てくれるなら生きられる気がする。」

「…気がするじゃなくて生きてくれなきゃ困るのですが。」

「そうだね。君に触れていられるなら生きたいかな。僕は。」

「触れッ……。ホントにアンタ大丈夫か!? 頭の中切ったとか? 」

何それ!?
何だその訳の分からない生きる気力は!?
崖から滑落して一体何があったの!?

「死よりもシュネーに触らないのが怖い。」

「……私は貴方の思考回路が怖い。日に日に私の分からない方向に転がって行ってるでしょ。何処に行くつもりで!? 」

「……シュネーは当分理解しなくていいよ。シュネーに拒絶されるのは辛いから。」

この主人は何を恐れているのか?
震えているので手を回してポンポンと背中を撫でてやると、溜息をつかれた。

「…シュネーって一度懐に入れた相手を警戒しないタイプでしょ。」

「誰の事言ってます? …なんだか嫌な予感がする。」

「悪いようにはしないよ。ただ、僕はゲルダが言うように狡い男みたいだからね。」

何故今、ゲルダの事が出たのか…。
兎に角今、抱き締めるのをやめて欲しい。

いや、私だって心配したよ。
抱き締められて不覚にもホッとしたから約二時間、抵抗もせずに収まってたよ。

だが、取り敢えず今は離して欲しい。
私も結構心労とかが来てるんだって。

疲れた。寝たい。
さっさと今日の出来事を忘却したい。

「リヒト…。手当てとか…お風呂…とか、食事とかそろそろ。」

「じゃあ、その後に一週間に一回のアレね。」

「………寝ようよ。何故それを今持ち出した!? 」

思わず首筋を隠したが、ニッコリと何故か薄ら寒い笑顔を向けられた。

この元王子が何処へ向かっているのか全く分からない。
それがちょっと…いや、大分怖い。

それでも生きようと前へ向いてくれるのなら。
生きる事に価値を見出してくれたなら……いいのか?
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