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王都組⑤
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レオノールが加わってから一週間。
レオノールは初夜からシュヴェルトの部屋にこもっていた。
シュヴェルト曰く、関係は良好で、毎日が驚きと楽しさに溢れている。
アルヴィン曰く、チラリとシュヴェルトの部屋を扉から覗き込んだ時、一糸纏わぬ姿でベッドの上で俯き、呆然と膝を抱えていたとか。
ジョゼフ曰く、この前食堂に久々に降りてきた時、泣き腫らした目が痛々しい。動きがぎこちなく、動くたびにビクリと身体が震えるので何があったか怖くて聞けない。申し訳なさ過ぎて顔が見れないと、頭を抱えていた。
◇
「単刀直入に言うと私はこの件に一切関わらせてもらえなかったから証拠を提示する事は出来ない。」
やっと元気になったレオノールが開き直って一番聞きたくなかった言葉を言い放つ。
やっと進展すると思ったのに。
目に見えて落ち込む私達をレオノールがしてやったりと今までにない、嬉しそうな顔で喜ぶ。
お前なぞ、ベッドの住人になってしまえ。そして私にその感想を論文にして提出しろ。
落ち込む私達にコホンッとレオノールが咳払いし、注目を集める。
「お父…宰相は、もう証拠は処分している筈です。なら、毒を買った経路と間者を捕まえた経緯を吐かせればいい。」
「レオノールなら引き出せるのか? 」
「私は無理だ。拐われる形で家から出て行ったしな。……だが、それが出来る男はよく知っている。その上、その男はあのシュネー・フリューゲルに惚れ込んでいる。」
レオノールがニンマリと嗤う。
その目は殺る気に満ち溢れている。この人は確実にシュネー達を救ってくれる。そしてその後地獄に突き落とす気だ。
どんなに酷い目にあったのやら。
◇
咲き誇る薔薇が有名な屋敷の庭園。
まだ、薔薇が咲く季節ではないのでその美しい庭園の姿を見る事は出来ないが、これから三人は年中咲き誇っている薔薇に会いに行く。
「シュネー、嫌がるだろうな。」
ジョセフは今は隣にいない友を想い、思わずそう吐露した。
義弟レオノールに連れてこられてパーティでもお茶会でもないのに来てしまったクランクハイト侯爵家。義弟の隣で緊張感もなく、上機嫌で鼻歌を歌っている愚弟を俺は殴りたい。
「交渉は私がやります。もしもの時は守ってください。」
ー もしもの時って何?
義弟が眼鏡をクイッと上げて、クランクハイト家の玄関を潜っていく。
◇
薔薇の香りが鼻腔を擽る。
黒を基調としたクラシックな部屋の中。真ん中にはこれまた黒一色の天蓋付きベッドが配置されており、陶器のようにシミひとつない白い肌をした『クランクハイトの黒薔薇』が一糸纏わぬ姿で眠っていた。
人の気配に怪訝そうな表情を浮かべ、顔をこちらに向ける。そんな姿からも醸し出される色香は半端なく、思わずその姿に頰を染めた。
「何? 俺、調子悪いんだけど。」
「嘘付け。シュネー・フリューゲルを取り逃がして不貞腐れているだけでしょう。貴方は。」
美しい黒薔薇は自身の裸体を隠す事なく、ベッドのヘリに座り、脚を組む。まるで見られて恥ずかしいものなんてないとでも言うように。
「さっさと帰ってくれない? 俺、君達に興味ないんだよ。無駄な労力使わせないでくれない? 」
「本当に帰って良いんです? シュネー・フリューゲルを取り戻せるとしても? 」
ピクリッとエリアスの片眉が動く。しかし、ハンッと馬鹿にしたように嗤った。
「取り戻せる? 取り戻して俺に何の利益が? あの子はリヒトのモノに成り下がったのに? …それにしても君がシュネー達を救いたいってどういう風の吹き回し? 」
「本当に貴方は捻じ曲がってますね。………私にも理由があるんですよ。」
二人が薄ら寒い笑みでニコニコと笑い合う。
部屋の温度が氷点下まで下がる。
俺はここに居たくない。
しかしそんな空気の中、愚弟は楽しそうでふと、牽制しあうレオノールの肩を抱き寄せた。
「あっ、そう言えば!! まだ、エリアスに報告してなかったよな。俺達結婚したんだ。卒業したら結婚式挙げるから来いよなッ!! 」
いきなりの結婚報告にあのエリアスが一瞬呆けた。そしてレオノールが目に見えて狼狽える。
お前は何をしに来たんだ、愚弟よ。
「……成る程、初恋拗らせたツンデレがついに陥落したのか。宰相になったらそのネタで揺すって、グズグズになるまでいたぶってやろうと思ってたのに残念だ。」
「「………。」」
レオノールの表情筋がヒクヒクと痙攣している。もう既に大ダメージを負っている。必死に耐えているがきっと一番この部屋から逃げ出したいのはレオノールだろう。
しかしレオノールは耐える。
ニッコリと笑顔を作り、エリアスをしっかりと見やる。
「宰相を『クランクハイトの黒薔薇』として懐柔し、情報を聞き出してください。そうすれば貴方のシュネー・フリューゲルは貴方の手中に戻ってくる。」
「しつこいな。『刑受の森』から帰って来てもあの子はそれでもリヒトのモノだろう? 」
キッとエリアスがレオノールを睨む。
「あの子は…、あの子はリヒトがいる限り俺の手に落ちる事はない。あの馬鹿王子を守る為に俺の手すら払いのけて見せた。」
「成る程、だから不貞腐れていると。」
フンッとレオノールが鼻で嗤う。
どうやらレオノールの方が優勢のようでエリアスが苦虫噛み潰したような顔をしている。
しかし、エリアス顔がスゥッと暗くなっていく。ドス黒く染まっていくオーラを俺には見えた気がした。
何か不味いものを踏み抜いたんじゃないか義弟よ。
「あのさぁ。ここ、何処か分かってる? ここは俺の城なんだよね。俺が君達を捕らえるのって造作もないんだよ。君達を捕らえて調教するっていうのもアリだなぁ。」
ニッコリと悪魔が邪悪な笑みを浮かべる。
そして悪魔は優雅に裸体で立ち上がり、その笑顔に意地で震えを抑えるレオノールに近付き、スルッと細長い指でレオノールの服の上から胸を撫でた。
「ッッッ!! 」
「その服が擦れるたびに痺れるような疼きを生むようになった胸の突起にピアスを付けて引っ張るのもいいな。何度も執拗に突き上げられた秘孔の奥のいい部分に媚薬を塗り込んで、複数の男に見られながらそこを執拗に突き上げられるのも一興。今のレオノールならいい声で鳴く肉人形になりそうだ。」
「なっ、何で俺が、執拗に弄り倒された部分を知ってんだッ!? ……あ。」
ビクビクと反応するレオノールの胸をスルリと撫でながらニンマリと悪魔のような笑みをエリアスが浮かべる。
レオノールはエリアスにシュヴェルトに開拓された自身の恥ずかしい部分を知られたと思い込み、エリアスが掛けたカマにまんまと乗ってしまった。
「ふーん。動きが不自然だったからそうかなとは思ったけど本当に君は今、淫らで卑しい、服が擦れただけで熟れる堪え性のない乳首なんだ。へーえ、何度も本当にそこを突かれたんだ。淫らに鳴いてよがって、腰振って…。」
「な、な、な、な、何…何を言って…そん…、そんな訳。」
エリアスに舐め回すように身体を観察され、レオノールは恐怖と羞恥にシュヴェルトの後ろに隠れた。しかし、能天気なアホであるシュヴェルトはそんなレオノールを庇う事なく、
「おう、レオはちょっと触っただけで蕩けそうな顔して俺はとっても可愛いと思うぞ。」
と自慢するので、弄ったエリアスでさえ、レオノールに同情の目を向けていた。
「そんな目で俺をみるなぁぁああッ!! 」
「本当に君は君の父といい、男運がなさ過ぎて哀れだ。」
「それ以上、俺の義弟を弄らんでやってくれッ!! 見てるこっちが辛いッ。」
見兼ねて止めようとしたが、「えっ? 他人事だと思ってるの、君? 」とレオノールから標的が俺に変わるだけだった。
「君の秘孔を玩具と媚薬で弄り回して、男の性器を咥えないと満足出来ないメスに変えて第一王子に売ってやるのもいいな。」
「舐めるなッ!! ローレン殿下が俺を買う訳ないだろ。アイツ今、きちんと王子やってんだよ。」
「……君もどうしようもない阿保だね。そのまま売っても言い値で買ってくれるし、淫猥になった君なら国捨ててでも買うよ、あの人は。……まぁ、今度こそ逃げないように塔にでも監禁されんじゃない? ご愁傷様。」
「……は? そんな訳。」
「君はそういう意味で寵愛されてたんだけど…。本当にデーゲンって馬鹿ばっかだな。」
呆れてエリアスが溜息つく。
えっ? どういう意味!?
俺はアイツの元『友人』で……。
「??? えっ? 寵あ…え? 」
「ここまで来ると第一王子が憐憫だ。まさかこの俺がこんなに人の為に心を砕く日が来るとは……。」
わざとらしくエリアスが頭を抱える。
絶対心なんて砕いてない。
この黒薔薇は人を弄びたいだけだ。
「は……ハンッ!! 痛い所を突かれて話を逸らしたか!! 」
レオノールがシュヴェルトを盾にして凄む。まだ負けてないと。
いや、義弟よ。
子犬がキャンキャンッ負け犬の遠吠えしてるようにしか見えないぞ。
頑張ってるのはよく伝わってくるが。
「貴方はシュネー・フリューゲルに惚れ込んでいる。今も尚、貴方はその呪縛からは逃れられない。」
「成る程、余程快楽堕ちしたいらしい。」
「く…『クランクハイトの黒薔薇』が情けにゃい。手に入れたいものは無理矢理手に入れてきた貴方が指を咥えて見ていると。あー、情けないですね。」
「分かった。ニードルを持って来させよう。今すぐその淫らな胸の突起に風穴開けてやるよ。きちんと一番神経の通ってる部分にな。」
怯えつつ、舌がもつれつつもレオノールはエリアスに噛み付く。エリアスがチリンチリンとベッドの横のベルで誰かを呼ぶ。
マジで開ける気か!!
そろそろ限界だ。
逃げた方がいいと部屋を見渡す。
あの窓から逃げるか?
二階なら飛び降りても怪我はしない筈。
そう考えていると、この男からよく逃げ切っていた友の顔が浮かぶ。
シュネーはよくコイツから逃げてられてたな!!
スゲーよ、オマエッ!!
レオノールに逃げようと目で合図を送るが「まだだ。」と首を横に振る。
いや、このままじゃ風穴が開くぞ。アイツは本気だ。
「『従騎士』だろうが、クランクハイトの財力と人脈を持って閉じ込めてしまえば良いでしょう? そんなにシュネー・フリューゲルの想いを組む程好きなら『従騎士』の呪縛だろうが、抑え付けて、身体で縛り付けてやればいいでしょ。」
「何が言いたい。」
「貴方は『従騎士』の呪縛をどうにか出来なくても『刑受の森』に行かないように攫う事は出来た筈だ。それをしなかったのはあの子の心も欲しかったからだ。あの子を『クランクハイトの黒薔薇』でなく、エリアスとして真に愛していたからだ。これまで身体だけなら手に入れる機会は何度もあった。だが、貴方はしなかった。」
エリアスの顔に驚愕の色に染まる。そして澄ました顔が真っ赤に染まり上がる。
悪魔が初めて人の顔をしていた。
「貴方はあの子を手に入れる機会をみすみす逃すのですか? 手元に居れば何度だって機会はあるのに。」
レオノールがシュヴェルトに隠れるのをやめて畳み掛ける。エリアスは自身の手を呆然と眺めていた。そしてやがてその手を握り込むと悪魔は悪魔らしく嗤った。
「成る程、それも一興か。お前の手に乗ってやるよ、レオノール。……だが。」
トントンッと扉を叩く音が聞こえ、執事がエリアスに何かを渡し、帰っていった。
それは…それは小さく鋭い針だった。
「両乳首に穴は開けるけどね。牛の鼻に付いているような輪っかを付けてあげるよ。もう二度と服着れない程胸が育つように何度も緩急つけて引っ張ってあげる。」
クルクルとニードルを手で弄び、ゆっくりとこちらに近付いてくる。
最早その姿は悪魔ではない、魔王だ。
「シュヴェルト!! レオノールの抱えてその窓から飛び降りろッ。しんがりは俺が務める。」
パリンッとクランクハイト家の立派な窓を破って俺達は逃げた。
そして宣言通り、レオノールはシュネーを地獄から連れ戻して地獄にその手で落とす気だ。
「ごめん!! 帰ってきたら今度は僻地に逃げてくれッ!! 」
俺は情けなく、そう居ない友に謝った。
その後、レオノールがまた三週間部屋から出て来なくなった。
エリアスがあの後シュヴェルトに何か吹き込んだみたいだが、俺はもう何も知りたくない。
ただ、夜な夜な悲鳴染みた嬌声が騎士団寮に響き渡った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
なんちゃってキャラ紹介
ヴィルマ・イーリス
なんちゃって男爵令嬢。前世の記憶持ち。最近やっと目の前で繰り広げられるようになったBLに興味深々。あわよくば、レオノールに感想を聞きたい。
ジョゼフ・デーゲン
今回は途中から彼の視点。弟の所為で最近、頭が痛い騎士団長の息子。第一王子とは『従騎士』絡みで辛い過去がある。鈍感。
レオノール・デーゲン
元宰相の息子で、シュヴェルトの嫁(性別は男)。最近ずっと夫に振り回されてるツンデレ。ホラーは苦手。
シュヴェルト・デーゲン
最近嫁が可愛くてしょうがない。仲間想いだが、アホ。空気は読まないタイプ。
エリアス・クランクハイト
『クランクハイトの黒薔薇』で侯爵子息。その美貌と身体で男を籠絡して、貴族社会を裏から実権を握ろうとしている。自身の美貌に見向きもしないシュネーに執着している。シュネー以外には割と容赦ない。
アルヴィン・クリフト
平民出の騎士。レオノールが部屋で呆然としている姿を偶々扉の隙間から目にして、そっと扉を閉めた。
レオノールは初夜からシュヴェルトの部屋にこもっていた。
シュヴェルト曰く、関係は良好で、毎日が驚きと楽しさに溢れている。
アルヴィン曰く、チラリとシュヴェルトの部屋を扉から覗き込んだ時、一糸纏わぬ姿でベッドの上で俯き、呆然と膝を抱えていたとか。
ジョゼフ曰く、この前食堂に久々に降りてきた時、泣き腫らした目が痛々しい。動きがぎこちなく、動くたびにビクリと身体が震えるので何があったか怖くて聞けない。申し訳なさ過ぎて顔が見れないと、頭を抱えていた。
◇
「単刀直入に言うと私はこの件に一切関わらせてもらえなかったから証拠を提示する事は出来ない。」
やっと元気になったレオノールが開き直って一番聞きたくなかった言葉を言い放つ。
やっと進展すると思ったのに。
目に見えて落ち込む私達をレオノールがしてやったりと今までにない、嬉しそうな顔で喜ぶ。
お前なぞ、ベッドの住人になってしまえ。そして私にその感想を論文にして提出しろ。
落ち込む私達にコホンッとレオノールが咳払いし、注目を集める。
「お父…宰相は、もう証拠は処分している筈です。なら、毒を買った経路と間者を捕まえた経緯を吐かせればいい。」
「レオノールなら引き出せるのか? 」
「私は無理だ。拐われる形で家から出て行ったしな。……だが、それが出来る男はよく知っている。その上、その男はあのシュネー・フリューゲルに惚れ込んでいる。」
レオノールがニンマリと嗤う。
その目は殺る気に満ち溢れている。この人は確実にシュネー達を救ってくれる。そしてその後地獄に突き落とす気だ。
どんなに酷い目にあったのやら。
◇
咲き誇る薔薇が有名な屋敷の庭園。
まだ、薔薇が咲く季節ではないのでその美しい庭園の姿を見る事は出来ないが、これから三人は年中咲き誇っている薔薇に会いに行く。
「シュネー、嫌がるだろうな。」
ジョセフは今は隣にいない友を想い、思わずそう吐露した。
義弟レオノールに連れてこられてパーティでもお茶会でもないのに来てしまったクランクハイト侯爵家。義弟の隣で緊張感もなく、上機嫌で鼻歌を歌っている愚弟を俺は殴りたい。
「交渉は私がやります。もしもの時は守ってください。」
ー もしもの時って何?
義弟が眼鏡をクイッと上げて、クランクハイト家の玄関を潜っていく。
◇
薔薇の香りが鼻腔を擽る。
黒を基調としたクラシックな部屋の中。真ん中にはこれまた黒一色の天蓋付きベッドが配置されており、陶器のようにシミひとつない白い肌をした『クランクハイトの黒薔薇』が一糸纏わぬ姿で眠っていた。
人の気配に怪訝そうな表情を浮かべ、顔をこちらに向ける。そんな姿からも醸し出される色香は半端なく、思わずその姿に頰を染めた。
「何? 俺、調子悪いんだけど。」
「嘘付け。シュネー・フリューゲルを取り逃がして不貞腐れているだけでしょう。貴方は。」
美しい黒薔薇は自身の裸体を隠す事なく、ベッドのヘリに座り、脚を組む。まるで見られて恥ずかしいものなんてないとでも言うように。
「さっさと帰ってくれない? 俺、君達に興味ないんだよ。無駄な労力使わせないでくれない? 」
「本当に帰って良いんです? シュネー・フリューゲルを取り戻せるとしても? 」
ピクリッとエリアスの片眉が動く。しかし、ハンッと馬鹿にしたように嗤った。
「取り戻せる? 取り戻して俺に何の利益が? あの子はリヒトのモノに成り下がったのに? …それにしても君がシュネー達を救いたいってどういう風の吹き回し? 」
「本当に貴方は捻じ曲がってますね。………私にも理由があるんですよ。」
二人が薄ら寒い笑みでニコニコと笑い合う。
部屋の温度が氷点下まで下がる。
俺はここに居たくない。
しかしそんな空気の中、愚弟は楽しそうでふと、牽制しあうレオノールの肩を抱き寄せた。
「あっ、そう言えば!! まだ、エリアスに報告してなかったよな。俺達結婚したんだ。卒業したら結婚式挙げるから来いよなッ!! 」
いきなりの結婚報告にあのエリアスが一瞬呆けた。そしてレオノールが目に見えて狼狽える。
お前は何をしに来たんだ、愚弟よ。
「……成る程、初恋拗らせたツンデレがついに陥落したのか。宰相になったらそのネタで揺すって、グズグズになるまでいたぶってやろうと思ってたのに残念だ。」
「「………。」」
レオノールの表情筋がヒクヒクと痙攣している。もう既に大ダメージを負っている。必死に耐えているがきっと一番この部屋から逃げ出したいのはレオノールだろう。
しかしレオノールは耐える。
ニッコリと笑顔を作り、エリアスをしっかりと見やる。
「宰相を『クランクハイトの黒薔薇』として懐柔し、情報を聞き出してください。そうすれば貴方のシュネー・フリューゲルは貴方の手中に戻ってくる。」
「しつこいな。『刑受の森』から帰って来てもあの子はそれでもリヒトのモノだろう? 」
キッとエリアスがレオノールを睨む。
「あの子は…、あの子はリヒトがいる限り俺の手に落ちる事はない。あの馬鹿王子を守る為に俺の手すら払いのけて見せた。」
「成る程、だから不貞腐れていると。」
フンッとレオノールが鼻で嗤う。
どうやらレオノールの方が優勢のようでエリアスが苦虫噛み潰したような顔をしている。
しかし、エリアス顔がスゥッと暗くなっていく。ドス黒く染まっていくオーラを俺には見えた気がした。
何か不味いものを踏み抜いたんじゃないか義弟よ。
「あのさぁ。ここ、何処か分かってる? ここは俺の城なんだよね。俺が君達を捕らえるのって造作もないんだよ。君達を捕らえて調教するっていうのもアリだなぁ。」
ニッコリと悪魔が邪悪な笑みを浮かべる。
そして悪魔は優雅に裸体で立ち上がり、その笑顔に意地で震えを抑えるレオノールに近付き、スルッと細長い指でレオノールの服の上から胸を撫でた。
「ッッッ!! 」
「その服が擦れるたびに痺れるような疼きを生むようになった胸の突起にピアスを付けて引っ張るのもいいな。何度も執拗に突き上げられた秘孔の奥のいい部分に媚薬を塗り込んで、複数の男に見られながらそこを執拗に突き上げられるのも一興。今のレオノールならいい声で鳴く肉人形になりそうだ。」
「なっ、何で俺が、執拗に弄り倒された部分を知ってんだッ!? ……あ。」
ビクビクと反応するレオノールの胸をスルリと撫でながらニンマリと悪魔のような笑みをエリアスが浮かべる。
レオノールはエリアスにシュヴェルトに開拓された自身の恥ずかしい部分を知られたと思い込み、エリアスが掛けたカマにまんまと乗ってしまった。
「ふーん。動きが不自然だったからそうかなとは思ったけど本当に君は今、淫らで卑しい、服が擦れただけで熟れる堪え性のない乳首なんだ。へーえ、何度も本当にそこを突かれたんだ。淫らに鳴いてよがって、腰振って…。」
「な、な、な、な、何…何を言って…そん…、そんな訳。」
エリアスに舐め回すように身体を観察され、レオノールは恐怖と羞恥にシュヴェルトの後ろに隠れた。しかし、能天気なアホであるシュヴェルトはそんなレオノールを庇う事なく、
「おう、レオはちょっと触っただけで蕩けそうな顔して俺はとっても可愛いと思うぞ。」
と自慢するので、弄ったエリアスでさえ、レオノールに同情の目を向けていた。
「そんな目で俺をみるなぁぁああッ!! 」
「本当に君は君の父といい、男運がなさ過ぎて哀れだ。」
「それ以上、俺の義弟を弄らんでやってくれッ!! 見てるこっちが辛いッ。」
見兼ねて止めようとしたが、「えっ? 他人事だと思ってるの、君? 」とレオノールから標的が俺に変わるだけだった。
「君の秘孔を玩具と媚薬で弄り回して、男の性器を咥えないと満足出来ないメスに変えて第一王子に売ってやるのもいいな。」
「舐めるなッ!! ローレン殿下が俺を買う訳ないだろ。アイツ今、きちんと王子やってんだよ。」
「……君もどうしようもない阿保だね。そのまま売っても言い値で買ってくれるし、淫猥になった君なら国捨ててでも買うよ、あの人は。……まぁ、今度こそ逃げないように塔にでも監禁されんじゃない? ご愁傷様。」
「……は? そんな訳。」
「君はそういう意味で寵愛されてたんだけど…。本当にデーゲンって馬鹿ばっかだな。」
呆れてエリアスが溜息つく。
えっ? どういう意味!?
俺はアイツの元『友人』で……。
「??? えっ? 寵あ…え? 」
「ここまで来ると第一王子が憐憫だ。まさかこの俺がこんなに人の為に心を砕く日が来るとは……。」
わざとらしくエリアスが頭を抱える。
絶対心なんて砕いてない。
この黒薔薇は人を弄びたいだけだ。
「は……ハンッ!! 痛い所を突かれて話を逸らしたか!! 」
レオノールがシュヴェルトを盾にして凄む。まだ負けてないと。
いや、義弟よ。
子犬がキャンキャンッ負け犬の遠吠えしてるようにしか見えないぞ。
頑張ってるのはよく伝わってくるが。
「貴方はシュネー・フリューゲルに惚れ込んでいる。今も尚、貴方はその呪縛からは逃れられない。」
「成る程、余程快楽堕ちしたいらしい。」
「く…『クランクハイトの黒薔薇』が情けにゃい。手に入れたいものは無理矢理手に入れてきた貴方が指を咥えて見ていると。あー、情けないですね。」
「分かった。ニードルを持って来させよう。今すぐその淫らな胸の突起に風穴開けてやるよ。きちんと一番神経の通ってる部分にな。」
怯えつつ、舌がもつれつつもレオノールはエリアスに噛み付く。エリアスがチリンチリンとベッドの横のベルで誰かを呼ぶ。
マジで開ける気か!!
そろそろ限界だ。
逃げた方がいいと部屋を見渡す。
あの窓から逃げるか?
二階なら飛び降りても怪我はしない筈。
そう考えていると、この男からよく逃げ切っていた友の顔が浮かぶ。
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スゲーよ、オマエッ!!
レオノールに逃げようと目で合図を送るが「まだだ。」と首を横に振る。
いや、このままじゃ風穴が開くぞ。アイツは本気だ。
「『従騎士』だろうが、クランクハイトの財力と人脈を持って閉じ込めてしまえば良いでしょう? そんなにシュネー・フリューゲルの想いを組む程好きなら『従騎士』の呪縛だろうが、抑え付けて、身体で縛り付けてやればいいでしょ。」
「何が言いたい。」
「貴方は『従騎士』の呪縛をどうにか出来なくても『刑受の森』に行かないように攫う事は出来た筈だ。それをしなかったのはあの子の心も欲しかったからだ。あの子を『クランクハイトの黒薔薇』でなく、エリアスとして真に愛していたからだ。これまで身体だけなら手に入れる機会は何度もあった。だが、貴方はしなかった。」
エリアスの顔に驚愕の色に染まる。そして澄ました顔が真っ赤に染まり上がる。
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「貴方はあの子を手に入れる機会をみすみす逃すのですか? 手元に居れば何度だって機会はあるのに。」
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「成る程、それも一興か。お前の手に乗ってやるよ、レオノール。……だが。」
トントンッと扉を叩く音が聞こえ、執事がエリアスに何かを渡し、帰っていった。
それは…それは小さく鋭い針だった。
「両乳首に穴は開けるけどね。牛の鼻に付いているような輪っかを付けてあげるよ。もう二度と服着れない程胸が育つように何度も緩急つけて引っ張ってあげる。」
クルクルとニードルを手で弄び、ゆっくりとこちらに近付いてくる。
最早その姿は悪魔ではない、魔王だ。
「シュヴェルト!! レオノールの抱えてその窓から飛び降りろッ。しんがりは俺が務める。」
パリンッとクランクハイト家の立派な窓を破って俺達は逃げた。
そして宣言通り、レオノールはシュネーを地獄から連れ戻して地獄にその手で落とす気だ。
「ごめん!! 帰ってきたら今度は僻地に逃げてくれッ!! 」
俺は情けなく、そう居ない友に謝った。
その後、レオノールがまた三週間部屋から出て来なくなった。
エリアスがあの後シュヴェルトに何か吹き込んだみたいだが、俺はもう何も知りたくない。
ただ、夜な夜な悲鳴染みた嬌声が騎士団寮に響き渡った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
なんちゃってキャラ紹介
ヴィルマ・イーリス
なんちゃって男爵令嬢。前世の記憶持ち。最近やっと目の前で繰り広げられるようになったBLに興味深々。あわよくば、レオノールに感想を聞きたい。
ジョゼフ・デーゲン
今回は途中から彼の視点。弟の所為で最近、頭が痛い騎士団長の息子。第一王子とは『従騎士』絡みで辛い過去がある。鈍感。
レオノール・デーゲン
元宰相の息子で、シュヴェルトの嫁(性別は男)。最近ずっと夫に振り回されてるツンデレ。ホラーは苦手。
シュヴェルト・デーゲン
最近嫁が可愛くてしょうがない。仲間想いだが、アホ。空気は読まないタイプ。
エリアス・クランクハイト
『クランクハイトの黒薔薇』で侯爵子息。その美貌と身体で男を籠絡して、貴族社会を裏から実権を握ろうとしている。自身の美貌に見向きもしないシュネーに執着している。シュネー以外には割と容赦ない。
アルヴィン・クリフト
平民出の騎士。レオノールが部屋で呆然としている姿を偶々扉の隙間から目にして、そっと扉を閉めた。
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すぐに父の愛人が後妻となり娘を連れて現れ、我が物顔に侯爵家で暮らし始め、リリーの力を娘の力と偽って娘は王子の婚約者に登り詰める。
実は隣国の王子だったチャーリーを助けるために侯爵家に忍び込んでいた騎士に助けられ、二人は家から逃げて隣国へ…。
2人の幸せの始まりであり、侯爵家にいた者たちの破滅の始まりだった。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
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「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕
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2023/01/27 完結!全117話
【強面の凄腕冒険者×心に傷を抱えた支援役】
孤児院出身のライルは田舎町オクトの冒険者ギルドで下働きをしている20歳の青年。過去に冒険者から騙されたり酷い目に遭わされた経験があり、本来の仕事である支援役[サポーター]業から遠退いていた。
しかし、とある理由から支援を必要とする冒険者を紹介され、久々にパーティーを組むことに。
その冒険者ゼルドは顔に目立つ傷があり、大柄で無口なため周りから恐れられていた。ライルも最初のうちは怯えていたが、強面の外見に似合わず優しくて礼儀正しい彼に次第に打ち解けていった。
組んで何度目かのダンジョン探索中、身を呈してライルを守った際にゼルドの鎧が破損。代わりに発見した鎧を装備したら脱げなくなってしまう。責任を感じたライルは、彼が少しでも快適に過ごせるよう今まで以上に世話を焼くように。
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鎧を外すためのアイテムを探しながら、少しずつ距離を縮めていく冒険者二人の物語。
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無自覚&両片想い状態でイチャイチャしている様子をお楽しみください。
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