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罪人だよ?

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「っとこうしてオイラはここに送られたのさぁ。」

「……ネズミ。」

折れた足を固定し、止血されながらネズミは話す。まるでそれが物語であるかのように。


「どうせ、リヒッちゃんも冤罪だろ? リヒッちゃんもシュネッちも犯罪に走る性根じゃあない。」

ネズミが朗らかに笑う。
ネズミの話を聞いていると、どうやらネズミも自分の命に価値を見出せず、死ぬ為にここに来たのだろう。

まるで処断されていた時の僕のように。

「僕がネズミに似てるから助けてくれたの? 」

ネズミがその問いにカラカラと笑う。
いや、そこ、笑う所?

「リヒッちゃんって騙されやすいねぇ。嘘よ。嘘。オイラが素直に自身の思い出話に花を咲かせると思うてか? 」

「えっ!? あれだけ長々と語って嘘!? まさか全部!? 」

してやったりという顔でネズミが笑う。

何でこの状況でそんな事するかな!? 
え? まさか長々と真剣に話を聞く僕を弄り倒したかっただけ?

「ひ、酷い。」

「リヒッちゃん。オイラ罪人よ。そこんとこ忘れちゃあダメ。」

崖から落としてしまおうかと一瞬思案したが、ネズミが頭上を見上げて「おお!! 」と驚きの声を上げた。

シュネーが身体に巻いた縄を使い、崖を少しずつ蹴りながら降りてくる。そしてこちらを見つけると腰が抜けそうな程安堵した表情を浮かべた。

「良かった…。」

ネズミはそんなシュネーを見て、ニヤニヤと笑い、「シュネッち、一体何を捨ててここまで来たんでい? 」と早速、弄る。

安堵していたシュネーの表情に一瞬顔色が悪くなり、それから怒りの表情が浮かんだ。

「…それ以上聞くなら捨て置くぞ。」

「一体、何を支払っちゃったの…。シュネー。」

シュネーは何も答えない。
本当にこの子は一体何を支払っちゃったの? 


するりとシュネーが僕等の元に降りてきた。少し汗ばんだシュネーが僕の目の前に立つと風に乗ってふんわりとお日様みたいな匂いがした。

心がホッとする安心するシュネーの匂いだ。

落ちてから数時間しかおそらく経っていない。だけど、シュネーにもう一度会えた事が嬉しくて抱きしめてしまいたくなる。でも、今は怪我をしているネズミを早く上げてもらわなければいけない。

「シュネー、ネズミを…。」

「先にリヒッちゃんを上げて。」

ネズミが僕の言葉を制して僕に行くように促す。そんな僕達の姿を見て、シュネーがはぁーと一つ溜息をついた。

「幾らリヒトが大事でも、怪我人を後回しにする程聞き分けがない訳じゃない。」

「違うよ、シュネッち。」

怪我を負っているのに身体を起こして、シュネーの身体に巻いてある縄を僕にも巻く。

「大怪我負ってるオイラが先に上がると残ったリヒッちゃんも大怪我している足手纏いと判断されて助けてもらえない可能性があるんでい。だからオイラは後。」

ネズミの意見にシュネーが顔を顰める。「これだから罪人は。」と溜息をまたついた。

ピュイッ

シュネーが指笛を吹くと縄が徐々に引っ張られ、身体が上がっていく。シュネーがギュッと僕の身体を抱き寄せ、身体が崖にぶつからないように足を使って引き上げるのを補助する。

「大人しく待ってろ。」

「カッコいいね、シュネッち。じゃあ、引き上げてもらう際にじぃっくり何を捨てちゃったか聞かせてもらおっと。」

「……落とすぞ。」


引き上げてもらうとそこにはクジャクとキツネ、そして他の罪人達が縄を引っ張って僕達をあげてくれていた。

最初はクジャクとキツネ合わせて七人だったらしい。しかし、シュネーが崖に降りるたび、七人が何時の間にかに十七人。十七人が何時の間にかに二十七人と、無駄な人員が増えていた。

「……やられた。」

シュネーがそんな彼等を見て頭を抱えて項垂れていた。

彼等に支払う報酬を聞いて流石に可哀想に思ったネズミが隠し持ってた秘蔵の肉で何とかしてもらえるように交渉していた。

キツネはかなり渋ったが、シュネーに突き落とされそうになって泣く泣く頷いてた。
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