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王都組②
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俺にはこの世界で大っ嫌いな人間が三人いる。
一人は自身だけが虐げられ傀儡としてしか生きられないと諦めた男。
もう一人は俺達と同じで幸せにはなれない側の人間なのにそれでも足掻こうとする男。
そしてもう一人は……。
◇
傀儡が人間になろうとした。
ゲルダという男に惚れ込み、幸せにはなれないと分かっていた筈なのに足掻こうとした。まるであの気に入らない白髪の男のように決められた運命から逃れようと足掻く。
だから傀儡は廃棄された。
壊れた人形がゴミ箱に捨てられるようにあっさりと操り手に逆らったら傀儡は捨てられた。
当たり前の事だ。
分かりきっていた事だ。
傀儡は傀儡にしかなれない。
糸を切られたらもう終わり。
それなのにあの白髪の男は本当に頭にくる。自身の運命だけでなく、傲慢にも傀儡の運命にも待ったをかけて。
今思えば最初から気に食わない男だった。俺よりも二つも下な癖に俺よりも多くのものを持っていた。
初めて会った王宮の温室にエリアスに魅入られてやって来た白い髪と青白い肌の小さな少年。
悪魔と狂人に魅入られた哀れな何の力も持たない子羊。
破滅の未来しかない少年。
俺とリヒトと同じ、逃れられない運命を辿る者。
あの馬鹿な王子はどうせ俺をリヒト自身を宰相が操る為の『糸』だと思っていただろう。
正解だが半分不正解。
その『糸』だって宰相の前では傀儡にすぎない。
幼い頃から俺が思い通りに動かないと宰相は責めた。「お前は本当にワシの息子か? 」と何度も責め立てられた。
一人称を『俺』と使うだけで容赦なく頰を叩かれた。
俺は宰相が怖い。
実の血縁である筈のあの人がこの世界で一番怖い。
だから宰相が求める傀儡でなければいけない。そうでなければ生きていけない。
家では宰相媚びへつらい。
外では気位高く誰にも揺らがない優秀な時期宰相でいなければならない。
◇
「くそッ、あの白騎士めッ!! 」
宰相が酒を煽り、荒れている。
第二王子の処断の日もあの白髪の男に一杯も二杯も食わされて荒れていた。今日は極刑の日だから邪魔な傀儡と白髪の男が消え、上機嫌かと思いきや、また一杯食わされたらしい。
空の酒瓶が俺の横を通過し、壁に叩きつけられて粉々に砕けた。
「レオノールッ!! それを片付けておけッ!!! 」
「はい…お父様。」
早く片付けないと宰相が更に機嫌が悪くなるので、割れた酒瓶の破片を手で拾い上げる。破片が刺さり、指からは赤いものが流れたが、それでも拾い続けた。
「愚鈍な奴め。それでもワシの息子かッ!! ワシの考えを読み取り、もっと事前に動けんのかッ!!! 」
「申し訳ございません。お父様。」
手が震える。
酒瓶の破片に映る俺の顔は情けない表情をしていた。
あの白髪の男も何度かこんな顔をしていた。でもあの白髪の男は自らに鞭を打ち、自身にとって恐怖の化身である筈のフェルゼンに向かいたった。
怯えて震えて終わりでなく、怯える自身に打ち勝って立ち向かっていた。
ー そういう所が気に食わなかった。
立ち向かうだけの力も権力もない癖に、自らの力で切り開く。
諦めようとは一切しない。
どれだけボロボロになろうが貫く。
強い意志を持ったムカつく男。
俺にないものを全て持っている男。
平然と人を惹きつけ、運命を捻じ伏せていく男。
俺の欲しいもの全て持っている男。
◇
「よー!! レオノール。久し振りだなッ!! 」
ニンッと能天気な笑みを浮かべながら能天気な男がいきなり、家に現れた。
挨拶がわりにバシバシッと人の肩を叩き、あまりに声がデカくて煩いので何事かと思って出て来た宰相に「お邪魔してまーす。」と声を掛けたアホ。
ー 何で急にッ!!
宰相の機嫌が更に悪くなり、俺は慌ててシュヴェルトを引っ張って俺の部屋に逃げ込んだ。
「なっ…なっ、何してんだこのアホッ!! 」
俺がブチ切れているのにこのアホは「宰相、顔が赤かったぞ。熱があるんじゃないか? 」と的外れな心配をして来た。
しかもくつろげとは言っていないのに勝手に人のベッドの上に座り、「お前も来いよ。」と言わんばかりに自身の隣を叩く。
ー ここは俺の部屋だそ、自由人!!
そう苛立ちを込めてキッとシュヴェルトを睨んだが、腕を掴まれ無理矢理隣に座らせられた。
お前は昔っからそういう奴だな。あー、ムカつく。
『お前如きが話し掛けるな。』
そう昔あまりに馴れ馴れしく話してくるからキツく拒絶した事があるのだが、
『いや、俺はめげるって事知らないからそんなの気にせず行くよ? 』
とケロっとした顔で言われた時はどうしたものかと頭を抱えた。こう言えば大体のアホは俺から離れていくのにコイツは…。
思わず溜息をつく。
コイツは一度こうと決めるとそれが達成されるまで諦めない。そして態々ここに来たという事は俺に何かをさせる気だ。
「……帰りなさい。」
「なぁ、相棒達助けたいから宰相がやった悪事の証拠くれない? あ、出来れば手伝って欲しい。無実の罪を晴らす為にさ。」
「馬鹿だ馬鹿だとは思っていましたが、アンタは本当にどうしようもない馬鹿だッ!! 」
何言ってんだコイツ!?
宰相の悪事ってもしかして宰相がリヒトを陥れた事を知っているのか? この能天気なアホが!?
そしてそれが分かっていたとして黒幕の息子に助けを乞うって。
何考えてんだコイツはッ!?
あまりにアホ過ぎて頭がクラクラして来た。
能天気なアホが真剣な眼差しで本気で助けを乞うている。
アホッ!!
「何で私がそんな事…。」
「よろしく頼むな!! 」
「……何故、俺が助ける前提でオマエの頭は回ってんだッ!! ふざけんな!!! 」
何なんだコイツは!?
キラキラと絶対俺が受けてくれると信じ切った目を向けてくる。
いや、だから、何で俺が助ける前提なんだ!?
必死に沸騰した頭を冷やす。
馬鹿か。アホに感情的になっても意味がない。
落ち着け、俺。
「宰相が……父がリヒトを陥れたとして、何故、俺が実の父を裏切らなければならないんだ。」
コイツはアホでも人の気持ちを汲めない奴ではない。きちんと落ち着いて話せば分かる筈。
するとキョトンとシュヴェルトがさも「えっ、何で? 」と言いたげな顔を浮かべた。
そしてうーんと無い頭を捻る。
「でもさ、レオノールを大切にしてくれない父親に味方する必要ってある? 」
シュヴェルトが曇りのない瞳でさも不思議そうにそう言った。その目はまるで全てを見透かしているように澄んでいて、心臓がドキリッと跳ね上がった。
「だってさ。こんな重っ苦しい空気の家さ、俺はヤダよ。しかもお前が怪我してんのに誰も何もしないじゃん。そんな冷たい奴らをレオノールが庇う必要あんの? 」
「これは痛いよな。」と眉間に皺を寄せて、俺の手を壊れ易い物を扱うように優しく触る。自身でも忘れていた酒瓶の破片を拾った時に付いた傷を丁寧に出したハンカチで包む。
ー 昔からお前はそういう奴だよ。
初めて会った時もお前は人好きの笑顔であんな陰謀渦巻く『友人』関係の中でも何時だって笑ってた。
仲良くする気なんてないのに。
お前も手駒の一つで傀儡の王子を守る為に選ばれたおもちゃの剣。
でもそれすら分からない…いや、分かる気がないお前は真っ直ぐで。
俺の嫌味すら通じず、あまつさえ…お前は…。
「だから何だッ!! 大切にしてもらえないから父を裏切る? 父に逆らってまで彼奴等を助けろと? 俺が? 何故? 」
強く手を握り込むと血が傷口から滲み出す。
そうだ。
俺に何のメリットもないじゃないか。寧ろ破滅に自身で向かうようなものだ。
そもそも俺は二人が大っ嫌いなのだ。
それなのに大っ嫌いな二人を何で俺が助けなきゃならない。特にあのシュネー・フリューゲルを何故俺が?
お前が大好きなあの男をリスクを賭して俺が助けなければいけない。
「そんなに相棒が好きかッ!! それならお前もお優しいお前の相棒様と同じで『従騎士』になれば良かっただろうッ。」
あのシュネー・フリューゲルがシュヴェルトの腕の中で泣きじゃくる姿が記憶から掘り起こされる。あの後、シュヴェルトはよくシュネー・フリューゲルに付き添うようになった。
大事に大事に傷付かないようにシュネー・フリューゲルを守るように。
「おう!! 俺は相棒が大好きだ。だから力になってやりたい。俺は相棒を信じてるから今は近くで守るよりこっちで早く帰れるようにしてやりたいんだ。」
淀みなく、ハッキリとそう言い切る。
お前は本当にシュネー・フリューゲルが大好きだよな。
シュネー・フリューゲルといる時のお前は俺といるより幸せそうで。
それがまたムカつく。
「俺は手伝わない。俺はお前の相棒が嫌いだ。そんなに助けたいなら…。」
思わず、フンッと鼻で笑う。
自分で自分が馬鹿馬鹿しくて。
もういい。
そもそも叶わない恋だ。
だったら……俺自身の手で滅茶苦茶にしてやる。アイツに負けるくらいなら自分の手で…。
「なら俺を抱いてみろよ。出来ないだろ? だってお前は相棒が好きだもんな? 」
これでお情けで抱いてくれるならそれでもいい。
幻滅して去っていくならそれももう構わない。俺の欲しいもの何でも持ってるアイツに負けて泣くくらいなら。俺が怖い宰相にも歯向かえてしまうアイツにこれ以上負けるくらいなら。
「おー、それでいいなら幾らでも。」
ー は?
満面の笑みでシュヴェルトが一考する事もなく、簡単に了承する。
「相棒達ともたまにやってるからラクショーだぞ。」
ー え!?
ポカンと開いた口が塞がらない。
えっ? 俺を抱けるのお前?
シュネー・フリューゲル達ともたまに抱き合って…え?
そんな…騎士団はそんなただれた関係なのか!?
呆然としているとシュヴェルトは俺をグッと引き寄せ………ベッドに組み敷かれる事なく、ただ包み込むように抱擁した。
「おー、よしよし。」
ポンポンと背中を優しく撫でる。まるで子供をあやすように。
ー そうじゃないわッ!!
状況が上手く飲み込めず、呆然とされるがままにあやされる。
は?……え? 何でこうなった…。
ーーーーーーーーーーーーーーー
なんちゃってキャラ紹介
レオノール・シルト
宰相の息子。時期宰相と言われているツンデレ眼鏡っ子。
シュヴェルト・デーゲン
騎士団長の息子で次男。いい奴だがアホ。
宰相
ラスボス。色々やらかしちゃってるオッサン。
一人は自身だけが虐げられ傀儡としてしか生きられないと諦めた男。
もう一人は俺達と同じで幸せにはなれない側の人間なのにそれでも足掻こうとする男。
そしてもう一人は……。
◇
傀儡が人間になろうとした。
ゲルダという男に惚れ込み、幸せにはなれないと分かっていた筈なのに足掻こうとした。まるであの気に入らない白髪の男のように決められた運命から逃れようと足掻く。
だから傀儡は廃棄された。
壊れた人形がゴミ箱に捨てられるようにあっさりと操り手に逆らったら傀儡は捨てられた。
当たり前の事だ。
分かりきっていた事だ。
傀儡は傀儡にしかなれない。
糸を切られたらもう終わり。
それなのにあの白髪の男は本当に頭にくる。自身の運命だけでなく、傲慢にも傀儡の運命にも待ったをかけて。
今思えば最初から気に食わない男だった。俺よりも二つも下な癖に俺よりも多くのものを持っていた。
初めて会った王宮の温室にエリアスに魅入られてやって来た白い髪と青白い肌の小さな少年。
悪魔と狂人に魅入られた哀れな何の力も持たない子羊。
破滅の未来しかない少年。
俺とリヒトと同じ、逃れられない運命を辿る者。
あの馬鹿な王子はどうせ俺をリヒト自身を宰相が操る為の『糸』だと思っていただろう。
正解だが半分不正解。
その『糸』だって宰相の前では傀儡にすぎない。
幼い頃から俺が思い通りに動かないと宰相は責めた。「お前は本当にワシの息子か? 」と何度も責め立てられた。
一人称を『俺』と使うだけで容赦なく頰を叩かれた。
俺は宰相が怖い。
実の血縁である筈のあの人がこの世界で一番怖い。
だから宰相が求める傀儡でなければいけない。そうでなければ生きていけない。
家では宰相媚びへつらい。
外では気位高く誰にも揺らがない優秀な時期宰相でいなければならない。
◇
「くそッ、あの白騎士めッ!! 」
宰相が酒を煽り、荒れている。
第二王子の処断の日もあの白髪の男に一杯も二杯も食わされて荒れていた。今日は極刑の日だから邪魔な傀儡と白髪の男が消え、上機嫌かと思いきや、また一杯食わされたらしい。
空の酒瓶が俺の横を通過し、壁に叩きつけられて粉々に砕けた。
「レオノールッ!! それを片付けておけッ!!! 」
「はい…お父様。」
早く片付けないと宰相が更に機嫌が悪くなるので、割れた酒瓶の破片を手で拾い上げる。破片が刺さり、指からは赤いものが流れたが、それでも拾い続けた。
「愚鈍な奴め。それでもワシの息子かッ!! ワシの考えを読み取り、もっと事前に動けんのかッ!!! 」
「申し訳ございません。お父様。」
手が震える。
酒瓶の破片に映る俺の顔は情けない表情をしていた。
あの白髪の男も何度かこんな顔をしていた。でもあの白髪の男は自らに鞭を打ち、自身にとって恐怖の化身である筈のフェルゼンに向かいたった。
怯えて震えて終わりでなく、怯える自身に打ち勝って立ち向かっていた。
ー そういう所が気に食わなかった。
立ち向かうだけの力も権力もない癖に、自らの力で切り開く。
諦めようとは一切しない。
どれだけボロボロになろうが貫く。
強い意志を持ったムカつく男。
俺にないものを全て持っている男。
平然と人を惹きつけ、運命を捻じ伏せていく男。
俺の欲しいもの全て持っている男。
◇
「よー!! レオノール。久し振りだなッ!! 」
ニンッと能天気な笑みを浮かべながら能天気な男がいきなり、家に現れた。
挨拶がわりにバシバシッと人の肩を叩き、あまりに声がデカくて煩いので何事かと思って出て来た宰相に「お邪魔してまーす。」と声を掛けたアホ。
ー 何で急にッ!!
宰相の機嫌が更に悪くなり、俺は慌ててシュヴェルトを引っ張って俺の部屋に逃げ込んだ。
「なっ…なっ、何してんだこのアホッ!! 」
俺がブチ切れているのにこのアホは「宰相、顔が赤かったぞ。熱があるんじゃないか? 」と的外れな心配をして来た。
しかもくつろげとは言っていないのに勝手に人のベッドの上に座り、「お前も来いよ。」と言わんばかりに自身の隣を叩く。
ー ここは俺の部屋だそ、自由人!!
そう苛立ちを込めてキッとシュヴェルトを睨んだが、腕を掴まれ無理矢理隣に座らせられた。
お前は昔っからそういう奴だな。あー、ムカつく。
『お前如きが話し掛けるな。』
そう昔あまりに馴れ馴れしく話してくるからキツく拒絶した事があるのだが、
『いや、俺はめげるって事知らないからそんなの気にせず行くよ? 』
とケロっとした顔で言われた時はどうしたものかと頭を抱えた。こう言えば大体のアホは俺から離れていくのにコイツは…。
思わず溜息をつく。
コイツは一度こうと決めるとそれが達成されるまで諦めない。そして態々ここに来たという事は俺に何かをさせる気だ。
「……帰りなさい。」
「なぁ、相棒達助けたいから宰相がやった悪事の証拠くれない? あ、出来れば手伝って欲しい。無実の罪を晴らす為にさ。」
「馬鹿だ馬鹿だとは思っていましたが、アンタは本当にどうしようもない馬鹿だッ!! 」
何言ってんだコイツ!?
宰相の悪事ってもしかして宰相がリヒトを陥れた事を知っているのか? この能天気なアホが!?
そしてそれが分かっていたとして黒幕の息子に助けを乞うって。
何考えてんだコイツはッ!?
あまりにアホ過ぎて頭がクラクラして来た。
能天気なアホが真剣な眼差しで本気で助けを乞うている。
アホッ!!
「何で私がそんな事…。」
「よろしく頼むな!! 」
「……何故、俺が助ける前提でオマエの頭は回ってんだッ!! ふざけんな!!! 」
何なんだコイツは!?
キラキラと絶対俺が受けてくれると信じ切った目を向けてくる。
いや、だから、何で俺が助ける前提なんだ!?
必死に沸騰した頭を冷やす。
馬鹿か。アホに感情的になっても意味がない。
落ち着け、俺。
「宰相が……父がリヒトを陥れたとして、何故、俺が実の父を裏切らなければならないんだ。」
コイツはアホでも人の気持ちを汲めない奴ではない。きちんと落ち着いて話せば分かる筈。
するとキョトンとシュヴェルトがさも「えっ、何で? 」と言いたげな顔を浮かべた。
そしてうーんと無い頭を捻る。
「でもさ、レオノールを大切にしてくれない父親に味方する必要ってある? 」
シュヴェルトが曇りのない瞳でさも不思議そうにそう言った。その目はまるで全てを見透かしているように澄んでいて、心臓がドキリッと跳ね上がった。
「だってさ。こんな重っ苦しい空気の家さ、俺はヤダよ。しかもお前が怪我してんのに誰も何もしないじゃん。そんな冷たい奴らをレオノールが庇う必要あんの? 」
「これは痛いよな。」と眉間に皺を寄せて、俺の手を壊れ易い物を扱うように優しく触る。自身でも忘れていた酒瓶の破片を拾った時に付いた傷を丁寧に出したハンカチで包む。
ー 昔からお前はそういう奴だよ。
初めて会った時もお前は人好きの笑顔であんな陰謀渦巻く『友人』関係の中でも何時だって笑ってた。
仲良くする気なんてないのに。
お前も手駒の一つで傀儡の王子を守る為に選ばれたおもちゃの剣。
でもそれすら分からない…いや、分かる気がないお前は真っ直ぐで。
俺の嫌味すら通じず、あまつさえ…お前は…。
「だから何だッ!! 大切にしてもらえないから父を裏切る? 父に逆らってまで彼奴等を助けろと? 俺が? 何故? 」
強く手を握り込むと血が傷口から滲み出す。
そうだ。
俺に何のメリットもないじゃないか。寧ろ破滅に自身で向かうようなものだ。
そもそも俺は二人が大っ嫌いなのだ。
それなのに大っ嫌いな二人を何で俺が助けなきゃならない。特にあのシュネー・フリューゲルを何故俺が?
お前が大好きなあの男をリスクを賭して俺が助けなければいけない。
「そんなに相棒が好きかッ!! それならお前もお優しいお前の相棒様と同じで『従騎士』になれば良かっただろうッ。」
あのシュネー・フリューゲルがシュヴェルトの腕の中で泣きじゃくる姿が記憶から掘り起こされる。あの後、シュヴェルトはよくシュネー・フリューゲルに付き添うようになった。
大事に大事に傷付かないようにシュネー・フリューゲルを守るように。
「おう!! 俺は相棒が大好きだ。だから力になってやりたい。俺は相棒を信じてるから今は近くで守るよりこっちで早く帰れるようにしてやりたいんだ。」
淀みなく、ハッキリとそう言い切る。
お前は本当にシュネー・フリューゲルが大好きだよな。
シュネー・フリューゲルといる時のお前は俺といるより幸せそうで。
それがまたムカつく。
「俺は手伝わない。俺はお前の相棒が嫌いだ。そんなに助けたいなら…。」
思わず、フンッと鼻で笑う。
自分で自分が馬鹿馬鹿しくて。
もういい。
そもそも叶わない恋だ。
だったら……俺自身の手で滅茶苦茶にしてやる。アイツに負けるくらいなら自分の手で…。
「なら俺を抱いてみろよ。出来ないだろ? だってお前は相棒が好きだもんな? 」
これでお情けで抱いてくれるならそれでもいい。
幻滅して去っていくならそれももう構わない。俺の欲しいもの何でも持ってるアイツに負けて泣くくらいなら。俺が怖い宰相にも歯向かえてしまうアイツにこれ以上負けるくらいなら。
「おー、それでいいなら幾らでも。」
ー は?
満面の笑みでシュヴェルトが一考する事もなく、簡単に了承する。
「相棒達ともたまにやってるからラクショーだぞ。」
ー え!?
ポカンと開いた口が塞がらない。
えっ? 俺を抱けるのお前?
シュネー・フリューゲル達ともたまに抱き合って…え?
そんな…騎士団はそんなただれた関係なのか!?
呆然としているとシュヴェルトは俺をグッと引き寄せ………ベッドに組み敷かれる事なく、ただ包み込むように抱擁した。
「おー、よしよし。」
ポンポンと背中を優しく撫でる。まるで子供をあやすように。
ー そうじゃないわッ!!
状況が上手く飲み込めず、呆然とされるがままにあやされる。
は?……え? 何でこうなった…。
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なんちゃってキャラ紹介
レオノール・シルト
宰相の息子。時期宰相と言われているツンデレ眼鏡っ子。
シュヴェルト・デーゲン
騎士団長の息子で次男。いい奴だがアホ。
宰相
ラスボス。色々やらかしちゃってるオッサン。
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