寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ

文字の大きさ
上 下
61 / 131

罪人の町『リンク』

しおりを挟む
チキチキと鳥の囀りが聞こえる。
穏やかな空気が流れる森の中、進んでいくと茅葺き屋根の小さな家が立ち並ぶ小さな町が現れた。

罪人達が住む町にしては長閑な雰囲気の流れるそこは何処かで『あの子』が『妹』と見たような昔ながらの日本の風景写し取った不思議な場所だ。

「本当にきちんと町なんだな。」

「昔読んだ本を見本にしてクジャクが作ったんだってぇ。」

町に女性の姿はないが、見るからにゴロツキって感じの人間も少ない。

本当に普通の町だ。
リヒトはキョロキョロと不思議そうに町を見回した。すると優しそうな町人がこちらに手を振ってくる。

「気を付けな、リヒッちゃん。今手ェ振ったのは連続殺人鬼で血みどろ卿って巷で呼ばれてた奴でい。」

「…………。」

「リヒト、私から絶対に離れないで下さい。大体本当に危ない奴程、普段は何処にでもいそうな善人の姿してます。」

リヒトは微妙な表情を浮かべて、私を後ろに庇いながら歩く。

阿呆。そうじゃない。
お前が危ないんだよ。
護衛対象が護衛守ろうとしてどうすんだ。

ネズミがニマニマして「愛だねぇ。若えねぇ。」と茶化す。

違うって。
その人、好きな人死んだばかりだから。寝言で呼んでるから何時も。

思わず溜息が出て、ゲルダの死に顔がまた頭に浮かぶ。

まぁ、『あの子』だって転生してすら忘れられないのに。心がズキリッと思い出すと痛むのにまだ数日も経ってないのに切り替えろなんて無理な話だ。

ー 例え、強制でも生きようとしてるだけマシか。

肩から落ちてくる荷物の麻袋を背負い直して、リヒトの前へ出る。寝言でしかその名前を口に出さない阿呆に「アホ。」と毒を吐くと阿呆は、あははと苦笑いを浮かべた。


そんな姿を見て何故か私は苛立つ。

最近の私は何処かおかしい。
リヒトの処断辺りから心がずっとざわついている。そのざわつきが日に日に大きくなっていく気がする。



「基本は食料も生活品も物々交換。だけんど、基本は罪人の町だから理念は弱肉強食。物々交換は舐められると不遇な事になっから気をつけい!! 」

「それは…物々交換でカモられたり、奪われる事があるという事? 罪人らしい。」

クルクルと楽しそうに回りながらネズミが前を歩いて町を紹介する。昔、店まで案内するって話だったのに三歩後ろ歩いてる奴がいたな。アルヴィンは元気にしてるだろうか?

前を行くネズミが他の小さな家とは違い、少し立派な家の前に止まる。

到着とーちゃく!! どぉ? シュネッち、そろそろ姫抱きしよっか? ネズミ様は労りの心を知るイケメンだから!! 」

「丁重にお断りする。」

「えーん。シュネッちの意地っ張りぃ。リヒッちゃんからもいってやりぃ!! 」

「僕に振らないで。」

「およよ。」と泣き真似をしながらネズミがガチャリと勝手に扉を開けて入る。そしてちょいちょいと手で「ついてきんしゃい。」と催促する。

家に入ると所狭しとドレスが並んでいる。どうやら衣装を取り扱っているらしくドレスだけでなく透け透けの下着……、いや、何屋だ?

「クジャクぅー。期待の新人連れてきたってぇい。クジャクぅー。」

ねぇさんとお呼び!! ネズミ。」

野太い声とともにシュンッとネズミの頰を擦り、簪が柱に刺さる。

そしてドスドスと足音を立てて、部屋の奥から胸の大きく開いたドレスを着た筋骨隆々な大男が現れた。ソイツの顔はバッチバチの付け睫毛にグロスたっぷりの真っ赤な唇をしたバケモノだった。

「何回言えば、分かんのよん!! ねぇさんかお姫様とお呼びッ!! 」

「それ、パワハラって言うんでい。どーすんよ? そんなんじゃ折角連れてきた新人が逃げるんでい。」

キイィーと地団駄踏むバケモノ。ネズミはそんなバケモノに怯えた素振りをしてリヒトの後ろに隠れる。

リヒトを盾にするなよ。
リヒトの苦笑いが引き攣ってるよ。

ドン引きしているとバケモノとはたと目が合う。
すると頭の先からつま先まで凝視され、「あんらぁ。」といきなりバケモノが女子高生のようにキャピキャピしだした。

「ねぇ、そこのアンタ!! ドレスとか興味ないかしらん? 背中のザックリ開いた白い絹のドレス。とぉっても似合うと思うわぁん。」

「ドレ!? ……いや、無視だ。気にするな。まさかこのバケモノがクジャクとか言わないよな。」

「シュネー、下がって。」

リヒトが何故か私を庇おうと抱き寄せる。
いや、だから護衛対象が護衛守ってどうすんだ。

バケモノは口を尖らせて「酷いわん。わっちみたいないい女引っ掛けてそれは無いわぁーん。」とプンプン怒ってる。

いい女? 
貴方絶対ゴリゴリのオッサンだろ。
引っ掛けた? 何時!?

「大体ねぇ、わっちの好みは素朴なイケメンよん。美人な彼よりアンタの方がドンピシャよん。」

「えっ……。」

「良かったですね。ドンピシャですって。」

リヒトを見て、バケモノが舌舐めずりをする。リヒトの表情が目に見えて固まる。

ネズミはそんな状況に興味がないのか。あれ程親友だと言っていたリヒトをほっぽって柱に刺さってた簪を指で回してる。

自由すぎるでしょ。


「……貴方の話を聞きたいんです。僕達がこの森で生き残る為にどうすればいいか。貴方の話を聞いて考えたいんです。」

固まっていたリヒトが意外にも自分から話を切り出した。少しこのバケモノにビビリ気味だが……。

そしてやはり、このバケモノがクジャクなのか…。

「あんらぁ。お誘い? ……そうねぇ。アンタ達は早く身の振り方を決めた方がいいかもしれないわん。」

「何故ですか? 」

「ディーガがそこの美人な彼の事血眼で探してるみたいよん。久々に燃え上がってるみたい。」

バケモ…クジャクが私を指差す。

どうやら私はまだ追われてるらしい。忘れてくれればいいのに…。

散々暴れて逃げたからか? 
媚薬顔にふっかけたからか?
報復…か? だけど、 ……私だけ…か。

リヒトの事が出てこなかった事に内心、ホッとしているとギュッと抱き締めるリヒトの腕に力が入る。

痛いって、どうしたの!?
リヒトは追われてないから安心して大丈夫みたいだってさ。
良かったじゃないか。


ふとバケモノいや、クジャクが私を見透かすような目で見てくる。その姿は先程のふざけた態度とは違い、統率者の目だ。


「あのディーガが敵対してるわっちにわざわざ『見つけたら俺様に差し出せ』ってね。一杯食わされたのが相当効いたみたいね。…とんだ男に執着されたもんねん。」

「差し出すので? 」

「まさか。」

ニンマリとクジャクが嗤う。

「そんな面白い子、わざわざあげるなんて勿体無いわん。だったら傘下に加えた方が面白い。」

「メリットは。私達に求めるものは。」

「ディーガから守ってあげる。だから魔獣との戦線と『レヒト』との睨み合いの戦力として貴方達を買いたいわん。そっちのドンピシャな彼も見た所、そこそこ使えそうだしねん。」

リヒトも戦力に数えるのか。

どうしよう。
ディーガに追われているのは私だけだしな…。

もう少し考えさせて欲しいと言おうとしたが、リヒトがそれを遮る。

「分かりました。僕達は貴方の傘下に入ります。」

「リヒト? 」

「うふふ、決断が早い男は好きよん。ハナからそのつもりみたいだけど面倒見てやんな、ネズミ。」

「りょーかい。なんたってオイラが拾ったんだかんね。ディーガの悔しがる表情が目に浮かぶ。」

二人が悪人ヅラで嗤う。
どうやら私達を傘下に加えたい一番の理由はディーガへの嫌がらせのようだ。

面倒だ。
やはり、もう少し見定めてからの方が……。


「ディーガの一味が来たぞー!! 」

外でそう叫ぶ声が聞こえた。

扉からチラリと外を覗くと見事なスキンヘッド頭のガタイのいい男、ディーガが目に青いアイシャドウを入れた女のように美しい男と仲間の男ども数人か引き連れてクジャクの家の前で仁王立ちしていた。

「あんらぁ、随分と早いご登場です事。」

「思った以上にシュネッちにご執心でい。」

扉の向こうのディーガとふと、目が合った。ディーガは獲物を見つけた捕食者のようにギラついた目で私を見ていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

タチですが異世界ではじめて奪われました

BL
「異世界ではじめて奪われました」の続編となります! 読まなくてもわかるようにはなっていますが気になった方は前作も読んで頂けると嬉しいです! 俺は桐生樹。21歳。平凡な大学3年生。 2年前に兄が死んでから少し荒れた生活を送っている。 丁度2年前の同じ場所で黙祷を捧げていたとき、俺の世界は一変した。 「異世界ではじめて奪われました」の主人公の弟が主役です! もちろんハルトのその後なんかも出てきます! ちょっと捻くれた性格の弟が溺愛される王道ストーリー。

ボスルートがあるなんて聞いてない!

BL
夜寝て、朝起きたらサブ垢の姿でゲームの世界に!? キャラメイクを終え、明日から早速遊ぼうとベッドに入ったはず。 それがどうして外に!?しかも森!?ここどこだよ! ゲームとは違う動きをするも、なんだかんだゲーム通りに進んでしまい....? あれ?お前ボスキャラじゃなかったっけ? 不器用イケメン×楽観的イケメン(中身モブ) ※更新遅め

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!

カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。 魔法と剣、そして魔物がいる世界で 年の差12歳の政略結婚?! ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。 冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。 人形のような美少女?になったオレの物語。 オレは何のために生まれたのだろうか? もう一人のとある人物は……。 2022年3月9日の夕方、本編完結 番外編追加完結。

【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢
BL
2023/01/27 完結!全117話 【強面の凄腕冒険者×心に傷を抱えた支援役】 孤児院出身のライルは田舎町オクトの冒険者ギルドで下働きをしている20歳の青年。過去に冒険者から騙されたり酷い目に遭わされた経験があり、本来の仕事である支援役[サポーター]業から遠退いていた。 しかし、とある理由から支援を必要とする冒険者を紹介され、久々にパーティーを組むことに。 その冒険者ゼルドは顔に目立つ傷があり、大柄で無口なため周りから恐れられていた。ライルも最初のうちは怯えていたが、強面の外見に似合わず優しくて礼儀正しい彼に次第に打ち解けていった。 組んで何度目かのダンジョン探索中、身を呈してライルを守った際にゼルドの鎧が破損。代わりに発見した鎧を装備したら脱げなくなってしまう。責任を感じたライルは、彼が少しでも快適に過ごせるよう今まで以上に世話を焼くように。 失敗続きにも関わらず対等な仲間として扱われていくうちに、ライルの心の傷が癒やされていく。 鎧を外すためのアイテムを探しながら、少しずつ距離を縮めていく冒険者二人の物語。 ★・★・★・★・★・★・★・★ 無自覚&両片想い状態でイチャイチャしている様子をお楽しみください。 感想ありましたら是非お寄せください。作者が喜びます♡

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

聖女の力を搾取される偽物の侯爵令息は本物でした。隠された王子と僕は幸せになります!もうお父様なんて知りません!

竜鳴躍
BL
密かに匿われていた王子×偽物として迫害され『聖女』の力を搾取されてきた侯爵令息。 侯爵令息リリー=ホワイトは、真っ白な髪と白い肌、赤い目の美しい天使のような少年で、類まれなる癒しの力を持っている。温和な父と厳しくも優しい女侯爵の母、そして母が養子にと引き取ってきた凛々しい少年、チャーリーと4人で幸せに暮らしていた。 母が亡くなるまでは。 母が亡くなると、父は二人を血の繋がらない子として閉じ込め、使用人のように扱い始めた。 すぐに父の愛人が後妻となり娘を連れて現れ、我が物顔に侯爵家で暮らし始め、リリーの力を娘の力と偽って娘は王子の婚約者に登り詰める。 実は隣国の王子だったチャーリーを助けるために侯爵家に忍び込んでいた騎士に助けられ、二人は家から逃げて隣国へ…。 2人の幸せの始まりであり、侯爵家にいた者たちの破滅の始まりだった。

処理中です...