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王都組①

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前世からずっと生き甲斐だった。
貴方が紡ぐ物語を見ている事が。

だからこそ転生してここが『花君』の世界と知った時、わたくしは誓ったのよ。貴方の幸せを見届けるって。



あの切なくも美しいハナミズキとベロニカの花弁が舞い降った日から数日。

王国は未だに元第二王子が起こした国王、第一王子毒殺未遂事件に揺れていた。

本当に第二王子が毒殺を図ったのかと。

きっとあのまま処罰されていれば、宰相達の思惑通りに第二王子は王に国に国民に叫弾されて、絶望の中、死んでいった。しかしシュネーがあの『白百合の騎士』と呼ばれる気高い騎士が叫弾される筈だったリヒトに最大級の忠誠を捧げた。

シュネーはあの時、少しでもリヒト最期を変えようと思っただけの行動かもしれない。それでもその少しは誰かにとっての最大だった。

バッドエンドで物語は終わった。
刑は執行された。

しかしそれでもそれは国中の多くの人の心に疑念を抱かせ、そして火を付けたのだ。


「まぁ、シュネー様はどうせ自身の魅力にも影響力にも気付いてないのでしょうけれど。」

きちんと男性の正装をしたカールがわたくしの腕を差し出し、エスコートする。

筋肉と筋肉がぶつかり合い、お互いの汗という体液が混ざり合う素晴らしい光景(ただの鍛錬)をバックに一つの扉を盛大に開け放つ。

「たのもー!! 我こそはヴィルマ・イーリス男爵令嬢。シュネー・フリューゲル様の救出方法を授けに参った!! 」

ポカンッと口を開け、騎士団長がこちらを見た。その隣では騎士団長補佐のジョゼフが表情を引攣らせ、「何だコイツ。」って顔をしている。

「ヴィル。やっぱりアポ無しはまずいよ。そもそも騎士団に乗り込まなくても学園でシュヴェルトさんやアルヴィンくんには会えるんだからね。」

カールが慌ててわたくしの手を引っ張って帰ろうとする。確かに学園でまずその二人に話を聞いてもらえば良かったかもしれない。だがしかし…。

「だが、断る!! 一介の騎士よりこっちに聞いてもらった方が手っ取り早い!! 」

「急がば回れって言葉知ってる? 」

カールが尚も引きずって帰ろうとする。

解せぬ。
何故、分からんのだ。
これが一番手っ取り早いと。

未だ状況が飲み込めず、「何じゃコイツら。」みたいな顔で騎士団長が見てるけど、めげない。しょげない。泣いちゃダメ。
だってわたくしはシュネー様達を救うのだから。それはきっと茨の道。こんな所で負けられない。


「……もしかして、そこの変なお嬢さんがシュネーの言ってたシュネー達を助ける鍵か? 」

ジョゼフが引き攣った顔で、わたくしを指差す。

確かジョゼフは『花君』の隠しキャラで、シュヴェルトとローレン王子を攻略すると派生する攻略対象。

流石、隠し攻略対象だけあって御婦人受けしそうなイケメン。シュヴェルトに大人の色香と落ち着きを足した感じだ。

「はい。シュネー様に託され、ここに来ましたの。」

「マジか、シュネー。に命運託したってどんだけ追い詰められてたんだ。」

ジョゼフが軽く絶望している。
何をそんなに絶望する事があるのかわたくしには分かんない。きっと大人には大人の事情があるのでしょう。

「…騎士団長、少し席を外します。アルヴィンとシュヴェルトも連れてくのでよろしくお願いします。」

「あ…ああ、その…何だ。何だか分からんが頑張れよ、ジョゼ。」

騎士団長に許可を取り、私達をジョゼフは騎士団寮に連れて行く。

え? 騎士団長は? 
騎士団長もお話に入れて差し上げましょうよ。
その方が手っ取り早……。



騎士団寮に着くと誰も使用してない空き部屋に通された。そこには紙の束が置いてあり、テーブルには王都の地図が広げてある。その地図には何かが書き込まれていた。

「ここには俺達が集めているゲルダ・ファーデンの死についての資料が置いてある。死体が見つかった場所。検死の結果や目撃証言。…まだ確たる証拠には辿り着いてないけどな。」

ジョゼフは地図を眺め、書類を眺めて溜息をついた。力不足だと。その目には焦りと悔しさが滲んでいる。

ー この人は本当にシュネー様を一刻も早く助けたいんだ。

よく見れば目の下に少し隈が出来ている。

「ジョゼにぃ!! 来たぜー。」

「……少し目を離した内に資料が増えてる。…ジョゼさん。」

攻略対象のシュヴェルトとモブのアルヴィンがガチャリとノック無しに入ってくる。アルヴィンは部屋の現状に少し呆れ気味だ。

「……それが救う鍵の人か。まさか本当に人型魔獣ヴィルマだとは思わなかった。」

「おお、カールさんとカールさんの婚約者のか。」

「僕は女装するけど女性じゃないし、ヴィルマは人間だよ…。頭のネジが何処かにいってしまってるけど。」

割りかし失礼な会話がわたくしの前で飛び交う。

ええ…、せめてカールは最後まで味方してよ。頭のネジはちゃんとかたーくしまってますぅ。

「っで、お嬢さんの話を聞きたいんだが。」

ジョゼフが咳払いをして、わたくしにこの冤罪の真相を話すように促す。わたくしは本当の黒幕やゲルダの死の真相について知ってる事を事細かに話した。


「やっぱ、宰相が敵か。その上、シャルロッテ侯爵もか。」

「……でもこの話だけじゃ証拠にはならない。」

「そもそも何でいち男爵令嬢が真相を詳しく知ってんの? そこが一番謎だろ。」

ジョゼフが訝しげな表情をわたくしに向ける。
疑問に思うのは当たり前だけど、わたくしの話を信じてくれるのね。嘘か疑いもせず。

こんなに信じてくれるのだもの。
例え後ろ指さされたって本当の事、言わなきゃね。

わたくし、前世の記憶があり、その前世でこの世界を物語として見た事がありますの。この世界の一部の人間が辿る人生の一部をわたくしは知っていてるのよ。」

ー まあ、この世界がBLゲームだと言っても分からないからそこは省くけど。

皆んながわたくしの言葉に驚き目をかっ開く。

あらま、そんなに驚くのね。
だけど、誰も「嘘だ。」とか言い出す人がいない。何て素直で純粋な方達かしら。

「そんな…事あり得るのか!? 」

「ジョゼにぃ。相手は魔獣なんだ。あり得ない事なんてあり得ないんじゃ。 」

「……未知の人型魔獣だからそんな能力持っていてもおかしくない。」

「……このお嬢さんは人間ないのか。」

「ねぇ、僕の婚約者は人間だって!! ただヴィルマだからなぁ。変な能力持っててもおかしくない。」

「何でしょうね。信じてもらえているのはいいけど、この扱いの酷さは…。」

信じてもらえたのは嬉しいが何か腑に落ちない。

ねぇ、ジョゼフ。
『人間でもないのか』ってどういう意味? 
ねぇ、どういう意味!? 
」の部分についても話し合いましょう? 
今すぐに!!


カールがふと資料を見て頭をひねる。
そしてしゅぱっと手を挙げて質問を述べる。学校か!!

「ジョゼフさん。これってゲルダが殺された瞬間の目撃情報はないって書いてありますけど、どうやって犯人割り出すんですか? 」

「武器販売の専門家のアイズさんに協力してもらい、ゲルダ殺害に使用した刃物を特定してその武器を買った者から割り出す算段だな。…あの人、切り口見ただけでどの武器使ったか断定出来る程の変態的天才なんだ。」

「……割り出すのが果てしない作業で手詰まりしてる。使用されたのはレイピアだが、レイピアは護身目的で買う貴族が多い武器だから。」

「成る程、確かに手詰まりだね。黒幕は分かってるのにそれでは誰がやったのか断定は……。」

うーんと皆んなで頭を抱えていると「そうだ!! 」と何かいい事を思いついたようでシュヴェルトが元気に手を打った。

「宰相が黒幕の一人ならレオノールに聞けばいいじゃん!! 」

「「「「……………。」」」」

皆んなそのとんでも発言に言葉を失う。

えっ? 
何言ってんの、この人!?

「あ、アホか!! 黒幕の息子に直接、聞く馬鹿が何処にいんだよッ。話す訳ないだろ!! 」

ジョゼフが我に返って諌めたが、シュヴェルトは「善は急げ。」と部屋を飛び出した。

「……ごめん、シュネー。助けられないかも。」

アルヴィンとジョゼフが慌てて止めに追ったが走り出した猪は止まらなかった。

「前途多難だ。」

カールはそんな状況をみて、ボソリとぼやいた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

なんちゃってキャラ紹介

ヴィルマ・イーリス
男爵令嬢。愛称は『なんちゃって男爵令嬢』。婚約者のカールからはヴィルと呼ばれている。前世の記憶があり、冤罪を解くキーパーソン(笑)。腐女子。

カール・アーバイン
ヴィルマの婚約者。女装癖あり。
婚約者の暴走を止める術を知らない。

ジョゼフ・デーゲン
騎士団長の息子。現在は騎士団長補佐を務める。シュネーの良き友にして頼れる兄貴。

アルヴィン・クリフト
平民出の騎士。最近喋るが基本無口の戦闘狂。こちらもシュネーの良き友。

シュヴェルト・デーゲン
騎士団長の息子でジョゼフの弟。シュネーの相棒で剣は基本力押し。仲間想いのいい子だが基本アホ。

アイズ
武器屋のオヤジ。変態的な武器に対する目利きを持つ。シュネーにヤバイ剣を売りつけた張本人。

レオノール・シルト
宰相の息子。シュヴェルトとはリヒトの『友人』仲間。ツンデレ。

※ 王都組と付くタイトルのものはヴィルマ達の視点で進んでいきます。時間軸は本編より遅かったり早かったりします。キャラが増えてきて分かりにくいと思うので王都組の方はキャラ紹介を付けます。
………キャラ紹介はあくまで参考で。

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