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陰謀と白百合

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ふわりと雪のように花びらが大広場に舞降る。

それは建国するより遥か前から伝わる光景。初代フォルメルン王とその騎士が起こした奇跡の光景。

その伝説的な場面がまさか処断の場で起こるとは思わなかった。いきなり割って入ってきて、散々不敬を働いた白い騎士。

白い騎士はワシの計画を知っているようで、王子に疑問を投げ掛けるように見せかけてワシを揺さぶりを掛けた。

しかしその騎士はとても若く、何の権力も持たない一介の騎士風情。
何も出来まいし、後で幾らでも消す方法はある。


『従騎士の誓い』を立てるまではそう思っていた。


花びらが降る中で白い騎士が第二王子の前に佇む。

その姿はとても美しく絵本の挿絵の一部のように幻想的で、真っ白な髪に付いた花びらさえもまるで宝石のように見えた。

物語から飛び出してきたように美しいその騎士に目を奪われていた。


「何で罪人である筈の第二王子に『従騎士の誓い』を? 」

「『従騎士の誓い』を立てられる程の人物が国を売るのか? 」

誰かがポツリとその光景を見てそう疑問を口にした。するとその動揺が広がっていく。 

「『白百合の騎士』様が罪人に自身を捧げるもんかねぇ。」

「あの騎士様、純潔で、穢れを嫌ってるってもっぱらの噂だよな。男女問わず振られたとか。」

「ああ、俺もそれ聞いた事ある。そこがまた良いんだよな。高嶺の花ってやつ? 」

「何かそのイメージだと不正許さなそうだよな。マジで何でだろ? 」

大広場が騒然とする。
たかが一介の騎士一人が断罪ムードを一気に変えていく。

全ての罪をなすりつけて壊れた傀儡を廃棄。また逆賊である第二王子を処断し、国の混乱を治め、国に王に恩を売る為にここまでシナリオを完成させたというのにこの展開は何なんだ!?

噂を流し、暴動を手引きし、ここまで大事に仕立て上げたというのに。あらゆる証拠をでっち上げたというのに。

一体この白騎士は何を考えている。
一体何をするつもりだけ。


ー 落ち着け。そうだ証拠は十分にある。

第二王子の刑は免れない。
ならば『従騎士』になったこの得体の知れない白騎士も『刑受の森』に送られる。魔獣に食われて死ぬのだ。何も動揺する事はないじゃないか!! 

白騎士がこちらを見てニコリと嗤う。
その笑みは美しいが得体の知れない何かを秘めている。

「宰相様。『従騎士』は主人が罪を犯した場合同じ刑に処される決まりがあるのでしょう? しかし、『従騎士』は罪は犯した訳ではない。恩情がついても良い筈ですよね。」

「何が言いたい。」

「剣や道具を『刑受の森』に持ち込む事を許して欲しいのですが。後、手錠を掛けるのも許して頂きたい。流石に何もしていない『従騎士』にそれくらいの恩情を掛けてもよろしいのでは? 」

「あの森で生き残るつもりか? 」

どうでしょうねと白騎士はトボける。

そんな事許す筈がない。
ワシはお前達にサッサと罪をなすりつけて罪とともに消えて欲しいのだ。
例え、もう二度とあの森から出られないとしても生きているだけで目障りだ。

口を開こうとした瞬間、白騎士がスルッと近付き、耳元で囁いた。

「私達は貴方の思い通りに罪に大人しく処されるんだ。そのぐらいで手を打っときましょうよ。」

ザワリッと肌が粟立つ。
白騎士からさらけ出された殺気に当てられ、思わず怯む。気付けば首を縦に振っていた。



「何で僕なんかの『従騎士』に…。君も刑に処されてしまうのにッ!! 」

絶望にまみれた顔で私の主人が私を見つめる。その顔がやはり見ていてイライラして、思わずこの主人の頰を思いっきりつねった。

「うるさいッ、アホ!! お前がそうやってそんな顔するから『あの子』が苦しんだんだろう。シュネーはその辺許してないからな!! 」

にゃんにょこちょ? 」

「知らんで結構ッ!! こっちの話だから。」

前世の記憶とシュネーがした約束をついさっき思い出した。

思い出したとともに入ってきたシュネーの感情が結構、ブチギレ寸前で持ってかれる。

あの子の為に『妹』は守りたいがあの子を苦しめた『妹』は許しがたい。
いやまあ、あの子の為に守るけど。

っとそんな感じでキレている。
シュネーってこんな感じの子だったっけ?
もっと儚い感じだったような…。

そしてもう一つの感情。
というか、脅迫概念。

リヒトから離れたくない。
私はリヒトのものだからリヒトとともに居なければならないという謎の脅迫概念。

宰相から物を『刑受の森』に持ち込む許可をもぎ取ったので、刑が執行される前に色々と長く生き残る為の準備をしたいのだが離れ難い。

一人で死なさない為に、死を選ばない為にこの身を賭けた事に後悔はない。
いや、少しは後悔してるが、後悔はないッ!!


まだチリチリと痛む首筋を押さえる。

周りが呆然とこちらを見ているが知った事ではない。下手したらこの人達ともう二度と会う事ないし。

王族の方々からは凄く凝視されている。客寄せパンダかってくらい見られている。

そしてそれよりも気になるいや、恐ろしい、刺し貫きそうな程痛い視線を向ける御人が一人。

「シュネー。お前…。」

壇上の下でジョゼフが怒ってる。
分かってる。分かってるよ。

勝手に壇上に躍り出て、散々やった上にあれだけ「これだけはするな。」と言われていた『従騎士の誓い』までやってしまったのだ。

お怒りはごもっとも。

でも『従騎士の誓い』を立てなければ、あのままリヒトが一人で『刑受の森』行けば即死だ。
その上、リヒトは自殺願望者。

だが、『従騎士の誓い』を立てれば、その問題は解消される。リヒトが死んだら私も強制的に死ぬので流石に自害は出来ないだろう。


リヒトが牢に入れる為に連行されていく。

まだ何か言いたそうだが、聞く気はない。これからたっぷり話す事にはなるのだから今聞く必要はない。

『刑受の森』への流刑は三日後に執行。

本来なら大罪人相手にもこんな強行な執行、許されない。だが、事が事だけにそれが赦されているのだろう。

それまでリヒトは王城の中にある牢の中。私も牢には入る。ただ、『従騎士』の私には罪はないから出入り自由だが。


とにかく、取り敢えず私はジョゼフ達に謝らなくてはならない。
そして頼まなくてはならない。

覚悟を決めて壇上を降りるとすぐさまジョゼフの拳骨が頭に落とされた。その顔は怒りはすぐ消え去り、悲しみと不安、心配の色に染まる。

本当にごめんなさい。

「お前は分かっていると思っていたッ!! 『従騎士の誓い』の危険性をッ!! 俺はお前に『従騎士の誓い』をさせる為に教えたんじゃないッ。何でお前は普段冷静なのに急に突っ走るんだッ。何故、何も相談しないッ!!! 」

泣きそうな顔で私の肩をグラグラと揺らし、説教する。私の首筋を見る度に更に辛そうな顔になり、本当に申し訳なくなる。だが…。

「すみません。それでも私はあの人を死なせる訳にはいかなかった。」

ジョゼフの瞳が潤む。
グッと泣くのを堪えて、思いっきり私の肩を強く掴んで俯いた。

「それでもそれは呪いなんだッ!! 呪いなんだよ……。」

その言葉に胸が痛くなり、服をギュッと手で握る。
確かにこれは呪いだ。

リヒトがいなくなった瞬間、喪失感が心にある。決して離れては駄目だと心が叫ぶ。

たった少し離れただけでこれだ。『従騎士』が主人から離れられない訳だ。




「相棒…。相棒は本当にたまにスゲェことするよな。」

駆け寄ってきたシュヴェルトがちょっと拗ねつつも、諦めたように笑った。その後ろには溜息をついているアルヴィンもいる。

「俺達は何をすれば良い? 勿論、頼ってくれんだよな。」

ニッとシュヴェルトが笑って拳を突き出す、その拳に私の拳を合わせる。そして私もニッと笑い返した。

「私達を助けてくれる? 方法はある。ただ、三日以内には無理だけど。」

「第二王子に掛けられた容疑を晴らせって言うのか!? あんだけ決定的な証拠が上がってんだぞ!! 」

「いきなりスゲェー無茶振りだなッ!! 相棒。」

ジョゼフの顔から先程の泣きそうな表情が消し飛ぶ。シュヴェルトはカラカラと笑う。

まだ言ってはいないが敵は宰相とシャルロッテ侯爵。
しかも決定的な証拠は揃ってる。

かなりの無茶振りだ。
それを「スゲェー無茶振り。」と言いつつ笑ってるって事はシュヴェルトお前、半分も理解してないだろう!?

自分で無茶振りしてなんだが、ちょっと心配になってきた。いや、ある意味頼もしいけども。

「……鍵ってなんだ? 」

「ゲルダの不審な死の真相と後は、ヴィルマの持ってる情報。確固たる証拠には今の所なり得ないが、証拠を見つける鍵にはなると思う。」

「何だか時間がかなり掛かりそうだな。証拠を集めるまで。」

これは賭けだ。
証拠が完全に隠滅されてもう可能性だってある。証拠を見つけ、容疑が晴れたとしても私達が『刑受の森』で数日で死んでる可能性もある。

だが、可能性がないよりもある方がいいに決まってる。

少しの望みを掛けて頼れる仲間達に託す。後は私達が長く生き残れるか…だ。

『刑受の森』はあまりにも内情が謎に包まれている。
何が起こるかは未知数だ。

「後は道具と武器の調達を…。」

「……それは俺がやるからお前は帰れ。顔色が悪い。」

アルヴィンの手が頰に触れる。
ゴツゴツでザラザラな剣士の手が心配そうに頰を撫でる。

「『従騎士』になった影響かもな。三日間、俺達で必要なものは用意するから休んでろ。それに…。」

ジョゼフがチラリと周囲を見た。
王族達や貴族達はこぞってシュネーに好奇の視線を向けている。

ここ数百年、出てくる事のなかった『従騎士』に皆、興味を惹かれている。中には、惹かれるだけでは済まなそうな輩もいそうだ。

「出来るだけ牢に居た方がいいかもしれないな。」

「そのようで。」

思わず、苦笑いを浮かべる。
正直、牢なんか行きたくない。

いや、まあ『従騎士』だから主人とともに冤罪だろうが今の所は刑に処される所存だけど。出入り自由ならギリギリまで入りたくない。好き好んで行く所ではないしね。

それでも休んでろというので仕方なく、牢へ向かう。向かっている最中何度か話し掛けられたが面倒ごとの匂いがしたので何度か久々に鬼ごっこをした。
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