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それは呪いで約束で

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壇上に上がるのは簡単な事だった。

私は騎士の一人。
今日この大広場を警護しているのは騎士団だ。騎士団に所属している私はすんなりと通してもらえた。

壇上に上がると少し老け込んだ銀色の瞳が私を睨んだ。

「侵入者だっ!! そいつを追い出せッ!! 」

そう護衛や警護の騎士に怒鳴りつけたが、全員顔馴染みの騎士団の騎士。結束が堅く、仲間想いな彼等は私の雰囲気から何かを感じ取ってくれたようで誰も私を捕らえようと動かなかった。

「発言の許可をお願いしたい。」

私は不躾にそうバルコニーからこちらを見下ろす国王に直談判した。国王は怪訝な表情を浮かべたが、意外にも一介のペーペーな騎士に発言権を与えた。

「何を言った所で何も変わらんだろう。ただの一介の騎士が何しに来た。」

厳しい非難の表情でローレン王子が私を睨む。私はそんな彼にニッと笑い掛け、「少し文句を。」とだけ返した。

その回答に虚を突かれたローレン王子は王子の癖にだらしなくポカンと口を開け、理解出来ない物を見るような顔をした。


リヒト王子は私が壇上に上がってきてもただ俯き、死の瞬間を待っている。

ああ、ムカつく。

「貴方はそうやって自身がただ嬲り殺しにされるのをみているだけですか? それじゃあまるで自害ですね。本当にしょうもない。貴方の幸せを願ったゲルダも裏切るのですね。」

ピクリッと俯いているリヒト王子が反応した。そしてその目には涙が溢れている。ゲルダの名に反応したのだろう。

「……ゲルダは死んだ。暴動で命を落としたんだッ。もう…僕の幸せは何処にもない。」

「暴動で…ね。」

宰相がこちらを睨んでる。
これが黒幕の一人。
コイツに全てしてやられたのか。

「……何故? 身元不明の死体として自警団に回収されたゲルダの生死が昨日の今日で貴方にその死が伝わっているのですか? おかしくありません? 」

チラリと宰相を見ると眉間に皺が寄る。このくらいはやり返さないと気が済まない。

「本当に暴動で死んだのですかね? 」

フンッと鼻で笑うと宰相は人を殺しそうな目付きで私を睨んだ。これ以上やったら本気で消されるな。

「もう…もう、そんな事どうでもいい。もう…終わりにしたいんだ。僕はもう死にたいんだ、シュネーッ。」

壇上に悲痛な叫びがこだまする。
ヤジを飛ばしていた国民達もそのあまりに悲痛な声に少し静かになった。

「僕はもう…ゲルダの所に行きたい。この国は僕が生きる事を望んでない。僕にはもう傀儡としての価値もないんだ。もう…もう……、疲れた。」

ボロボロと涙を流しながらリヒトは嗤う。
壊れたように。
そんなリヒトを冷めた目で見ていた。

「ホント、アンタはしょうもない。誰かに望まれなければ生きていてはいけないのか? 疲れただぁ!? 知るかッ。アホ!! 」

「……貴様はホントに何しに来たんだ。」

「…アンタ?…アホ……!? 」

ローレン王子があまりにも私がボロクソ言うもんだから呆れてそう大きな独り言を吐いた。リヒトもまさか盛大に毒を吐かれるとは思わなかったみたいで呆気に取られている。

不敬?
知らないよ!!
後で裁きたきゃ裁けば?

周りの騎士も動揺してる。
ごめん。でも、もう止まれないから。

「アンタの自害になんざ付き合ってられない。この茶番も正直もうどうでもいい。私は私がやりたいようにやってやるッ!! 」

「……自害。」

「茶番……。」

「ホント、貴様は何しに出てきたんだ!? 」

バンッとついにローレン王子がバルコニーの手すりを叩く。最早、王子らしい姿をかなぐり捨てて大広場に響く大声で叫んだ。

「時間稼ぎか!? 大体、何をした所でこれだけ証拠がある中で結果は何も変わらない。ソイツの死の運命は変わりはしない!! 」

キッとローレン王子が「お前に何が出来る? 何も出来ないだろう!? 」とそうそのサファイアの瞳で私に投げかける。

「まあ、変わらないでしょうね。しかしほんの少しだけなら、最期瞬間くらいなら私でも変えられるかもしれませんよ。」

ニッとそう不敵に笑ってやる。
そして腰に佩刀していた剣を床に置き、リヒトの前に膝をついた。

「シュネー? 」

手が届くんだ。簡単に死なせてやる訳にはいかない。」

スゥッと息を吸い、覚悟を決める。

これが私の中の答えであり、これからの私の生きる指針。
『あの子』の願いで『シュネー』の望み。

「私をくれてやるから今度こそ足掻け。今度こそ最期の一瞬まで。」

ゆっくりと目を閉じて唱える。
祈るように手を組んだ。

それはあまりにも誓いと呼ぶには呪いに近く。口にする事すら憚られるもの。

「 一つ、この剣は彼の王の為。
     一つ、この命は彼の王の為。
     一つ、この生は彼の王の為。
     これを分かつ事は死しても成らず。
     我が全ては彼の王に。
     この身は彼の王のなり。           」

身体が自身のものでなくなるような感覚が襲う。恐怖感と喪失感が身体を襲う

「 精霊の名の下に誓約を。 」

くらりと脳髄が溶けるような熱が身体に走る。熱に浮かされそうになる中、呆然と目の前で起こっている出来事を理解出来ずにいるリヒトの手を取り、その甲に口付けを落とした。

口付けを落とした瞬間、ピリリと唇から電気が走り、全身を巡るとやがて首筋に焼けるような痛みが走った。


ふわりと雪のように空からハナミズキとベロニカの花びらが舞降る。

それは大広場全体にハラハラと振り、その美しさに国民は怒りを忘れ、見惚れていた。

ー 花びらが降ったっていうのは話に尾ひれが付いただけだと思っていたんだけどな。

手をかざすとふわりと手のひらに薄桃色の花びらが舞い降りた。まだチリチリと痛い首筋には薄桃色の花の紋様が刻まれていた。
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