寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ

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私はそれでも恵まれてる①

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「本当に学園に行く気か? 」

「はい…。」

ジョゼフが心配そうに私を引き止めた。「お前はもう少し休んでいるべきだ。」と「傷口が開いたんだぞ。」と止めたが、それでも断固として私が行くというので、ジョゼフはほとほと困っていた。

いきなりボロボロになって帰ってきた私をとても心配してくれただろう。

それでも今、部屋に居たら何かに押し潰されそうで、怖かった。何時も通りに生活して少しでも私は昨日の出来事を無かった事にしたいのだろう。

ジョゼフがはぁーと溜息をついた。

肩に触れようとジョゼフが手を伸ばした。思わずピクリッと身体を揺らす、それを見てジョゼフはまた一つ溜息をついた。

「行くんだったら必ず授業中はアルヴィンと一緒に行動しろ。シュヴェルトも一旦学園寮から回収するから必ず帰りは三人で帰って来い。一人になるな。」

「…はい。」



アルヴィンに連れられて何だか久しぶりに通学路を歩いた気がした。

ふわりと風が頰を撫でる。
気付くとアルヴィンの服の裾を掴んでいた。

「……帰るか? 」

「いや、行くよ。」

「…強情。」

少し呆れたような表情でアルヴィンが微笑んだ。私の制服の袖を掴み、私が離れないように歩く。

昔、路地裏を一緒に歩いた時とは違い、三歩後ろではなく、私の一歩前を私の歩幅に合わせて歩く。

一瞬、昭和初期の嫁から彼氏にチェンジ? とかふざけた事を思った。

やはり、一人でいるよりこの方が前を向いてられるかもしれない。


アルヴィンの隣は楽だった。

きちんと距離を取ってくれるし、かと言って離れている訳でもなく絶妙な距離で居てくれる。



「相棒!! 今日は一緒に帰ろうな。」

昼休みにシュヴェルトが満面の笑みで、カフェテラスから私達を呼ぶ。

そこにはリヒト王子とレオノールとゲルダがいるがエリアスはいない。

何も知らないみたいに笑って見せているが、相当気を遣ってくれているらしい。テーブルにはもう私達の分も食事が置いてあって私の好物の甘い物も多数用意されてる。

「傷だらけで随分ワイルドな顔だな。カッケェぜ相棒。まあ、いっぱい食べろよ。」

ニコニコとシュヴェルトが笑う。

何だか涙が出そうになり、下を向いたが、何とか耐えた。

「そうだな。ちょっとヤンチャしすぎたかな。」

その笑顔に笑顔で答えた。
リヒト達はどうやら何も知らないようで傷だらけの私を驚きの顔で見た。

「ヤンチャも大概になさい。」

「この前怪我したばっかりなんだからダメだよ。安静にしてなきゃ。」

レオノールは少し毒を吐き、リヒト王子は優しくたしなめる。それすらも何だか嬉しくてたまらない。それだけでこんなに嬉しいなんてどれだけ傷心してんだか、私。

「その、大丈夫? 手も怪我したばかりなのにそんな…。」

ゲルダが心配して私に近寄る。
私の姿を自身の事のように苦しげに見て、私の頰に触れようとする。

バチンッ

気付くとカールの時みたいにゲルダの手をはたき落としていた。

はたき落した手は小刻みに震えていて、気持ち悪さが込み上げてくる。

「シュネー? 」

拒絶されてこの世の終わりのような表情をゲルダが浮かべる。

違う。
…別にゲルダを拒絶したかった訳じゃない。

「ご…め…。」

「シュネー、やっと見つけた! 」

震えが止まらない中、ふと幻聴が聞こえた。優しい声色で私を呼ぶ兄の声が。

居る筈がない。
ここは学園だ。
そこまで私はおかしくなったのか?

「何故オマエがここに居るんだ。」

「僕はここの卒業生だし、シュネーの保護者みたいなものだからね。」

シュヴェルトの怒気が混じった声が聞こえた。幻聴である筈の兄の声がまだ後ろから聞こえる。

「一体何事ですか? 何故そんなに貴方が怒って…。貴方も何ですかまたそんなに怯えて…。」

「……シュネー、何があったの? そんなに震えて。」

「……シュネー、落ち着け大丈夫だ。オマエは振り返る必要ない。」

場が騒然とする。
シュヴェルトの怒声にテラスにいたもの達も何事かと注目する。

「シュネー帰ろう。傷だらけじゃないか。」

「ヴィルマ嬢から大体の話は聞いてんだッ。これ以上苦しめるな。帰れ!! 」

「……シュネー。取り敢えずここを離れよう。シュネーッ。」

ここはもしかしてまだ屋敷なのだろうか? 
まだ逃げ出せてないから兄がここに居るのだろうか。

じゃあ、どうする。
どうする?


「シュネー? 」

リヒト王子が不安げな顔をしている。

それはとても見ていて苦しくて、何故か知らない誰かと、顔も思い出せない誰かとその表情が重なった気がした。

ー 守らないと。……を守らないと。また……。

パシンッ!!!

リヒト王子が目を丸くしてこちらをみる。アルヴィン達も驚き、私に注目した。

容赦なく自身で叩いた頰が焼けるように痛い。それでも先程よりは頭の中が鮮明になり、状況としなければいけない事がよく見えた。

ー ごめん、シュネー。もうこれしか手がない。

「シュネー? 」

くるりと兄に向き合うと私が自身の頰を叩いたのが余程衝撃だったのか兄が固まっていた。

「兄……。フェルゼン・ハースト伯爵様。」

「シュネー!? 」

私によそよそしく呼ばれて目に見えてフェルゼンは動揺する。

今にも震え出しそうな心を抑えて、しっかりとフェルゼンを見据える。

「私をハースト家から除籍して頂きたい。」
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