寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ

文字の大きさ
上 下
41 / 131

私はそれでも恵まれてる①

しおりを挟む
「本当に学園に行く気か? 」

「はい…。」

ジョゼフが心配そうに私を引き止めた。「お前はもう少し休んでいるべきだ。」と「傷口が開いたんだぞ。」と止めたが、それでも断固として私が行くというので、ジョゼフはほとほと困っていた。

いきなりボロボロになって帰ってきた私をとても心配してくれただろう。

それでも今、部屋に居たら何かに押し潰されそうで、怖かった。何時も通りに生活して少しでも私は昨日の出来事を無かった事にしたいのだろう。

ジョゼフがはぁーと溜息をついた。

肩に触れようとジョゼフが手を伸ばした。思わずピクリッと身体を揺らす、それを見てジョゼフはまた一つ溜息をついた。

「行くんだったら必ず授業中はアルヴィンと一緒に行動しろ。シュヴェルトも一旦学園寮から回収するから必ず帰りは三人で帰って来い。一人になるな。」

「…はい。」



アルヴィンに連れられて何だか久しぶりに通学路を歩いた気がした。

ふわりと風が頰を撫でる。
気付くとアルヴィンの服の裾を掴んでいた。

「……帰るか? 」

「いや、行くよ。」

「…強情。」

少し呆れたような表情でアルヴィンが微笑んだ。私の制服の袖を掴み、私が離れないように歩く。

昔、路地裏を一緒に歩いた時とは違い、三歩後ろではなく、私の一歩前を私の歩幅に合わせて歩く。

一瞬、昭和初期の嫁から彼氏にチェンジ? とかふざけた事を思った。

やはり、一人でいるよりこの方が前を向いてられるかもしれない。


アルヴィンの隣は楽だった。

きちんと距離を取ってくれるし、かと言って離れている訳でもなく絶妙な距離で居てくれる。



「相棒!! 今日は一緒に帰ろうな。」

昼休みにシュヴェルトが満面の笑みで、カフェテラスから私達を呼ぶ。

そこにはリヒト王子とレオノールとゲルダがいるがエリアスはいない。

何も知らないみたいに笑って見せているが、相当気を遣ってくれているらしい。テーブルにはもう私達の分も食事が置いてあって私の好物の甘い物も多数用意されてる。

「傷だらけで随分ワイルドな顔だな。カッケェぜ相棒。まあ、いっぱい食べろよ。」

ニコニコとシュヴェルトが笑う。

何だか涙が出そうになり、下を向いたが、何とか耐えた。

「そうだな。ちょっとヤンチャしすぎたかな。」

その笑顔に笑顔で答えた。
リヒト達はどうやら何も知らないようで傷だらけの私を驚きの顔で見た。

「ヤンチャも大概になさい。」

「この前怪我したばっかりなんだからダメだよ。安静にしてなきゃ。」

レオノールは少し毒を吐き、リヒト王子は優しくたしなめる。それすらも何だか嬉しくてたまらない。それだけでこんなに嬉しいなんてどれだけ傷心してんだか、私。

「その、大丈夫? 手も怪我したばかりなのにそんな…。」

ゲルダが心配して私に近寄る。
私の姿を自身の事のように苦しげに見て、私の頰に触れようとする。

バチンッ

気付くとカールの時みたいにゲルダの手をはたき落としていた。

はたき落した手は小刻みに震えていて、気持ち悪さが込み上げてくる。

「シュネー? 」

拒絶されてこの世の終わりのような表情をゲルダが浮かべる。

違う。
…別にゲルダを拒絶したかった訳じゃない。

「ご…め…。」

「シュネー、やっと見つけた! 」

震えが止まらない中、ふと幻聴が聞こえた。優しい声色で私を呼ぶ兄の声が。

居る筈がない。
ここは学園だ。
そこまで私はおかしくなったのか?

「何故オマエがここに居るんだ。」

「僕はここの卒業生だし、シュネーの保護者みたいなものだからね。」

シュヴェルトの怒気が混じった声が聞こえた。幻聴である筈の兄の声がまだ後ろから聞こえる。

「一体何事ですか? 何故そんなに貴方が怒って…。貴方も何ですかまたそんなに怯えて…。」

「……シュネー、何があったの? そんなに震えて。」

「……シュネー、落ち着け大丈夫だ。オマエは振り返る必要ない。」

場が騒然とする。
シュヴェルトの怒声にテラスにいたもの達も何事かと注目する。

「シュネー帰ろう。傷だらけじゃないか。」

「ヴィルマ嬢から大体の話は聞いてんだッ。これ以上苦しめるな。帰れ!! 」

「……シュネー。取り敢えずここを離れよう。シュネーッ。」

ここはもしかしてまだ屋敷なのだろうか? 
まだ逃げ出せてないから兄がここに居るのだろうか。

じゃあ、どうする。
どうする?


「シュネー? 」

リヒト王子が不安げな顔をしている。

それはとても見ていて苦しくて、何故か知らない誰かと、顔も思い出せない誰かとその表情が重なった気がした。

ー 守らないと。……を守らないと。また……。

パシンッ!!!

リヒト王子が目を丸くしてこちらをみる。アルヴィン達も驚き、私に注目した。

容赦なく自身で叩いた頰が焼けるように痛い。それでも先程よりは頭の中が鮮明になり、状況としなければいけない事がよく見えた。

ー ごめん、シュネー。もうこれしか手がない。

「シュネー? 」

くるりと兄に向き合うと私が自身の頰を叩いたのが余程衝撃だったのか兄が固まっていた。

「兄……。フェルゼン・ハースト伯爵様。」

「シュネー!? 」

私によそよそしく呼ばれて目に見えてフェルゼンは動揺する。

今にも震え出しそうな心を抑えて、しっかりとフェルゼンを見据える。

「私をハースト家から除籍して頂きたい。」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...