寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ

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優しい兄は…

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幼い頃、シュネーは元気な時は兄の後ろを金魚の糞のように付いて行ってた。

それでも兄は兄の自室だけはシュネーが付いてくるのを許さなかった。

兄曰く、散らかってるからダメ。

あの頃はそれでも大好きな兄に付いて行きたくて少し不貞腐れていた。

だが、今になって思う。
一生入らなくて良かった…と。

兄の部屋に鎮座する何着もの子供用の小さなウェディングドレスから大人用のウェディングドレスを見て。

兄が真っ白なマーメイドラインのウエディングドレスを手に「結婚式にはこれを着て、そのまま二人でここでしよう。」と言われて、戦慄した。

ここまで兄は狂っていたのかと。そんな兄に今までシュネーは、私は何故全く気付かなかったのか。

いや、きっと心の奥底では分かっていたのかもしれない。でも認めたくなかった。ヴィルマの言葉に耳を全く貸さない程、それ程信じたくなかったのだ。


フォルメルン王国では同性婚が認められている。貴族でも遠縁で跡取りを見つけられれば許可が下りる。

近親婚も止める法律はない。
その気になれば出来るのだ。

このガバガバな国の法律にも今、私は追い詰められている。


抵抗して少し開いた傷口は包帯をキツく縛り直された。もうこれ以上抵抗して開かないように両手首を兄が首に巻いていたリボンで縛られた。

何度も過去のトラウマと今の現状に嘔吐したが、それでも何度も口内を貪られた。

気持ち悪くて怖くて身体が震える。そんな身体を「大丈夫だよ。」と兄が何度も抱き締める。

大丈夫じゃない。
アンタがそんなトチ狂った好意を向けて抱きしめてくるからこんなに身体が拒絶してるんだ。

アンタがやめたらこれは治るんだ。


兄の匂いが染み込んでいるベッドに押し倒されて、服も下着も全て剥ぎ取られる。

エリアスに襲われ掛けた時のように蹴り上げて逃げたいが、恐怖と兄のあの優しい笑顔が頭にチラつき出来ない。

シュネーにとって、大好きな兄。
大切な家族。
その想いが邪魔して思うように身体が動かない。

おそらく、蹴って逃げただけじゃまた捕まる。

シュネーの部屋のように窓も扉も兄にしか開けられないようになってる可能性がある。

立ち上がれない程強く蹴って、兄の腰に付いている鍵を手に入れなければ逃げおおせられない。

だがどうしても踏み出せない。
優しい兄を蹴り付けたくなんかない。



月明かりの中。
シュネーの白い肌が露わになる。何時も服や下着で隠している全てが暴かれる。

羞恥と恐怖で顔が赤くなったり、青くなったりする。

兄、いや、フェルゼンはそんなシュネーの身体を愛おしそうに撫でた。首筋からゆっくり胸までいき、胸を、薄桃色の小さな突起を擽るように触る。そしてゆっくり白い腹を撫で、ヘソ、下腹部を撫で、結局全く生えて来ず、つるつるのシュネーのモノをピンッと突いた。

「ヒッ!?  …やめッ、兄、…兄上!! 」

「ふふっ、綺麗だね、シュネー。つるつるで全て丸見えだ。」

「やっ…嫌だッ。見ないでッ!! 」

必死に恥ずかしい程丸見えなそれを隠そうと脚を閉じるがフェルゼンがそれを許さない。

蛙のように足を開かれて、太腿の付け根をチュクッとフェルゼンの唇が吸い付く。

「イッ…アッ!! やめ…!! 」

何度も何度も執拗にシュネーからは見えない太腿の付け根をキツく吸い上げ、赤い跡を付けていく。それだけでは飽き足らず首筋に胸に下腹部に次々と跡を残す。

「おねがいッ!! もう…ヒッ、あ…イヤ…こわ…い…こわい…の。兄…うえ。」 

「大丈夫だよ。ゆっくりでいいんだ。ゆっくり慣れて、僕を受け入れて。痛い事も怖い事もない。ゆっくり全く痛くならないように時間を掛けて馴らしていくから大丈夫だよ。」

ボロボロと涙が溢れ落ちる。
恐怖で咽び泣くそんなシュネーの口をまたフェルゼンが口で塞ぐ。

このままじゃ本当に最後まで……。

幼い頃見たエリアスのように身体を繋げられて、あんなあんな姿を…。あんな悍ましい姿を…。

シュネーが…。

あの情景に耐えられなかったシュネーがエリアスみたいに男をその身体に受け入れたらシュネーの精神は……。

ー 守らないと。

動く両足に全力を込めてフェルゼンの腹を蹴り上げる。思いっきり腹を蹴られたフェルゼンは腹を抑えて嘔吐した。

そんなフェルゼンの腰に付いている鍵を千切り取り、シーツを羽織って部屋から逃げ出した。

「馬鹿野郎ッ!! お前が折れたら誰がシュネーを守るんだ。シュネーを守れるのはお前しかいないだろうッ。だから泣くんじゃない。泣くなッ逃げろッ!! 」

自身に必死に喝を入れて、玄関を目指す。

視界は涙で霞む。
でも、絶望している暇も落ち込んでいる暇も今はない。


後ろから私の名を呼ぶ声が聞こえた。

それを必死に聞かないふりして玄関の扉に飛び付く。内側から錠前が掛かっていて、扉の内鍵を開けただけじゃ開かない。フェルゼンから奪った鍵は数種類あり、中々鍵穴に合うものを見つけられない。

ー 急げッ、急げ、急いでッ!!

震える手で必死に鍵を探す。
後ろから徐々に足音が近付いてくる。

ガチャッ!!

音を立てて、錠前が床に落ちる。
扉が開き、夜風が肌を撫でた。

裸足で枝や石が転がる地面を走った。
ハースト家の屋敷は森に囲まれている。その森を抜けるとハースト家が自治しているハースト領の小さな町に出る。

暗い夜の森をシーツ一枚羽織った状態で駆け抜ける。

何度も枝に引っかかったり、根っこに躓いたりしたがそれでも後ろから近付く恐怖から逃げた。

走っていると夜闇の中、明かりが見えた。町の明かりではなく、誰かの手持ちランプの明かりがユラユラと揺れている。近付く明かりに隠れようとしたが、聞き覚えのある声に立ち止まる。

手持ちランプの明かりは徐々にこちらに近付き、私を照らし出した。

「シュネー様? シュネー様!? わたくし、ストーリーの事で心配になってカールとともに来ましたの。でも途中で馬車酔いしまして…休んでまして…それでって…えっ!? 」

ヴィルマが私の姿を見て、顔を真っ青にする。

顔は涙で濡れて、手首は縛られて、身体中擦り傷切り傷だらけで靴も服も着ていないシーツだけを羽織った私を見て。

「ごめんなさい。」

そう一言謝った。

そう謝って大泣きして私を抱き締めた。ヴィルマの大泣きにカールが慌てて駆けつけて状況を理解出来ないながらも自身の着ていたコートを私に掛けた。

心配して触れようとしたカールの手を思わず叩き落としてしまったが、カールは文句も言わず、大泣きするヴィルマとともに私を馬車に回収した。


「もう、…もう、シュネー様を主人公とくっ付けたいとは言いません。」

馬車の中、ずっとヴィルマは泣いていた。自分の所為だと。

「だから、…だから、シュネー様がせめて普通に笑って人生を生きられるように手伝わせてください。」

ヴィルマはそう懇願した。
別にこの状況はヴィルマの所為ではないのに。寧ろ、私が忠告を聞かなかったのに。



開いた傷口と傷の手当てをして、カールから服を借りて、私は騎士団寮に帰って来た。

アルヴィンとジョゼフは帰ってきた私に何も聞かなかった。ただ「ゆっくり休め。」とベッドでの睡眠を進めた。だが、私はベッドを拒否して自身の剣を抱き込み、床に座り込んで寝た。

ベッドすら今は怖かった。

そんな私に何も言わず、アルヴィンは私にタオルケットを掛けた。
私はそこでやっと緊張が解け、深い眠りに落ちた。
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