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ゲルダとエリアス

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「俺、あの日のお礼がしたくてお菓子作ってきたんだ。」

「それならアルヴィンも……いや、アイツ甘いの嫌いだからな…。」

「ああ、そうか。今のが一緒に助けてくれたアルヴィンさん。アルヴィンさんには別で甘くないものを差し入れるよ。」

ニッコリと子供のような愛らしい笑みでゲルダが浮かべる。

とても愛らしいが今は可愛いとは思えない。だって、バッドエンド率80% に誘導する恐ろしい笑みだから。

彼に悪気はない事はわかってる。
だからこそ、気を付けないと足元掬われる。

あれよあれよと行きたくない席に着いた。しかも主人公ゲルダ悪役令息エリアスに挟まれている。

今日、私は死ぬのか?


「ねぇ、君はシュネーとどんな関係? 」

絶対零度の冷たいエリアスの笑みがゲルダに向けられる。ゲルダはその底冷えするような寒さに気付かないのか「友達ですッ!! 」と元気に答えて、私との出会った経緯を話してた。その間外面の笑みを上手くエリアスは貼り付けていたが、膝に置いている手が苛立たしげにわなわなと揺れていた。

その姿に『海外逃亡』という言葉が頭に浮かんだが、流石にまだ早いと思い直す。

取り敢えず話をすり替えよう。
まだ間に合うと信じたい。

「そういえば何故、ゲルダは皆さんとテーブルを囲んでいるのですか? 」

話を振るとこの輪の中なら何時も聞き手に回るリヒト王子が自ら楽しそうに話し始めた。

「ゲルダは僕がお忍びで城下に降りた時に道に迷ってた僕を助けてくれてね。それからちょくちょくやり取りするようになったんだよ。友達だから一緒にお茶をしているんだよ。」

「お忍びで城下町!? 平民と懇意にしていた?! …それは後でじっくりと聞かせて頂きますよ、リヒト。……ついでに私は昨日図書館でぶつかって本を拾ってもらっただけですよ。お茶は不本意です。」

呆れ気味にレオノールがジトッとリヒト王子を見る。おそらくこの後、リヒト王子には説教が待っているだろう。まあ、勝手に抜け出したのならしょうがない。

しかしレオノール、何気なくお前も主人公ゲルダと関係があったのか。 

それからシュヴェルトまでが「昨日、剣の授業で飛んできた剣が当たりそうだったのを助けた。」とゲルダとの出会いを語った。

「まさかリヒト王子だけでなく、この二人も攻略対象か!? 」っと茂みにいるヴィルマを見ると悶えている。
どうやら二人とも攻略対象らしい。

「成る程、それでこの面子ですか。良かったですね、リヒト殿下。」

「うん、シュネーも一緒に食べてってよ。まだ授業まで時間あるから。」

ニコリッと、とても嬉しそうな表情でリヒト王子が笑う。その表情をから察するにこの人は本当の友達ゲルダと会えて今、幸せなのだろう。何だかそんな姿を見て少し心がホッとしたが、体良く捕まったので苦笑いが止まらない。

ゲルダが苦笑いを浮かべる私の顔を覗き込む。にヘーと呑気な笑みを浮かべて、嬉しそうにリボンの付いた小さな可愛い紙袋差し出す。

受け取ると「開けて開けて!! 」と喜色を帯びた目で爛々とこちらを見てくる。その目に負けて開けると白いクッキーが入っていた。

「メレンゲのクッキーだよ。食べてみて。」

促されるままに口に入れると舌にのせた瞬間ふわりと口の中で解けた。優しい甘みがフワッと広がり、消えていく。

「美味しい。」

自然と感想が口から漏れて、思わず表情が綻ぶ。

ゲルダが顔を真っ赤に染めて私をガン見している。エリアスもポカンッと呆けてこちらをみていたが、その顔色がスゥッと厳しいものへと変わる。

ー …嫌な予感がする。

緩んだ顔を必死に引き締めて目を逸らす。リヒト王子に残りのメレンゲクッキーを押し付ける。

「えっ、シュネー!? 」

「美味しいですよ。殿下もどうぞ。ゲルダ、殿下に分けても良いよな。」

「…ふえっ、えっ、あっ、うん!! シュネーのはまた作ってくるよ!!! 」

いきなりの事で驚いていたが、「美味しい。」とリヒト王子も喜び、その言葉にゲルダも照れていた。無理矢理矛先をリヒト王子に修正しようとしたが、「また、作ってくる。」という約束が付いてしまった。

やはり『国外逃亡』するべきか!?

エリアスの顔が怖くて見れない。
ああ、どうしてくれるんだ。

チラリッと茂みを見ると引き続きなんちゃって男爵令嬢ヴィルマが悶えてる。

何だ!? 
まさか着実にストーリー進んでるとか言わないよな!?

寒気が止まらない。

出会ってしまったついでにレオノールにコート返す約束を取り付けようと思ったが、そんな余裕なかった。



「疲れた。」

ふらふらと学園寮の廊下を歩く。
夜の散歩の前に一度休もうと、無理矢理定められた部屋に向かう。

あの昼休みでもう既に心身ともにボロボロだった。てらっと逃げたアルヴィンが申し訳無さそうにする程、ボロボロだった。


「そういえば、四学年は二人部屋か。」

誰と一緒だろう?

そういえば学園長から何も聞いていなかった。荷物を部屋に運び込んだのも警備隊で私は関与していない。知っているのは寮の三階で階段上がったら右奥の角部屋だという事。

「ここか。」

三階の右奥の角部屋。
扉には『シュネー・ハースト』と私の名が彫られたプレートが嵌っている。もう一人の名前は黒のペンキで塗りつぶされていて分からない。

ー 何故、塗りつぶされているのだろう。

そう疑問には思ったが、疲れた頭は上手く回らず、ドアノブに手を掛けた。

扉を開けると薔薇の香りが身体を包む。そして扉の向こうには作られた彫像のように綺麗に微笑む悪魔がいた。

「エリ…アス!? 」

疲れて動かなかった頭が警鐘を鳴らす。すぐに扉を閉めろと。

ドアノブにもう一度手を掛けようと伸ばしたが、その手はエリアスに掴まれ、そのまま部屋の中へと引き摺り込まれた。
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