寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ

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スチル

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昼休みの図書館。
俺は王立図書館のように広く、今まで読んだ事ない本が鎮座しているこの空間に圧倒されていた。

俺は本が好きだ。
本が俺をこの学園に通えるまでの知識を授けてくれたから。読めば読む度、今まで知らなかった事を知る事が出来るそれがとても楽しい。

俺が様々な本に目移りさせながらと本棚の森を歩いていると本に囲まれて一人の少年が寝ていた。

新雪のように混じり気のない白い髪。同じように白く肌に影を落とす程長い睫毛。肌は少し青白くでもそれがまた少年の儚げさを演出している。

その美しい少年を俺は誰だか知っていた。彼は俺がこの学園に通う目的を与えた少年だったから。

幼い頃、王立図書館。
本に夢中で俺は母の形見を図書館の中で落としてしまった。

図書館はとても広く複雑で、小さな俺の手の中に収まってしまう程小さな金のペンダントを見つけるのは不可能に近かった。

『ここにもない。』

ぐすぐすと止められない涙を流しながら必死に陽が落ちても探した。司書の人にも聞いたが、誰も拾ってないという。

『お母さん。』

自身のうっかりで無くしたものの大きさに大粒の涙が瞳から流れ落ちる。あれはお母さんが死ぬ前に『ゲルダを守ってくれますように。』とくれた俺の大事なお守りだった。なのにそれを俺は……。

『ねぇ、これは貴方の? 』

ふと、青白い手が俺の前に差し出される。その中には小さな金のペンダントが握られていた。

真っ白なその子はふわりと優しい笑みを浮かべて……。



授業前のチャイムが鳴り、俺はあの子を起こした。あの子はゆっくりと瞼を開けて、アメシストの瞳で俺を見つめた。

『君が起こしてくれたの? ありがとう。』

『い、いえ。』

まだ眠たげなあの子がふわりと立ち上がる。久しぶりにあった嬉しさと照れで中々あの子に話しかけられない。そんな優柔不断な俺に見兼ねたあの子が俺に声をかけた。

『何か用? 』

『え、あ…その。あの時は助けて頂きありがとうございました。俺、ずっと貴方にお礼がしたくて、貴方に会う為に勉強して入学しました。』

『あの時? 』

こてんとあの子が首を傾げる。
どうやら覚えていないよう。

ああ、そうか。そうだよね。
あんな小さい時のちょっとした出来事なんて覚えてないよね。

勝手に期待した分、余計悲しくなってくる。目に見えて落ち込む俺を見兼ねて、あの子はわざわざ頭をひねって思い出そうとしてくれていた。

『ああ、もしかして王立図書館で、ペンダント失くして泣いてた子?  』

『そうです。あの時はありがとうございました。』

嬉しくて表情が綻ぶ。
あの子は俺の事を覚えてくれていた。それがとても嬉しい。

ああ、頑張ってこの学園を受けて良かった。

『俺、ゲルダ・ファーデンっていいます。ゲルダとお呼び下さい。シュネー様、よろしくお願います。』

『シュネーでいい。よろしく、ゲルダ。』

あの子が、シュネーが金のペンダントを見つけてくれた時のようにふわりと笑う。白百合みたいな凛とした花咲く笑顔で。

スチル:『出会いと再会、図書館に咲く白百合の君』

ーーーーーーーーーーーー


苦笑いが止まらない。
ヴィルマは「ちょっと違うけど、『花君』の有名なあのワンシーン。あの笑顔がプレイヤーは意地でもシュネーを攻略しようと思うのよ。」っと鼻息荒く語っていた。

いや、大分違うって。
確かにゲルダを助けたって所と所々会話は似てるけど。

いや、絶対違う。
私は絶対に信じない。

「シュネー様も満更でもなかったのではなくて? 」

「……友達になれるかもと思っただけだ。恋あ…うっぷ……断じてそういう下心はない。」

本当にーとによによとなんちゃって男爵令嬢が見てくる。

ああ、面倒臭い。
コイツは私と主人公のハッピーエンドが見たいだけだ。

確かに「可愛い。」とは思ったが、別にそういう意味じゃない。猫とかリスとかそういう動物に向けるような「可愛い。」だ。
他意はない。

「シュネー様は幸せになる事を怖がっているだけでじゃないですの? 」

「私の幸せが貴女の考えるそれだと思うな。私の幸せは私が決める。」

やれやれとヴィルマが溜息をつく。本当にこのなんちゃって男爵令嬢は欲望に忠実すぎる。

本当に怖いよ、オマエ。
私はゲーム通りに進む気は無いって。

こちらがヴィルマに引いているとヴィルマがこちらを見てふと何かを考え始めた。「でもなぁ。」とか「ストーリーが。」とかブツブツ呟きながら何か真剣に考えていたが、「よし、これぐらいなら大丈夫か。」と一人で何かを納得していきなり肩をガシッと掴んだ。

「これから言う事をよく聞いてほしいですの。」

「……取り敢えず、手を肩から離して。」

「きちんと聞いてくださいまし。貴方の今後に関わる話ですの。」

「だから手を離して。」

ヴィルマは私が傍に座り、逃げない意思表示をするとやっと肩から手を離した。本当このなんちゃって男爵令嬢は全く令嬢らしくないし馬鹿力だ。肩がヒリヒリ痛い。

そして一体何が始まるのやら。
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