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ジョゼフ視点①
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一つ、この剣は彼の王の為。
一つ、この命は彼の王の為。
一つ、この生は彼の王の為。
これを分かつ事は死しても成らず。
我が全ては彼の王に。
この身は彼の王の剣なり。
精霊の名の下に誓約を。
何度聞いても忌々しい呪いの言葉。
この誓約を知ったのは第一王子の『友人』候補として王宮に召還されるより少し前の事だった。
騎士団長いや、父は俺に剣を教える前に口を酸っぱくして決してこの言葉は唱えてはいけないと約束させられた。
「これは呪いだ。この誓約は決して誰にもしてはならない。国王に求められたとしても絶対にだ。すればお前はもうお前の物では無くなる。」
最初は幼過ぎであまり意味を理解していなかった。ただ父が怖い顔で真剣に言うのでコクコクと頷いた。
◇
あれは少し寒さが増してきた秋の事だった。
落ち葉が舞い散る王宮で何時かは騎士団長として使える予定の自身より一つ下の主人にあった。
あの頃のローレンはまだあどけない美少年で、遠くから見れば女か男から分からなかった。
でも既に王としての片鱗は持っており、従者に指示を飛ばすその姿は正に権力者。
傲慢で融通が効かない所はあったが、使える主人として俺は十分アイツを認めてた。アイツも俺を慕ってくれて、周りに見せない間の抜けた笑顔も俺にだけ見せてくれた。
「ずっと俺の騎士で居てくれるか? 」
「ああ、お前が望むんなら成ってやんよ。鍛錬はキツくてやってらんないけどな。」
二人だけの約束だった。
二人で笑い合い、泣きたい時だって一緒だった。大人達の思惑渦巻く王宮でヤケに大人びたサファイアの瞳も俺の前では優しい色合いを映し出す。
それがとても充実していて、それがとても心地よくて。
だけど時が経つにつれ、アイツは重圧に耐えかねて、アイツは壊れ始めてた。
「オマエは俺のそばに居れば良い。家に帰る必要なんてない。」
「俺が居るんだオマエはもう何もいらない筈だ。」
「俺の居ないオマエに何の価値がある。…もういい、オマエは外に出るな。」
それは無茶苦茶で怖い程の執着だった。
アイツが壊れそうで俺に縋っているのは分かってた。それでも俺に優しい色を向けていたサファイアの瞳にドス黒いものが見えた時、俺はお前を恐ろしいと思ってしまった。
「彼の初代王はこの庭で騎士と一つの誓いを立てたらしい。」
ハナミズキとベロニカが咲き誇るその庭でローレンは俺に膝を突かせてそう言った。ブワッと寒気が身体を駆け巡る。
「俺に『従騎士の誓い』を立てろ。」
たらりと嫌な汗が伝う。
『これは呪いだ。この誓約は決して誰にもしてはならない。国王に求められたとしても絶対にだ。すればお前はもうお前の物では無くなる。』
父の言葉が全身を駆け巡る。
どんなに支えようと思った相手でもそれだけはしてはいけない。したら俺はローレンから逃げられなくなる。
恐る恐るローレンを見上げるとその顔には悲痛の色が浮かんでいた。
「オマエは俺を捨てるのか。オマエもリヒトが良いのか? 」
俺がこの人を支えなければ誰が支えるのだろう。苦痛に歪む表情にそんな事を思った。
俺はこの人を捨てるのかと。
アイツが俺を頼って求めているのにそれをしない事は見捨てると同じなのかもしれない。
そんな事出来る筈がない。
二人で誓いあったんだ。
裏切れる筈がない。
「一つ、この剣は彼の王の為。
……ッ、
一つ、この命は彼の王の為。
……ふッ…グスッ
一つ、この生は…彼の王の為ッ。」
恐怖で涙と震えが止まらない。
唱える度に身体が自身のものでなくなってく錯覚が身体中を駆け巡る。
それがとても怖くて声がこれ以上出ない。
「ーーッ! ーーーーッ!! 」
「どうした、ジョゼ。オマエも俺を捨てるのか。」
ポロポロと涙は出るのに声が出ない。クイッとローレンが俺の顎をあげる。サファイアの瞳が冷たく俺を見ている。
「ーーッ。!! 」
「ジョゼッ!! 」
「何をしているッ。お前達!! 」
視界がふと真っ暗になり、ローレンが見えなくなった。気付けば父の胸の中で俺は気を失っていた。
そこから先は地獄だった。
寝ても覚めても頭の中の誰かが囁く。
『オマエの主人は誰だ。』
と。
『オマエの剣は彼の王のもの』
ー 違う。
『オマエの命は彼の王のもの』
ー 違うッ。違う…。
『オマエの生は彼の王のもの』
ー 違う。もう…やめて!!
どんなに否定しても身体がアイツの元へ行かねばとアイツを求めて動き出す。衝動は半年続き、気を抜くと自身が自身でなくなりそうな恐ろしさが三年続いた。
この状況を重くみた王は俺を正式に『友人』の座から外す事を決定した。
俺は内心ホッとした。
ローレンを見捨てたような罪悪感があったが、それでも『呪』から抜け出せるような開放感があった。
そしてローレンには新たな『友人』達が出来、俺は父のような騎士を目指して猛進した。
二人の道は違えて。
二人の道は終わった筈だった。
一つ、この命は彼の王の為。
一つ、この生は彼の王の為。
これを分かつ事は死しても成らず。
我が全ては彼の王に。
この身は彼の王の剣なり。
精霊の名の下に誓約を。
何度聞いても忌々しい呪いの言葉。
この誓約を知ったのは第一王子の『友人』候補として王宮に召還されるより少し前の事だった。
騎士団長いや、父は俺に剣を教える前に口を酸っぱくして決してこの言葉は唱えてはいけないと約束させられた。
「これは呪いだ。この誓約は決して誰にもしてはならない。国王に求められたとしても絶対にだ。すればお前はもうお前の物では無くなる。」
最初は幼過ぎであまり意味を理解していなかった。ただ父が怖い顔で真剣に言うのでコクコクと頷いた。
◇
あれは少し寒さが増してきた秋の事だった。
落ち葉が舞い散る王宮で何時かは騎士団長として使える予定の自身より一つ下の主人にあった。
あの頃のローレンはまだあどけない美少年で、遠くから見れば女か男から分からなかった。
でも既に王としての片鱗は持っており、従者に指示を飛ばすその姿は正に権力者。
傲慢で融通が効かない所はあったが、使える主人として俺は十分アイツを認めてた。アイツも俺を慕ってくれて、周りに見せない間の抜けた笑顔も俺にだけ見せてくれた。
「ずっと俺の騎士で居てくれるか? 」
「ああ、お前が望むんなら成ってやんよ。鍛錬はキツくてやってらんないけどな。」
二人だけの約束だった。
二人で笑い合い、泣きたい時だって一緒だった。大人達の思惑渦巻く王宮でヤケに大人びたサファイアの瞳も俺の前では優しい色合いを映し出す。
それがとても充実していて、それがとても心地よくて。
だけど時が経つにつれ、アイツは重圧に耐えかねて、アイツは壊れ始めてた。
「オマエは俺のそばに居れば良い。家に帰る必要なんてない。」
「俺が居るんだオマエはもう何もいらない筈だ。」
「俺の居ないオマエに何の価値がある。…もういい、オマエは外に出るな。」
それは無茶苦茶で怖い程の執着だった。
アイツが壊れそうで俺に縋っているのは分かってた。それでも俺に優しい色を向けていたサファイアの瞳にドス黒いものが見えた時、俺はお前を恐ろしいと思ってしまった。
「彼の初代王はこの庭で騎士と一つの誓いを立てたらしい。」
ハナミズキとベロニカが咲き誇るその庭でローレンは俺に膝を突かせてそう言った。ブワッと寒気が身体を駆け巡る。
「俺に『従騎士の誓い』を立てろ。」
たらりと嫌な汗が伝う。
『これは呪いだ。この誓約は決して誰にもしてはならない。国王に求められたとしても絶対にだ。すればお前はもうお前の物では無くなる。』
父の言葉が全身を駆け巡る。
どんなに支えようと思った相手でもそれだけはしてはいけない。したら俺はローレンから逃げられなくなる。
恐る恐るローレンを見上げるとその顔には悲痛の色が浮かんでいた。
「オマエは俺を捨てるのか。オマエもリヒトが良いのか? 」
俺がこの人を支えなければ誰が支えるのだろう。苦痛に歪む表情にそんな事を思った。
俺はこの人を捨てるのかと。
アイツが俺を頼って求めているのにそれをしない事は見捨てると同じなのかもしれない。
そんな事出来る筈がない。
二人で誓いあったんだ。
裏切れる筈がない。
「一つ、この剣は彼の王の為。
……ッ、
一つ、この命は彼の王の為。
……ふッ…グスッ
一つ、この生は…彼の王の為ッ。」
恐怖で涙と震えが止まらない。
唱える度に身体が自身のものでなくなってく錯覚が身体中を駆け巡る。
それがとても怖くて声がこれ以上出ない。
「ーーッ! ーーーーッ!! 」
「どうした、ジョゼ。オマエも俺を捨てるのか。」
ポロポロと涙は出るのに声が出ない。クイッとローレンが俺の顎をあげる。サファイアの瞳が冷たく俺を見ている。
「ーーッ。!! 」
「ジョゼッ!! 」
「何をしているッ。お前達!! 」
視界がふと真っ暗になり、ローレンが見えなくなった。気付けば父の胸の中で俺は気を失っていた。
そこから先は地獄だった。
寝ても覚めても頭の中の誰かが囁く。
『オマエの主人は誰だ。』
と。
『オマエの剣は彼の王のもの』
ー 違う。
『オマエの命は彼の王のもの』
ー 違うッ。違う…。
『オマエの生は彼の王のもの』
ー 違う。もう…やめて!!
どんなに否定しても身体がアイツの元へ行かねばとアイツを求めて動き出す。衝動は半年続き、気を抜くと自身が自身でなくなりそうな恐ろしさが三年続いた。
この状況を重くみた王は俺を正式に『友人』の座から外す事を決定した。
俺は内心ホッとした。
ローレンを見捨てたような罪悪感があったが、それでも『呪』から抜け出せるような開放感があった。
そしてローレンには新たな『友人』達が出来、俺は父のような騎士を目指して猛進した。
二人の道は違えて。
二人の道は終わった筈だった。
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