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面倒ごとはあちらからやってくる
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何故、貴族、王族というのもは矢鱈と茶会やパーティを開きたがるのか。
それは人脈作りや根回し、牽制、情報収集、様々な思惑が渦巻いている。貴族や王族にとって重要な舞台。それは重々承知している。
だが、そもそも私はトラウマの権化の所為でまともに最後まで参加した事がない。鬼ごっこをしている私が本当に参加している意味があるのか。
いや、きっとこれはただの弱音だ。
ただ単に私がそういう所に出たくない、関わりたくないだけだ。
そう、関わりたくない。
でも目の前にはまた、王子からの招待状、『第一王子・第二王子友人合同茶会』という前より更にバージョンアップした招待状が来ている。
「嫌だ。行きたくない。」
招待状を前に絶望する私を見て、アルヴィンが慰めるように肩を叩いた。
◇
王宮の庭園。
フェルメルン初代王が愛したハナミズキとベロニカが咲き誇るその庭園はフェルメルン初代王にとある騎士が誓いを立てた場所だ。その当時、初代王には敵が多く、誰に対しても疑心的になってた彼を守りたいと願った彼の幼馴染の騎士が立てた誓い。それが『従騎士の誓い』だ。
一つ、この剣は彼の王の為。
一つ、この命は彼の王の為。
一つ、この生は彼の王の為。
これを分かつ事は死しても成らず。
我が全ては彼の王に。
この身は彼の王の剣なり。
精霊の名の下に誓約を。
とある騎士はそう誓いを立て、初代王に誓約の口付けを手の甲にしたという。するととある騎士の首筋に花の紋様が浮かび、ベロニカとハナミズキの花弁が空から降ったのだと伝えられている。
そう、興奮気味にシュヴェルトが語っていた。
とある騎士は初代王とともに戦場を駆け巡り、王に勝利をもたらした誉れの騎士。彼は最後まで初代王の為に戦い。初代王が死んだその日に人生の幕を下ろした。
建国して五百年。
ここ二百年は真に『従騎士』になったものはいない。
真に主人に命運を預ける覚悟のあるものしか誓いを立てても『従騎士』にはなれない。しかしその誓いは強力で嘘でも誓って仕舞えば効力は薄まるが、騎士の誓いより強い『呪』となる。腐った貴族や王族の所為でそれに苦しむ者も多かったとか。
ジョセフが庭を見て、柄にもなく盛大だ溜息をつく。どうやらジョセフもこれから始まる『茶会』が憂鬱らしい。
歴史ある場所での『茶会』。
きっとこれも様々な思惑が渦巻いているのだろう。
◇
薄紅色のハナミズキの花弁が風に揺れている。この何処か慎ましい美しさのある花には似合わぬ程、華のある少年がドカッと茶会の中心を陣取り彼は黄金の様に輝く髪を風になびかせ、サファイアの瞳で散った花弁の後を追っていた。
隣にちょこんと並ぶ第二王子のリヒトと比べると、第一王子ローレンに王子としての華がありすぎて、第二王子のリヒトが霞んでしまう。本人もそれは自覚している様で苦い笑みを浮かべている。
リヒト王子の『友人』は何時ものメンツ。レオノールはさっさとリヒト王子の隣を陣取った。シュヴェルトとエリアスは周りの動きを見ている。
ローレン王子の『友人』は公爵家のブルーノ・ベルンハルト、伯爵家のドミニク・エッカルトに我が兄フェルゼン・ハースト。そして女装癖のカール・アーバインだ。
私を見つけた女装癖のカールは蜂蜜色の瞳に喜色を浮かばせていた。何となくなんちゃって男爵令嬢の婚約者と関わるのは嫌なので会釈にとどめた。
それにしても改めて見ると、とても偏りを感じる『友人』関係である。
第一王子のローレンには公爵家のブルーノ以外は全員伯爵位。侯爵位も辺境伯位もいない。まあ、それでも伯爵位の中では有力な家の出ではあるが。
それに比べて第二王子のリヒトには宰相の息子、レオノールに貴族の中でも裏の実力者と名高いクランクハイト侯爵の嫡男、エリアス。騎士団長の息子、シュヴェルトだ。
やはりこうやって比べると本当に裏しか感じない。きな臭い。
出来るだけ関わり合いたくない。
「ジョゼフ、ここに来い。」
ローレン王子が『友人』で公爵のブルーノを差し置いて、隣の席にジョゼフを呼ぶ。
ジョゼフは困惑の表情を浮かべながらもローレン王子の隣に座った。ブルーノはそれがお気に召さない様子でジョゼフの隣に座り、ジョゼフを射殺さんばかりに睨んでいる。
こっちの派閥も実に面倒臭い。
「おいで、シュネー。」
ピリピリした空気漂うこの庭で呑気な声が私を呼ぶ。フワフワとした空気を纏う我が兄は、席に座り、ポンポンと自身の膝を叩き、手招きする。
いや、流石にマイペース過ぎるでしょ。
「兄上、こういう場です。それに私ももう幼くないのでやめましょう。」
丁重にお断りするとコテンと首を傾げた。いや、何で理解出来ないって顔してるんだ兄よ。
「シュネーはまだ十二歳でしょ? 」
「私はもう十二歳なんです。この国では十二歳は見習い騎士として働ける歳です。」
ポスンッと兄の隣に座ると「シュネーは恥ずかしがり屋だね。」っと苦笑を浮かべる。一体兄の中で私は何歳で止まっているのか。
更に隣にエリアスが座って私は思わず悲鳴を上げそうになった。取り敢えず、席を兄の方に寄せたが、奴も寄せてきやがった。
対面にはジョゼフが座っており、話し掛けてくる『友人』達を無視してガンガンと弾丸トークでジョゼフに話し掛けているローレン王子の姿がよく見えた。
会話を無視されたブルーノはプルプル怒りに震えて、更にジョゼフを睨んでる。そしてジョゼフ当人は、はたはた困った様子で顔に「勘弁してくれ。」と書いてあった。
ご愁傷様です。
「シュネー久々だね。騎士団の寮に入ってからこうして一緒に食事するのは。」
「そうですね…。」
やはり周りが見えていないホワホワな兄は嬉しそうに慈愛のこもった笑みで微笑む。この状況で喜べるのはホワホワな兄くらいだ。陽気なシュヴェルトでさえ、困惑気味で動向を伺っている。
甘いケーキに香り高い紅茶。
あまりの気不味さに皆、ただ紅茶を飲むペースだけが進む。味は何だか気不味くてしない。トラウマの権化に追い掛けられない茶会って久しぶりだが、これなら追い掛けられていた方がマシだ。
「シュネー、あーん。」
本当に空気を読まない兄がケーキを手ずから食べさせようとしてくる。本当にこの人はとことん天然だ。
空気を読め。
そして私はもう十二歳だ。
口を開かないとシュンッと叱られた犬のような悲しそうな表情を兄が浮かべている。
「学園に行くまではこうやってあーんしてたのに。」
「だから、私はもう…。」
「はい、あーん。」
「…ムガッ!? 」
反論しようと口を開けたら無理矢理ケーキを押し込められた。
かなり無理矢理だったのでむせて涙目になってしまった。私はもう一度反論しようとしたがまた無理矢理口にあーんされた。
「んッ! …ちょっ、まっ…あふ。」
満足気に兄が笑う。
私がシュネーになってから家族の前でも恥ずかしいのに公衆の面前でのあーんは流石に堪えた。
恥ずかしい。
顔が真っ赤になる。
狼狽える私の横からまたフォークに刺さったケーキが差し出される。今度は兄でなくエリアスだ。ニコッと女性が卒倒しそうな甘い笑みを浮かべて。
ー ふざけるな、誰が食べるか!!
「大丈夫か、シュネー。」
苦笑を浮かべてこちらより更に大変そうなジョゼフが心配する。シュヴェルトも「大変だな、相棒。」っと言いたげな表情を浮かべている。
ダンッ
突如、テーブルが力任せに叩かれ、揺れる。紅茶が大きな波を立ててカップから溢れた。
そして第一王子が何故がキレていた。
それは人脈作りや根回し、牽制、情報収集、様々な思惑が渦巻いている。貴族や王族にとって重要な舞台。それは重々承知している。
だが、そもそも私はトラウマの権化の所為でまともに最後まで参加した事がない。鬼ごっこをしている私が本当に参加している意味があるのか。
いや、きっとこれはただの弱音だ。
ただ単に私がそういう所に出たくない、関わりたくないだけだ。
そう、関わりたくない。
でも目の前にはまた、王子からの招待状、『第一王子・第二王子友人合同茶会』という前より更にバージョンアップした招待状が来ている。
「嫌だ。行きたくない。」
招待状を前に絶望する私を見て、アルヴィンが慰めるように肩を叩いた。
◇
王宮の庭園。
フェルメルン初代王が愛したハナミズキとベロニカが咲き誇るその庭園はフェルメルン初代王にとある騎士が誓いを立てた場所だ。その当時、初代王には敵が多く、誰に対しても疑心的になってた彼を守りたいと願った彼の幼馴染の騎士が立てた誓い。それが『従騎士の誓い』だ。
一つ、この剣は彼の王の為。
一つ、この命は彼の王の為。
一つ、この生は彼の王の為。
これを分かつ事は死しても成らず。
我が全ては彼の王に。
この身は彼の王の剣なり。
精霊の名の下に誓約を。
とある騎士はそう誓いを立て、初代王に誓約の口付けを手の甲にしたという。するととある騎士の首筋に花の紋様が浮かび、ベロニカとハナミズキの花弁が空から降ったのだと伝えられている。
そう、興奮気味にシュヴェルトが語っていた。
とある騎士は初代王とともに戦場を駆け巡り、王に勝利をもたらした誉れの騎士。彼は最後まで初代王の為に戦い。初代王が死んだその日に人生の幕を下ろした。
建国して五百年。
ここ二百年は真に『従騎士』になったものはいない。
真に主人に命運を預ける覚悟のあるものしか誓いを立てても『従騎士』にはなれない。しかしその誓いは強力で嘘でも誓って仕舞えば効力は薄まるが、騎士の誓いより強い『呪』となる。腐った貴族や王族の所為でそれに苦しむ者も多かったとか。
ジョセフが庭を見て、柄にもなく盛大だ溜息をつく。どうやらジョセフもこれから始まる『茶会』が憂鬱らしい。
歴史ある場所での『茶会』。
きっとこれも様々な思惑が渦巻いているのだろう。
◇
薄紅色のハナミズキの花弁が風に揺れている。この何処か慎ましい美しさのある花には似合わぬ程、華のある少年がドカッと茶会の中心を陣取り彼は黄金の様に輝く髪を風になびかせ、サファイアの瞳で散った花弁の後を追っていた。
隣にちょこんと並ぶ第二王子のリヒトと比べると、第一王子ローレンに王子としての華がありすぎて、第二王子のリヒトが霞んでしまう。本人もそれは自覚している様で苦い笑みを浮かべている。
リヒト王子の『友人』は何時ものメンツ。レオノールはさっさとリヒト王子の隣を陣取った。シュヴェルトとエリアスは周りの動きを見ている。
ローレン王子の『友人』は公爵家のブルーノ・ベルンハルト、伯爵家のドミニク・エッカルトに我が兄フェルゼン・ハースト。そして女装癖のカール・アーバインだ。
私を見つけた女装癖のカールは蜂蜜色の瞳に喜色を浮かばせていた。何となくなんちゃって男爵令嬢の婚約者と関わるのは嫌なので会釈にとどめた。
それにしても改めて見ると、とても偏りを感じる『友人』関係である。
第一王子のローレンには公爵家のブルーノ以外は全員伯爵位。侯爵位も辺境伯位もいない。まあ、それでも伯爵位の中では有力な家の出ではあるが。
それに比べて第二王子のリヒトには宰相の息子、レオノールに貴族の中でも裏の実力者と名高いクランクハイト侯爵の嫡男、エリアス。騎士団長の息子、シュヴェルトだ。
やはりこうやって比べると本当に裏しか感じない。きな臭い。
出来るだけ関わり合いたくない。
「ジョゼフ、ここに来い。」
ローレン王子が『友人』で公爵のブルーノを差し置いて、隣の席にジョゼフを呼ぶ。
ジョゼフは困惑の表情を浮かべながらもローレン王子の隣に座った。ブルーノはそれがお気に召さない様子でジョゼフの隣に座り、ジョゼフを射殺さんばかりに睨んでいる。
こっちの派閥も実に面倒臭い。
「おいで、シュネー。」
ピリピリした空気漂うこの庭で呑気な声が私を呼ぶ。フワフワとした空気を纏う我が兄は、席に座り、ポンポンと自身の膝を叩き、手招きする。
いや、流石にマイペース過ぎるでしょ。
「兄上、こういう場です。それに私ももう幼くないのでやめましょう。」
丁重にお断りするとコテンと首を傾げた。いや、何で理解出来ないって顔してるんだ兄よ。
「シュネーはまだ十二歳でしょ? 」
「私はもう十二歳なんです。この国では十二歳は見習い騎士として働ける歳です。」
ポスンッと兄の隣に座ると「シュネーは恥ずかしがり屋だね。」っと苦笑を浮かべる。一体兄の中で私は何歳で止まっているのか。
更に隣にエリアスが座って私は思わず悲鳴を上げそうになった。取り敢えず、席を兄の方に寄せたが、奴も寄せてきやがった。
対面にはジョゼフが座っており、話し掛けてくる『友人』達を無視してガンガンと弾丸トークでジョゼフに話し掛けているローレン王子の姿がよく見えた。
会話を無視されたブルーノはプルプル怒りに震えて、更にジョゼフを睨んでる。そしてジョゼフ当人は、はたはた困った様子で顔に「勘弁してくれ。」と書いてあった。
ご愁傷様です。
「シュネー久々だね。騎士団の寮に入ってからこうして一緒に食事するのは。」
「そうですね…。」
やはり周りが見えていないホワホワな兄は嬉しそうに慈愛のこもった笑みで微笑む。この状況で喜べるのはホワホワな兄くらいだ。陽気なシュヴェルトでさえ、困惑気味で動向を伺っている。
甘いケーキに香り高い紅茶。
あまりの気不味さに皆、ただ紅茶を飲むペースだけが進む。味は何だか気不味くてしない。トラウマの権化に追い掛けられない茶会って久しぶりだが、これなら追い掛けられていた方がマシだ。
「シュネー、あーん。」
本当に空気を読まない兄がケーキを手ずから食べさせようとしてくる。本当にこの人はとことん天然だ。
空気を読め。
そして私はもう十二歳だ。
口を開かないとシュンッと叱られた犬のような悲しそうな表情を兄が浮かべている。
「学園に行くまではこうやってあーんしてたのに。」
「だから、私はもう…。」
「はい、あーん。」
「…ムガッ!? 」
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かなり無理矢理だったのでむせて涙目になってしまった。私はもう一度反論しようとしたがまた無理矢理口にあーんされた。
「んッ! …ちょっ、まっ…あふ。」
満足気に兄が笑う。
私がシュネーになってから家族の前でも恥ずかしいのに公衆の面前でのあーんは流石に堪えた。
恥ずかしい。
顔が真っ赤になる。
狼狽える私の横からまたフォークに刺さったケーキが差し出される。今度は兄でなくエリアスだ。ニコッと女性が卒倒しそうな甘い笑みを浮かべて。
ー ふざけるな、誰が食べるか!!
「大丈夫か、シュネー。」
苦笑を浮かべてこちらより更に大変そうなジョゼフが心配する。シュヴェルトも「大変だな、相棒。」っと言いたげな表情を浮かべている。
ダンッ
突如、テーブルが力任せに叩かれ、揺れる。紅茶が大きな波を立ててカップから溢れた。
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