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ただの気紛れ(ソレーユ視点)②

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「くっそ…。痛い…。」

馬車に揺られながらコタローが上を脱ぎ、背を向ける。
背中には痛々しい赤い傷痕があり、傷をなぞるように治癒師から渡された薬を塗ると痛みに小刻みに身体が揺れる。

傷は左の肩甲骨から尾骨近くまで届く大きなもので後もう少し右にずれていたら背骨まで傷付ける所だった。

下手したら下半身付随もになっていたと治癒師に説明された瞬間、鬼の形相でコタローに蹴られ、しこたま怒られた。

「命の大切さも分かんねぇガキが剣なんざ持ってるからだッ。」

その他にも「剣なんて捨てちまえ。」とか。「テメェに剣の才能はねぇ!!」など周りの使用人が真っ青になる説教プラス暴言が響いた。


治癒師の診断では二週間は安静に寝ているようにと言われたのだが、断固として戦について行くと聞かなかった。

おそらく、原因はクエスティが未だモモという魔物から分離しておらず、モモの身体ごと戦争に行こうとしているからだろう。


クエスティはどうやらモモという器を気に入ったようで約束を無視して手放さない。

《命令》をすれば、出て行くだろうがモモを返したらコタローは俺の手から離れてしまいそうで《命令》する気になれないでいる。

今のままならコタローはずっと俺の側から離れられない。それを望んでいた筈なのにそれでも心は晴れない。


薬を塗り終わるとコタローは痛みに耐えながら馬車に寝転がり、窓から外の様子を伺う。そして嫌悪感丸出しの顔で溜息をついた。


馬車の外に映るのは死相を浮かべる死に兵達。
彼等はまた一歩また一歩と死に場所へ向けて歩き続けている。

暫く見て、もう一度ため息を吐くとコタローは体力が切れたのか。背中を痛めないように背もたれに体重を掛けて、寝息を立て始めた。

その寝息を聞きながらぼんやりとコタローが見ていた景色を見ていると俺よりも若い少年が飛び出していた木の根に引っ掛かり、転けた。


死んだ顔をした兵達は転けた少年の姿が目に入らないのか、何もなかったかのように歩き続ける。

少年も自力で立ち上がった。歩き始めるが、その膝からは血が滲んでいる。
この時、自分が何を思ったのかは分からない。でも、気が付けば、少年の膝をコタローから教えられた通りに布で止血していて…。

少年はビクビクとしながらも「ありがとうございます。」とお礼を行って、ひょこひょことびっこを引きながら隊列に戻っていった。

「ありがとう?」

初めて人から言われたその言葉に戸惑い、自身の行動にも困惑した。
自分の中で次々と今までなかった感情が生まれ続けて、心を、考え方を、染めていく。
そして、はたと思った。

「明日にはあの子も死ぬのか。」

戦争の捨て駒として国から召集され、武器と同じように使い捨てられる存在。
どれ程、止血しようと明日にはもう動かなくなってしまう存在。

「本当に明日、死ぬ必要があるんだろうか。」

ただ純粋に疑問に思った。
そもそも魔族の国ヴラディアに仕掛ける大義名分は魔王討伐。
国家間の戦いではなかったのに何時の間にかに戦争にすり替わっていった。






人族の国プロイ魔族の国ヴラディアの国境は小さな丘になっている。
丘に着いた頃には陽も落ち、星空が広がっている。

星空を眺めながら丘の上で剣を抱えて座していると来ると予想していた相手がこちらを見上げていた。

「敵地にひとりで乗り込んで来たからまさかとは思ったけど…。」

「…これは貴方と私の喧嘩です。一騎討ちに部下を連れてくる卑怯な真似はしませんよ。」

人族とは異なる薄緑色の肌。
力強く真っ直ぐにこちらを紫色の瞳はコタローを彷彿とさせる。

おそらく、自分はこの男にいい感情を抱いていない。
正直、戦争も一騎討ちもどうでもいい。
だから、ここにいるのは気紛れだ。
ただ少しだけコタローが気にするこの男に興味が湧いただけ。

「その一騎打ち、受けてあげるよ。」

剣を抜き、その刃を目の前の魔王に向けた。
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