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ソレーユという子供

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パサッと簡単に肩から落ちた落ちた服を目で追い、はたと困惑が少し冷め、ソレーユの胸を押した。

ソレーユは眉間に少し皺を寄せて胸を押す手を握る。

「…俺に触れんじゃねぇ。」

「君は俺の伴侶だ。触れるのは当然の権利だと思うけどね、」

「お前と伴侶っていうのがいまいち信用出来ねぇんだよ。お前に触れられるとゾワッとする。記憶がなかったとしても好いてた相手ならゾワッとはしねぇだろ。」

流石に愛している相手に鳥肌はたたないだろと問い詰めると何がおかしいのか笑い始めた。

「……ふふっ。あははは。ちょっと、がっつき過ぎたかな?」

でも、伴侶っていうのは本当だよ。耳元で囁く。
そもそもさっきからこちらを見る視線にちょくちょく獲物を狙うような捕食者の目が混ざってる。

不意に喉元を嚙みちぎりにきそうな危ない目だ。

ー 何がどうなって。俺はこんなヤバイ奴に目をつけられたんだ…。

そう思い返してみてもやはり記憶がない。
何か大切な事が抜けている。


「好かれるって難しいね。奪うだけなら簡単なのに。奪うだけなら一瞬なのに。」

ソレーユの手が首に回る。
そのまま力を入れようとした。しかし、難しい顔をして、もどかしそうに手を離した。

「なんでかな。奪えば兄上の小鳥のように永遠にずっとそばに居られるのに出来ないんだよ。君に好いて欲しくて堪らなくて…。」

困ったな。ともどかしそうに獣が笑う。
目の前にいるそれはとても歪な獣で。
愛し方も愛され方も知らない。

その獣を一瞬、憐れだと思った。
そして、次にその姿が自身に少し重なり、苛立った。

「なんでだろうね。奪ってしまえば楽なのに…。こんなにも欲しいのに。」

「奪わなければいいだろ。好いてもらいたいなら相手ときちんと向き合えばいいだろ。」

それが出来てやっとスタートラインに立てる。
《あの人》は人でなしだけど、《あの人》なりに俺を理解して向き合ってくれていた。かなり無理矢理だったが…。

恋愛のどうのこうのは分からないが、きっと母との関係に足りなかったのはそれだったのかもしれない。


フンッと鼻を鳴らし、昔の自身と少し重なるソレーユを見やる。

ソレーユは「記憶をなくしても君はやっぱり俺を否定するんだね。」と不思議なものを見るような顔をした。その顔は何処か少し嬉しそうで、子供のように真っさらに見えた。

まるで何も知らない幼い子供のようで、コイツはきっと何も知らないんだろうなと感じた。

愛し方も愛され方も、善悪も全て、知らないで教えてもらえないで育ったのかもしれない。

そう思うとなんかモヤモヤする。

絶対、面倒な事になっていると分かっていても。おそらく、かなり理不尽な事に巻き込まれていると分かっていても情が湧く。


『敵には容赦ない癖に一度懐に入れた相手には甘い。』

《あの人》の言葉がふと、頭に浮かんでワシワシと苛立ちに任せて頭を掻いた。

本当。自分でもとことん馬鹿な性格だと思う。情が湧いてしまった時点で関わるなという方が無理なんだろうな、俺は。

「先ず、じっくり人となりを知る所から始めろよ。それが人間関係ってもんだろ。」

本当に面倒な性格だ。
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