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俺は俺だから

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睨むと殴られて腫れた頰を抑えて、一瞬目を丸くしたが、「本当に全然思い通りにならないや。」と呟くとプッと口に溜まった血を吐き捨てた。

「クエスティ。もうそのオークの心身を掌握済みだよな? 」

「はい。吾が主よ。少し手こずりましたが完全に掌握しております。」

「なら、この場で自害させる事も可能?」

「ふふふっ。勿論に御座います。…どう致しますか?崖から身を投げますか?それともこの場で首をくびりましょうか?」

「どれも魅力的で迷うな。…ねぇ、君はどうしたい?」

選ばせてあげるとにっこりと人の皮を被った悪魔は先程とは一変して穏やかに笑い、問い掛ける。舌打ちをしてモモに手を伸ばそうとするが、モモの手がモモの首に回る。

手を出したらこのまま首をくびり落とすと言わんばかりにモモの中の奴がさも楽しそうに首に回した手に力を入れる。

「やめろ。モモに手を出すな…。」

「君を突き落としたそのオークがそんなに大事?俺は要らないと思うけど?」

「ふざけんなッ。モモは理由も無しに誰かを傷付けるような奴じゃない。お前がモモを語るな。」

「ふーん。…でも、このままじゃ、あのオークは確実にサヨナラだね。だって、首が落ちる前にクエスティを体内から追い出す事は君には出来ない。さて、君はどうやってあのオークを助ける?」

モモに伸ばした手をあの勇者が取り、糸の方へと誘導する。糸が触れるか触れないかの所まで持ってくると溜息をついた。

「君は本当に強情で愚かで美しい。…どうする?意地を通してあのオークが命数尽き果たす所を見るか。それとも意地を捨ててこの糸を取ってあのオークの寿命を引き延ばすか。」

「……最低な野郎だ。」

「そう?命が尽きる日がただ今日になるだけ。君が俺の下に戻るだけの話だと思うけどね。」

「成程な。平然と自身の兄をぶっ壊せる訳だ。……俺はテメェが心底嫌いだ。」

「俺は君が好きだよ。出会ったあの日から君は俺を惹きつけて離さない。」

忌々しい男をひと睨みしてゆっくりと瞼を閉じる。
どう生きればここまで狂った人間が産まれるのかと心の中で悪態を吐き、その悪態ごと息として肺から全て吐き出す。

ー どうなろうが俺は俺らしく進むだけだ。

ぐだぐだ文句を垂れるのは柄じゃない。
追い詰められて悲嘆にくれるのも。自分可愛さに舎弟を見捨てるのも。そうしてしまえば、それはもう俺じゃない。

そのか細い糸が引きちぎれんばかりに乱暴に掴む。
すると糸が繋がる感覚とともに目の前の男の魔力が糸を伝って身体へと流れていく。

「ッツ!!? ん"っ、ぁ。……ぅ。」

その魔力はあの蕩けるように甘かったミドリのものとは違い、流れた瞬間は焼けるようで、とても苦い。

吐き気とともに世界がぐるりと回る。グラッと傾いた身体を忌々しい男が抱き留める。

冗談じゃない。テメェが触んじゃねぇよとぶん殴ってやりたいのにそれはダメだと何かが叫ぶ。その何かにも腹が立ち、ギリッと思いっきり唇を噛んだ。

「……これ、で、モモには手を出さないんだろうな?」

「約束するよ。完全にクエスティと分離するには時間が掛かるけど君が俺の下に居るなら手を出さない。」

「何があってもか?」

「いいよ。別にあのオークに興味はないしね。好きな相手の要望はある程度、聞いてあげないとだしね。」

その言葉にフンッと鼻で笑い、思いっきしその腹をぶん殴る。ゴホッと苦しむ奴の姿にいい気味だと少しスッキリしたが、すぐさま身体中に激痛が走った。

何がなんでも俺の中の何かは俺にコイツを傷付けさせたくないらしい。

「トリスタンの分だ。…忘れんなよ、その痛みを。絶対に忘れさせねぇからな。」

意識が飛びそうになるのを意地で我慢して吠える。
だが、視界が霞んでいき、俺の意志も意地も関係なく、意識が遠のいていく。

消えゆく意識の中、今にも泣きそうなモモの姿が見えたような気がした。
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