その召喚獣、ツッパリにつき

きっせつ

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『トリスタン』

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傲慢で臆病者。
それが最初に俺が抱いたトリなんちゃらへの印象だった。

弱っちい取り巻きどもに煽てられていい気になって威張るも結局はびびって男らしく喧嘩も出来ない奴。


「なんでお前がここに居んだ!? 」

そんな自身の城でいばり散らしていると思っていた相手が何故か目の前にいる。まさかここは城か?と一度外に出たがやっぱりここは森の中で変態の忌々しい店(大人の玩具の店)だ。

本当になんでここに居るんだと困惑して頭を掻き、もう一度トリなんちゃらを見る。すると先程まで怯えていたのだが、俺を見て何故かパアァッと明るい顔になり、パタパタとこちらに寄ってくる。

それが俺の知るトリなんちゃらのイメージとはかけ離れていて、とても不気味で身構えるがくるくると俺の周りを楽しげに回るとニコッとこちらに笑いかけてきた。…マジで何!?

その姿に呆気に取られていたがはたと目的を思い出す。何故コイツがここに居るのかは分からないが、やる事の順番が変わっただけだ。

コイツに拳骨を落として次にあの変態をシメる。予定になんら問題はない。


「よくも魔力を絶ってくれたな…。」

バキバキと指を鳴らし、睨むとトリなんちゃらが慌てて涙目で首を横に振る。パクパクと口を動かしているが口から言葉が出る事はなく、ただ動かしているだけ。

何か違和感を覚え、首を傾げるとバタバタと店の奥から音がして息を切らしながらあの変態が出てきた。

「と、トーリッ。こっちのお店は店番しなくていいっていったよね!? 」

俺の事なんか目に入らないくらいに慌ててあの変態がトリなんちゃらの肩を掴む。トリなんちゃらはそんな変態に満面の笑みを浮かべて、変態の手に自身の指でなぞり何かを書いている。

「何何…?『お手伝いしたかったの。』…だって? うぅ…。気持ちは嬉しいんだけどねぇ。こんな事させたら僕の親友である君のご先祖さんにあの世で絶対、半殺しにされる。…こんな如何わしくて犯罪めいたお店の店番なんかしなくていいんだよ。」

「……おい。お前…、如何わしい上に犯罪めいてるって自分で言うのか。分かってて俺に店番させてたのか、このエロジジイ!!! 」

「うわぁっ、コタくんッ!!? 何故ここに……ってイッタイ!? いきなりグーはやめて!!! 」

「問答無用ッ。」

最初は腹に一発と決めていたのに違う理由で頭に拳骨を落としてしまった。

本当にふざけた変態だ。
お前、俺にこの忌々しい店の番を任して楽しんでただろ!! ふざけんなッ。

「落ち着こうッ。落ち着こうよ、コタくんッ!?あれかい!?魔力ゼロの君の命は魔力増強剤だけじゃ繋げないから実は夜な夜な僕からのチュウで少しだけ増強用の魔力を補填してた事がバレた感じかい??これには海よりも深い事情があるとかないとか…。」

「ちょっと待て…。なんの事だ。」

「え? ……あははっ。…はは。今のは無しで。」

「無理に決まってんだろッ。」

知らなかった知りたくもなかった事実に怒りのボルテージが上がっていく。
怒りともに沸き上がる嫌悪感で唇をゴシゴシと乱暴に拭く。「酷い…。バイ菌扱い…。」と悲しそうに呟いたが知らん。…なんでだろうな。人工呼吸だとしてもお前だけは嫌だ。

やはり、一発では足らないと拳を振り上げると腕にトリなんちゃらが縋り付き、必死に「やめて。」と言わんばかりに首を横に振る、

「安心しろ…。コイツの次はお前だ。大人しく待ってろ。」

「…ッ!!………ッ!!! 」

「なんでさっきから無言なんだよッ。言いたい事があるならきちんと言葉にしろ!! 」

そう怒鳴ると困ったような顔でトリなんちゃらが変態の方を見やる。変態はそんなトリなんちゃらを見て、「おいで。」と優しく呼び寄せ、スンスンと泣き始めたトリなんちゃらをあやし始めた。

トリなんちゃらをまるで小さな子供のようにポンポンと背を撫でながら優しく抱きしめる。声もなく、ポロポロと泣くトリなんちゃらは本当に前にあった時より精神年齢が低くなっているように感じた。

…いや、そもそもコイツがトリなんちゃらかも疑問に思い始めてきた。姿形は一緒だが、あまりにも性格が違い過ぎる。

「なぁ。ソイツは…。」

「この子は今、喋れないんだ。だからコタくん。責めないであげて欲しいねぇ。」

怖い事はもうないよ、と変態が優しくトリなんちゃらに語り掛ける。するとチラチラと不安そうな顔でこちらを確認してくるので、取り敢えず「もう怒鳴らない。」と声を掛けるとホッと安心した表情を変態の腕の中で浮かべた。

「僕は彼をトーリと呼んでいる。元は人族の国プロイの王太子トリスタン・プロイ。…でも、今の彼はトリスタンであってトリスタンじゃない。君の人だよ。」

その言葉に目を丸くする。

トリなんちゃらであって、もうトリなんちゃらではない?
俺の召喚主だった人?

全てが過去形で目の前にいるのにまるでアイツがもう居ないような口振りだ。

「そうだよ、コタくん。君の知るトリスタンはもういない。彼の自我は崩壊してしまった。」

「ど…ういう事だよ。自我が壊れる?何が…、何があったらそんな別人になる程壊れちまうんだよ。何が起きてんだ!?」

そう問うとあの変態が少し言い辛そうにこちらを見た。そして自身の腰に差している剣に触れると神妙な面持ちで口を開いた。

「魔力とは生命力。その話はコタくんには再三したよねぇ?」

「ああ。俺はその魔力が欠乏してるから死にかけているって奴だろ。」

「そう。生きる為には魔力が不可欠で魔力はその人の持つ魂に刻み込まれている。彼は自身の弟にその魔力を魂から無理矢理剥がされたんだよ。何とか魔力の一部は残ったものの、無理矢理剥がされた所為で魂が損傷し、同じく魂に刻まれていた彼の自我も崩壊した。」

おぞましい話だよと溜息をつき、トリなんちゃら…いや、トーリの頭を撫でる。トーリは話の間、オロオロと心配そうにこちらを見ていたが、頭を撫でられるとトーリは目を細めて喜んでいた。

その姿はやはり俺の知るトリなんちゃらではなく、別人で本当にトリなんちゃらがもうここには居ない事を実感させる。


ー どうして…。

俺は正直アイツを好いちゃいなかった。
寧ろ、しょうもない奴だと思っていた。
しかし、別にこの世界に喚んだトリなんちゃらに恨みはなく、消えて欲しいなんて思った事は勿論ない。

そしてそれと同時に情もない筈だった。
それなのにやるせない気持ちが心の中で渦巻き、自然と握る拳に力が入る。爪が食い込み、手から血が滲むと変態に甘えていたトーリがソッと俺の手を包み、握り込んだ俺の手を優しく解く。

その顔には真っさらな子供のように純粋な笑顔が浮かんでてパクパクと音の出ない口で「大丈夫だよ。」と慰める。

「全然大丈夫じゃねぇだろ…。」

はしょうもない奴だった。
傲慢で臆病者。
偉ぶって理不尽でムカつく要求をする癖に殴られるから決して近付こうと卑怯者。

だが、それでも悪党ではなかった。
自我を破壊され、言葉を奪われる程の何か悪い事が出来るような奴ではなかったんだよ…。
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