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後悔先に立たず②
しおりを挟むバッと顔を上げると議長がはたとこちらに気付き、歩くペースを上げる。そのつま先はどう見ても私の部屋の方向。
ギリッと怒りに思わず歯軋りをして蹴り出す足に力を込める。全速力で加速し、その肩を壁に叩きつけるように掴むと、痛みで歪んだ顔には憎悪が浮かんでいた。
「会議を抜け出してまた火急の用ですか? 」
「ゴブリンごときにアレは過ぎた品だ。我々が管理してこそ、アレもその役割を果たせるに違いない。」
「貴方は何故、そこまでコタに固執する? あの人をどうするつもりなんだ。」
めり込む程強く、掴んだ肩を逃げないように壁に押し込めるとブワリッとドス黒い魔力が殺気と共に議長の身体から発露する。
あわや一触即発という所でコツコツとヒールを響かせてあの人の魔力が議長の魔力を掻き消した。
「おい、貴様。妾の愛しい愛しいミドリに殺気を向けるとは……。どうやら死に急ぎたいらしいの。」
身体から無尽蔵に魔力を放出し、その色めかしい薔薇色の唇を弧を描き、嘲りの笑みを浮かべる。恐ろしくも妖艶なその姿に大概の男は魅了され、シャルマンの魔術の術中に嵌まる。
完全に術中に嵌った議長は大人しくなり、ストンとその場に座り込んだ。その目は焦点があっておらず、シャルマンに頭を小突かれても一切反応を見せない。
ー 相変わらず、恐ろしい。
抵抗なんてさせるコンマ数秒の余裕すら与えず、相手の意識を精神魔法で掌握する。彼女がその気になれば、勝負をする前から全てが終わってしまう程の精神魔法の使い手。
基本、パレスに相次いで面倒臭がりで、インドア派で引き篭もりがちな故にその実力を発揮するのは普段は余計な事ばかりなのが本当に残念だ。
「…最後が余計じゃ。折角、穏便に済ませてやったのだろうが。」
またまた魔眼で人の心を勝手に読み、シャルマンは憤慨する。だが、憤慨している割には機嫌が良い。
「ふふんっ。分かるか? ふふふっ。妾は今、とても機嫌が良い。…なぁ? 気になるか? 気になるか、ミドリ。」
「……今は急いでいるので。」
「こーら。師の話は最後まで聞くものよ。ゆるりと聞いてゆけ。」
議長は止められたがまだ部屋の結界が破壊された件については解決していないので、急いでコタの下に戻りたい。だが、腕をその豊満な胸で挟むように押しつけながら腕を絡ませ、足止めする。
本気で勘弁してください。と、目で訴えるとまぁまぁといいじゃろうて? と止めてくる。全く、良くない。
「安心せぇ。あの部屋の二重結界を壊したのは妾じゃ。」
「何してくれてんですかッ。何の為に結界を張ったと思ってるんですかッ!? 」
「バカもんッ。友人よりも先に母に恋人を紹介する所をお主がしないから出向いたのだろう!! それくらい許せ。」
「許せる訳な…、ん? は、母!? ……言っときますけど私、母はおろか父も居ませんし、知りませんよ。ゴブリンは生まれた数分で自分の力で生きていかねばならないので、親がいる意味ないですから。」
「馬鹿息子ッ。妾はお主に魔法を教えて育てたのじゃからもはや妾は親も同然。」
それ、普通に師匠って事でいいじゃないですか。寧ろ、家に居る事が多いのに生活力がない貴方を世話したのは私では?
しかも守る為の結界を壊して置いて一切悪いと思ってない。せめて反省はしてくださいッ。
そう言いたかったが、それを言えば話が長くなる。
どうせ、言わなくても伝わってはいるのだから態々、時間を割く必要がない。
「くっ!! 母よりも恋人…か。母は切ないポジションじゃ。」
そうひとりで妄想を楽しみ始めた放っておき、今度こそ転移魔法で一気に自身の部屋へと戻る。
顔を合わせ辛いだとか。
今度こそ、侮蔑の目で見られたらどうしようという不安もこの時だけは忘れて。
ふわりと部屋に降り立つと部屋は暗く、人の気配を感じない。慌ててコタが寝ていた毛布を剥いだがそこにはコタの姿は無い。
人のいた温かさはまだベッドに残っている。
まるで今さっきまでここに居たように。
御手洗いも浴室もキッチンも全て確認もした。城中全てに探知魔法を掛けたが見当たらなかった。
火口に飛ばされたアヴァリスが躍起になって探す私に何か言いたげな表情でこちらを見ていたが、彼もコタの行き先を知らないと首を横に振った。
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