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過ちは犯してから気付くもの

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俺は幼い頃から相手の気持ちを察するのが苦手だった。
その上、口より身体が勝手に動くタイプで、よく母を困らせていたという自覚はあの頃からあった。
 

「なんで暴力を振るうの? 」

小学生時代。
母は俺が喧嘩をするたびに呼び出された。
最初の頃は「暴力はいけません。」、「どうして暴力を振るうの? 」と長々と説教を食らっていたが、次第に疲れたのか眉間に皺を寄せ、そう責めるだけになっていた。

今思えば、母は俺の所為で疲れていたんだと思う。
呼ばれるたびに先生や相手の親に非難され、ペコペコと頭を下げ続ける日々。

説教の言葉数が減るたびにあの頃の俺が感じたのは母の心が俺から離れていくような感覚。
それでも小さい頃の俺は、母は自分の事を一番分かってくれていると勘違いしていて、だからこそ、なんで分かってくれないんだと思ってた。

だって、一番分かってくれていると思っていた母が俺を分かってくれてないなら誰が俺を分かってくれるのだろう?…と。

でも母も俺と同じただの人間で、俺の全てを分かる訳でもなければ、傷つかないような鋼の精神を持っている訳でもない。

俺は何時だって後になってそれをやっと理解する。
傷付けた後で理解するんだ。




  


「ほんと、アホだろ。」

むくりと起き上がると幾重にも丁寧に丁寧に重ねられた毛布がはらりはらりと落ちる。肌は最近ついていた赤い痕もなく清潔そのもので何事もなかったかのように昨日の痕跡はない。

ベッドにはミドリの姿はなく、その代わりとでも言わんばかりにテーブルには大量の料理が並んでいた。それに少し殺意を奴に感じたが、まぁ、居たら居たで反射で殴ってしまいそうなのである意味良かったのかもしれない。


「で、一体何がいけなかったんだ…。」

メラメラとぶん殴りたい衝動を抑えて、胡座を掻き、腕を組んで昨日の出来事を考える。

昨日、俺が一番、伝えたかったのは「もっとお前はお前の生きたいように楽しく生きろ。」っという事。

ミドリの前で言葉を必死に考えているうちに自然と形になったのはその言葉で、自身でもその言葉が浮かんだ瞬間、気付いた。

そういや、数年越しにあったのにまともにこいつが楽しそうに笑ってる所を見ていない。
辛そうな顔に、必死に様子を伺い繕う顔ばかりで、それが一番俺は嫌だったのだと。

なら、その原因はなんだと考えた結果。
やはり、その原因は俺なんじゃないかと思い至り、今度はそこを要点に話していった…と、思う。


『どんなに想っていても私自体に…愛してるって言える資格がないんです。愛を返してもらう資格もないんです。』

この言葉を聞き、少し安堵したのがそもそもの間違いだったのかもしれない。
ミドリには今、何かあって気持ちを伝えられないけど好きだと思える相手がいる。

一度全てを失って、それでもその真っ直ぐで優しい心根も一切曲げる事なく、ひたむきに生きてきたコイツが今、幸せをその手に掴もうとしている。

それを資格がないなんてある筈がない。
愛する資格も愛される資格もお前にないなんていう奴は相当根性ねじ曲がってる奴だ。
そんな奴、俺が伸してやる。

そう背を叩いたのも今思えば、やっちまったかもしれない。


『愛していればキスをして抱き締めてもいいんですか?身体の隅々まで暴いてその身の全てに私を刻み込んでも?』

そう劣情に揺れる瞳を向けられて。何時もよりも更に甘く濃厚な魔力を口から注がれて。身体中を愛撫されて。やっとその言葉の意味とミドリが向ける感情を少し理解した。


「あの変態はこれを知ってたのか…。」

丁寧に畳まれた服に袖を通しながら珍しくあの変態が謝っていた日の言葉を思い出し、ため息をつく。

『ミドリくんが帰ってきたら彼の話をきちんと受け止めてあげて欲しい。』

そう何時になく、感情のこもった声。
まるで懇願するような必死さが滲む声色。

『相容れないと切り捨てずに、君の信念ではなく、ミドリくんの事を考えてあげられる君のその心で考えてあげて欲しい。』

本当にあの変態は言動の全てがまわりくどい。
ミドリの俺への気持ちを知っていて、何か言いたい事があるんならハナからそう言ってくれればいいものを。
 

ー …いや、それは八つ当たりか。

あの変態へに苛立ちを感じつつも違うなと溜息をつく。

ー どうせ、言われた所で信じなかっただろうな。

好意が全て恋愛には結びつかない。
アイツの俺への気持ちは仲間意識だ。
そう言って言われても切り捨てたに違いない。


服を着てベッドから取り敢えず立とうとしたが、なんだかその気になれずにそのままベッドに倒れた。

身体を丸めるように横になり、腹をさすればまだ腹の中にミドリのがあるような感覚がしてカッと顔が熱くなる。ジクジクと腹の辺りが疼いてそれがまた恥ずかしくてむず痒くて更に身を丸めた。


「ええぃ。なんじゃ、この結界は!? 」

そのまま布団を被り、もう少しだけ寝ようかと考えていた矢先、扉の向こうで女の声が聞こえた。

「ほほぅっ、二重に結界を掛けておる。ミドリめ、随分と大切にしておるみたいだなぁ…。ふふ…フハハハハッ!! おのれッ。ラ・モールには紹介しておいて妾には結界で阻んで上で紹介せんとは万死じゃ、万死ッ!! 」

扉の向こうの女は何故かハイテンションでキレていて、ガタゴトと外で騒いでいる。

「な、なんだ…。」

あまりの騒ぎ方に気になって身を起こし、ベッドから立ち上がろうとした瞬間…。

「舐めるなよ。こんな結界、妾の手に掛かれば紙に等しい。」

そう勝ち誇った高笑いとともに扉が爆発した。
チリも残らない程、盛大に爆発した。

「おっと怒りで加減を間違えてしもうたわ。」

そう悪びれもせず、バスケットボールでも入れてんのかって言いたくなる程、胸のデカい女がズカズカと入ってきた。

あまりの傲岸不遜で大胆な登場に言葉すら忘れ、口をあんぐりと開けて呆然とその女を見ていた。
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