その召喚獣、ツッパリにつき

きっせつ

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魔王と勇者

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昔々の大昔。
この地には八つの種族が存在していた。
しかし、彼らは傲慢で自分達こそが優れた種族だと他種族を認めず、争いばかり。
やがて、鳥人ハーピー小人ドワーフが戦争で絶滅し、魚人マーメイド龍族ドラゴンに滅ぼされた。そして龍族ドラゴン耳長族エルフは戦争の末相討ちで滅亡、残す種族は三種族。

しかし、たった三種族になってしまっても彼等は傲慢を悔い改める事はなく、自身達とは違う他種族を認めようとはしなかった。

やがて、それはまた火種となり、ついには人族と魔族は戦争を始めた。またこの地から種族が消えようとしていた最中、魔王と呼ばれる魔族の王と勇者と呼ばれた人族の王が剣を取った。

『ここよりお前達に一切の戦闘行為を禁ずる。我等のこの決闘でこの戦争の勝者を決する。』

始まった決闘は三日三晩続いた。
そして四日目の明朝。朝焼けに染まる刃が肉を切り裂き、決闘は終わりを迎えた。

しかし、その刃が勝者を決する事はなかった。二人の王は互いに地に伏し、死に絶えた。戦争は勝者もなく終わりを告げた。

二人の王の死が戦争を終結させた。
それが二人の王の真の願い。自身の命を持って戦争を無くしたのだ。

だが、それでも傲慢な心は人々の心からは消えない。互いに認め合う事はなかった。戦争がまた起こるのは時間の問題だった。

『ならば元より争う因果にある我々が代理戦争としてその因果も背負えばいい。』

次代の魔王と次代の人族の王が国民達には真相は伏せ、秘密裏に交わした約束。

『この決闘に勝者は要らぬ。先代の心は我等が受け継いで行く。』

それからというもの勇者と魔王の因縁の戦いはどちらが勝利する事もなくなったのだった。


…………。
………………。



「やはり、勇者は応じませんか。」

ラ・モールからの報告を聞き、溜息をつく。
「まぁ、遅かれ早かれこうはなっていた。」と、ラ・モールはポンッと私の肩を叩き、励ました。

魔族と人族の戦争と二人の王の死から先人達が種の存続を賭けて守り続けてきた勝者のなき決闘。それは相手を決して認めようとはしない彼等にとってはギリギリの線で続けてきた多くの命を守る為に互いに妥協し続けてきた戦いだった。

「元より壊れ掛けていた約束だ。時が流れるに連れ、何度も破られ掛けた約束。」
 
「それでも先人の努力で数百年続いてきたのでしょう。魔王と勇者の因果を抑えてまで。」

「どちらかと言えば、勇者の世界を救うという本質と魔王の世界を統べるという本質が種が消える事で守るべき、支配すべき、世界の消失を拒んだからだろう。その本質があったからこそ、この数百年、因果を抑えてでもその約束を守り続けてきた。」

「それは…。」

その魔王と勇者の本質自体も壊れてしまったからですか。そう聞こうとして言葉を噤む。

そんな事は聞かなくても私が一番分かっている。
あの灰色の瞳にこの世界を救いたいという意志が微塵もない事も、私自身がこの世界を統べたいと思っていない事も。

私の願いはコタの命を留める事。
世界の平穏は願うものの、世界自体には然程興味がない。

世界がどうなろうと元より勇者に勝つつもりでいた。その結果が何をもたらそうともあの勇者に負ける事も引き分けるという選択肢はない。

勝たねばコタはあの男に奪われてしまう。コタの意志も私の想いも全て関係なく主人と召喚獣という楔が全てを強引にねじ伏せてしまうから。


「密偵の報告によれば、人族の国プロイは現在、軍事力を補強中だそうだ。増税に国全土に出された徴兵令。何処かに戦を仕掛けるのは火を見るよりも明らか。…そして現在獣人の国アシェルは革命の真っ只中。」

「アシェルに仕掛けると? 」

「残念だが不正解だ。革命で国が荒れているアシェルなぞ、後でも勝利は揺らがない。」

「うちですか…。」

「現在は先手を取られた状態。したがって、軍事強化の了承を頂きたい。ヴィラディアうちも新魔王による新体制の状態。アシェル程ではないが、一時的な弱体化は否めない。」

その言葉に隠しきれない嫌気がため息として溢れる。
ヴィラディアうち人族の国プロイが攻め込むなら今が好機。

それは分かってる。
この国を統べるものとして対処しなければならないと分かっている。たが、それでも考えてしまう。

ー 何故、争わなければならないんですか。

何故、弱っている相手に剣を振るう。
何故、多くの血が流れると分かっていて争う。
多くの命を失ってまでもしなければいけない戦とはなんだ。それだけの価値が戦にあるのか。


『……喧嘩っていうのは男の言わば会話だ。そこに勝ち負けはあれど、相手の尊厳やモノを奪うような事があっちゃいけねぇんだよ。それをしちまえば、もうそれは喧嘩じゃねぇ。』

あの日、リザードマンに向けて言った貴方の言葉が頭の中で一言一句忘れる事なく、再生される。

当時はまだゴブリンという種族から完全には抜け出せていなかった私にはあの言葉はハンマーで頭を殴られたように衝撃的だった。

負けたら奪われるのが当たり前のこの世界でその理想はとても崇高で美しかった。


コタには普通の事だったかもしれないが、私もリザードマンもあの言葉に一縷の希望を見た。

あの言葉がどれ程、私達にとって魅了される程、美しく優しい言葉だったのか貴方は分からないだろう。魔王になった今でもあの言葉が私の中にはあり続ける程に…。


「……軍事強化は承認します。しかし、あくまでも私のやり方でやらせてもらいます。」

戦は喧嘩ではない。だが、それでもあの言葉は私にとって特別で破ってはいけない大事な言葉。それは立場を理由に切り捨ててはいけない言葉。

「そうとなると部屋での執務では賄えぬだろう。あの部屋に帰れる時間も無くなってしまうが? 幹部全員を招集する必要も出てくる。」

「今、本当にあの御仁から離れて大事ないか? 」とラ・モールが揺さぶりを掛ける。

ラ・モールは通常はいい部下で良い友人。
しかし、彼の本質は戦いをこよなく愛している。

一度、戦争となれば彼は本能のままに人族を敵と見做し、容赦なく斬り捨てる。それこそ根絶やしも辞さない。本当に人族がこの世から消え去ってしまうまで終わらない。
したがって、この男に全てを一任する事はできない。しかし…、

ー 離れたくない。ひと時も。

泥に塗れ、血に塗れ、冷たくなっていく身体。
必死に掻き集めて繋ぎ止めてやっと抱き締めた貴方の命。

本当は一瞬たりとも離したくない。
抱きしめて愛して誰にも奪われないように腕の中にずっと閉じ込めてしまいたい。

離れるのが怖い。
またあの命の灯火が消えそうで。
手の届かない場所に攫われてしまいそうで。


「構わない。元より私の我儘。そのくらいの犠牲すら払わない男などこの国を統べるに相応しくない。」

そうして私はまた自身に嘘をつく。

「コタとの時間は後からでも幾らでも作れます。…すぐに幹部を招集してください。」

幹部を招集してくれと命を出し、ラ・モールの前を歩き出す。するとラ・モールは深く溜息を吐いた。

「拙は今日ほど、貴殿に負けてしまった事を後悔した事はない。」

その言葉に少し呆れて振り向くとラ・モールの顔は後にした私の部屋の方に向いていた。

「貴殿は本当に…。」

何かを言い掛け、ラ・モールは目を瞑り、スッと息を吐き、跪いた。

「拙は貴殿の友人であり配下。この剣は貴殿の敵を斬り裂く為にあり、この身は貴殿に仕える為にある。貴殿の命、しかと受け取った。」

服従の意を示すとラ・モールの姿は崩れ、無数の蠅となって四方へと飛び去っていった。
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