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パレスというダメな男

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「うぅ…、痛い。頭がぐわんぐわんする。」

まるで泣き上戸のようにヒックヒックとしゃっくりを繰り返しながら泣き、一切歩く気のない部下を引きずりながら歩く廊下。足取りは重く、何度も追い出された部屋を振り返る。


『出て行けッ。』

産まれたての小鹿のようにベッドの上で足を震わしながら立ち、そんな可愛らしい姿とは裏腹に人一人殺しそうな恐ろしい形相で威嚇された。

「そうだ、出てけ。頼むから。」と、パレスをつまみ出そうとしたが、「お前もだ。」とベッドから蹴り落とされ、このザマである。


ー 大丈夫だろうか…。

ベッドから立ち上がれる状態ではないのに食事は? 水分は? お手洗いだって行くには介助が必要な筈。心配で心配で仕方がない。

しかし、本人の意思をこれ以上蔑ろにも出来ない。出て行けというなら出て行かざるおえない。

ー だけど、せめて水分と食事くらいは…。

悶々としていると引きずっていた部下がやっと立つ気になったようなので取り敢えず説教をと廊下に正座させる。するとすれ違うメイドがやまたかという呆れ顔でパレスを一瞥する。

ついでにこの男が廊下で正座させられる頻度は二日に一回。
可愛い系の部下達にセクハラをして女幹部に鬼の形相で正座させられている。


「おじさんは…。おじさんは悪くないッ。」

ダンッと床を叩き、クッと悔しそうな声を出す。一体、どの辺が悪くないと言うのだろうか? 

ここまで一切自身は悪くないと言い切るのなら逆にその理由を知りたい。そう問えば駄々をこねる子供のようにだってだってと大の大人が泣き叫ぶ。

「あの普段強気で男を寄せ付けない高嶺の花のコタちゃんがむしゃぶり尽くしてくださいと言わんばかりのあんなエロっエロな姿でベッドの上に居たらそりゃあ据え膳食わぬは男の恥でしょうがっ。おじさんだって我慢できないでしょうがっ。…魔王様がひよって処女だったとしても、そりゃあもう、三日三晩泣きじゃくるまで愛して責め立てて、おじさん色に染めたくなるでしょうがっ。」

分かるでしょ!! とノンブレスで全く今の私には心に響かない謎の弁明を始める。…いや、これ弁明でもない。何言ってるんだ、この男は。

冷めた目で見ていると「あの姿にそう思わないなんて…まさかもう既に枯れてる!? 」なんて馬鹿な事を言い、「まぁっ!! 」と、口を抑えて、人の股間に哀れなものを見る目を向ける。…駄目だ。この人。

頭が痛くなるのを感じ、こめかみの辺りを揉み解す。説教すらする気も失せ、用件だけ聞いて解放しようと書類を受け取るがその書類もロクなものではなかった。

「法の改正をしたいんです、陛下。」

そうキラキラとやる気に満ちた綺麗な目とは裏腹に求める文面の内容は魔族国家ヴラディア危険物取締り法第二十四条の二の改正。


第二十四条の二。
ガウェイン製品をみだりに所持し、譲り受け、また譲り渡したものは五年以下の懲役と処す。営利目的とした場合、七年以下の懲役と罰金に処す。

という元々の内容を営利目的以外の所持、譲り受け、または譲り渡しは処さないものとする…と変えたいそうだ。


「……パレスさん。」

「陛下、これは所持者のモラルの問題だと思うんです。」

「パレスさん…。そもそも何故、この法律が出来てしまったか理由を考えましょうか。モラルどうこうの問題では収まりきらないからですよね。…私は魔族としては新参者ですが、何故この法律が成立したかは勉強しましたよ。」

「そこをなんとかッ!! 」

「そう言われましてもアレは確かに危険物です。ガウェイン製品は使い方一つで下手な爆弾や薬物より危ないですから。」

「くぅぅーーッ!! あの時。何故、格下だと思って手を抜いてしまったんだ!? おじさんが勝ってれば魔王権限で合法にしたのにぃいいいーッ。」

「私は今日ほど貴方にあの時、勝って良かったと思った事はないですよ。…貴方が勝ってたらこの国は滅亡してます。」

本当に何処までもどうしようもない部下パレス。

これでも魔王を決定する戦いでは魔王に手が届く程の実力を持つのだから下手にクビにも出来ない。正直、この人が私をゴブリンだと侮って手を抜かなければ負けていた可能性もあったのだから。それにしても…。

ー ガウェインさんは悪い人ではないのだけれど…。製品はな…。

私だってお世話になっている人の作る製品が違法物なんて嫌だ。しかし、実際にガウェインさんの作る製品は過去にこの国でも他国でも事件を起こしているのだ。

「パレスさん。ガウェイン製品が原因で子供の出生率が激減した事件をお忘れですか? 無差別大乱交事件は? 隣国アシェルでの媚薬テロはお忘れですか? 」

そう問いかければ、「はて? 何のこと?? 」と、言わんばかりのすっとぼけた表情でパレスさんは首を傾げる。…それ、絶対覚えてますよね。すっとぼける時点でバレバレですよ。

段々と私の機嫌が悪くなってくると流石に察したのか、アハハと誤魔化し笑いを浮かべてパレスさんは書類を私から奪い、話題を変える。

「いやぁ、それにしてもあのコタちゃんが陛下の寝室に居るなんて思いもしませんでしたよー。陛下も人族のヨッシーみたいにあのスラリと綺麗な御御足にやられちゃった系ですか? それともおじさんみたいにあの強気な所にムラムラしてしまった感じですか!? 良いですよね、強気な美人ッ。」

「それも今の私には地雷ですが、その話題振りで本当にいいんですね…。で、人族のヨッシーって誰ですか。」

「いやぁー、アハハッ…。ヨッシーって、誰でしょうね。……はは、顔が怖いですよ、陛下。折角の綺麗なご尊顔が勿体無いですよ。スマイル。スマイル。」

何時の間にかに正座をやめたと思ったら、話題を変えながら機嫌取りに肩を揉み始め、最終的にパレスさんは廊下を全速力で走って逃げていった。パレスさんは何時も仕事の時はトロトロ歩いているが逃げ足だけは速い。

その全力で逃げる姿にもうあの人はああいう人だと諦めて、追い出された部屋の前に戻る。


アフターフォローは今のところ最悪な状態。
だが、殴られはしなかったし、明確な殺意を感じたのは部屋を追い出された時くらい。軽蔑されるのは覚悟していたので内心、ホッとしているのが六割、不安が四割。

「兎に角、食事だ。食事に誘おう。うん…。コタだってお腹は空いてる筈。そうだ。怯むな。出て行けと言われただけだ。何をショックを受けている。」

必死に自身を鼓舞して、自身の部屋の扉をノックしようとするが出て行けと言われたので中々、ノックしようと挙げた手が動かない。

これ、勝手に入ったら嫌われるのかな? 
一生、部屋に入って来んなと言われたらどうしよう?
今度こそ、軽蔑されるのでは?

不安は膨れ上がり、スンッと鼻が鳴る。
しかし、「うわっ!? 」と悲鳴が扉の奥から聞こえて、血相を変えて扉を開けた。
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