60 / 160
え? 俺死んだ??
しおりを挟む
赤や青に黄色に紫。
色鮮やかな花達が風に揺られ、ひらひらと踊っている。
鼻腔をくすぐるその花達の香りに妙に懐かしさを感じて肺一杯にその空気で満たし、その場に寝そべる。
随分と幼い頃に誰かとここで寝そべっていた気がする。
その人はこの花達と同じ香りを漂わせて、とある物語を何度も何度も俺に紡いで聞かせていた。
それはとある王の始まりと終わりの物語。
それは救いと破滅の物語。
しかし、その物語の内容を思い出そうとしてもまるで頭の中に靄が掛かったように思い出せない。
この物語を聞かせてくれたその人の顔も優しく笑う口元しか思い出せない。
それはとても大切で忘れてはいけない事だった気がする。
思い出そうと記憶を漁る最中、その美しい花の世界すらも靄が掛かり、忘れてしまった記憶達のように何処か遠くへと消えていく。
…………。
………………。
花の香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
その心地よい匂いに誘われて細く目を開く。
すると視界の中では花達が咲き乱れていて自身は花畑にいるのだろうかと一瞬、錯覚した。…が見慣れた部屋の風景も同時に視界に映り、寝ぼけた頭にはてなマークが浮かぶ。
何故、部屋の中に花畑が出来てるのか。
重い瞼をもう少し開けて、更に困惑が増す。
花は部屋中に咲き乱れているのではなく、ベッドの上に自身を囲むように置かれている。
ー え? 俺、死んだのか??
その光景を見て、最初に連想したのは棺桶だった。
棺桶の中に死体を囲むように花が詰められているイメージ。
俺はあのまま死んだのかと考え、「いやいや。」と否定する。幾らなんでも呆気なすぎる。
タラタラと汗を掻き、眠気が吹っ飛ぶ。
恐る恐るもう少し瞼を開けると今度は花を備える魔物達が目に入って衝撃を受ける。
学ラン風の羽織を着たリザなんちゃらやゾンビ化していたコボなんちゃら。ライオンっぽい魔物にウサギっぽい魔物が手を合わせながら暗い顔で花をベッドに置いていく。…おい!? マジで死んだのか、俺!!!
困惑は最高潮に高まれども、何故だが身体は動かない。これは本気で死んだのかもしれないとゴクリと喉を鳴らす。確かに身体はかなり限界だったが、死んでしまうとは…。
「いや、死んでないからねぇ。君。」
これが死後の世界…。なんて、突拍子もない結論に至った最中、突如視界の全てを埋めた変態がバッサリと否定する。
脈の確認などの触診を一通りやると、変態は少し困り気味に花を一輪摘んだ。
「コタくん…。君はこれだけの生き物達を惹きつけて、新たな宗教でも開くつもりなのかい? 君が寝ている間にお見舞いという名のお供物の数が処理できない程、増えたんだよ!? 君は僕の家をお供物の山で埋め尽くすつもりなの?? 」
「お供物の片付けはもう嫌!! 」と、ワッと嘘泣きを始める変態に釣られて、何故だかリザなんちゃら達も泣き始めてお葬式感が更に増す。
とりあえず、頭に響くから泣くのをやめろと言いたいが、喉がカラカラで声が掠れて上手く音にならない。
「毎日毎日煩いよ!! 」
どうしたものかと苛立ちを募らせているとバタンッと扉が勢いよく開き、怒声と共に光の矢が変態に当たるか当たらないかのスレスレで床に刺さる。
不機嫌丸出しで部屋の入り口でもう一矢、打とうと弓を構えるラヨネ。それを大急ぎで廊下を走ってきたあの狼野郎が羽交い締めにして止める。…何故、お前がいる?
「おいおいおいおい。王子さん。それは流石にやめとけって言ってんだろ。」
「アンタも煩いよッ。誰が何時、気安く僕に触って良いって言ったの? …僕はただコタに群がる羽虫を全員撃ち落としたいだけだよ。」
「は、羽虫!? ただコタの兄貴を心配してお見舞いにどいつもコイツもきてくれてるだけだろ。」
「お見舞い? お見舞いっていう名のすり寄りでしょ? …その中には勿論、アンタも含んでるんだよ。分かる? アンタもその中に入ってるの。……ああ、ごめんね。駄犬だから難しい事は分からないんだね。ごめんね。」
「なんでこの王子はこんだけ性格が捻くれてるんだ…。」
目の前で繰り広げられやり取りに目が点になる。
何時の間にそんなに仲良くやり取りする程、お前達の間のわだかまりが無くなったのか…とか。なんで狼野郎が俺の事を『コタの兄貴。』なんて呼んでんのか…とか。言いたい事は山程ある。
何はともあれ、起きない事には収集が付かないかと立ち上がろうとしたが、シーツに足をとられて全く起き上がれない。身体がかなり弱ってる…。
「コタッ!! よかった…。目が覚めたっ…。」
起き上がれずにシーツと格闘をしていると狼野郎と揉めていたラヨネが一切の躊躇いなく狼野郎の股間に蹴りをかまして、拘束から抜け出した。
その間、コンマ数秒。
流れるような速さで何事もなかったかのように股間を抑えて蹲る狼野郎をガン無視して、歓喜の涙を流し、ギュッと飛びついた。
「三ヶ月。コタはずっと起きなかったんだよ。良かった。良かったっ…。」
身を起こす事すらままならない俺の身体を小さな腕が抱き寄せる。
聞きたい事、言いたい事はいっぱいあったが、山吹色の瞳から流れ落ちる涙に罪悪感が湧く。その涙を拭おうと重怠い手を頰に寄せるとその柔らかな頰をふにっとくっ付けて優しい笑みを浮かべた。
「ありがとう。でも、大丈夫だよ。」
潤む山吹色の瞳には強い意思を感じさせる光が差し、幼い顔は少し頼もしい顔つきへと変わっていた。
小さな手がもう腫れの引いた頰を撫でるように添えると顔を寄せる。鼻頭と鼻頭を合わせるラヨネ特有の何時もの朝の挨拶。
「おはよう、コタ。」
朝の挨拶とともにコツンと額がぶつかる。
「ぶつかっちゃったね。お口じゃなくて残念。」と、茶目っ気のある笑顔を浮かべると自身の身体にもたれ掛からせるように抱き寄せ直し、変態の前にスッと手を出した。
「何ぼけっとしてるの? 水持ってきなよ。長く生きてるのにそのくらいの気も使えないの? 」
「リスっ子ちゃんが自分で取ってきたら良いんじゃないかな? 僕はコタくんのお世話を手取り足取り腰取りしなければいけないからねぇ。」
「誰がアンタみたいに救いようのない変態にコタを任せると思う? …頭おかしいの? ああ、頭おかしいから変態なのか。ごめんね? 」
バチバチと何時ものように変態とラヨネの間で火花が散る。更に変態との確執が深くなっているような気がするのは気の所為だろうか?
まるで子を守る猫のように毛を逆立たせてラヨネは俺を庇い、変態を威嚇している。
最終的に水を持ってきたのは股間を蹴られて蹲っていた狼野郎。
ぶっきらぼうに「ほらよ。」と水を渡してきた狼野郎の尻尾はブンブンとはち切れんばかりの喜びを表現していた。…なんでだ。
色鮮やかな花達が風に揺られ、ひらひらと踊っている。
鼻腔をくすぐるその花達の香りに妙に懐かしさを感じて肺一杯にその空気で満たし、その場に寝そべる。
随分と幼い頃に誰かとここで寝そべっていた気がする。
その人はこの花達と同じ香りを漂わせて、とある物語を何度も何度も俺に紡いで聞かせていた。
それはとある王の始まりと終わりの物語。
それは救いと破滅の物語。
しかし、その物語の内容を思い出そうとしてもまるで頭の中に靄が掛かったように思い出せない。
この物語を聞かせてくれたその人の顔も優しく笑う口元しか思い出せない。
それはとても大切で忘れてはいけない事だった気がする。
思い出そうと記憶を漁る最中、その美しい花の世界すらも靄が掛かり、忘れてしまった記憶達のように何処か遠くへと消えていく。
…………。
………………。
花の香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
その心地よい匂いに誘われて細く目を開く。
すると視界の中では花達が咲き乱れていて自身は花畑にいるのだろうかと一瞬、錯覚した。…が見慣れた部屋の風景も同時に視界に映り、寝ぼけた頭にはてなマークが浮かぶ。
何故、部屋の中に花畑が出来てるのか。
重い瞼をもう少し開けて、更に困惑が増す。
花は部屋中に咲き乱れているのではなく、ベッドの上に自身を囲むように置かれている。
ー え? 俺、死んだのか??
その光景を見て、最初に連想したのは棺桶だった。
棺桶の中に死体を囲むように花が詰められているイメージ。
俺はあのまま死んだのかと考え、「いやいや。」と否定する。幾らなんでも呆気なすぎる。
タラタラと汗を掻き、眠気が吹っ飛ぶ。
恐る恐るもう少し瞼を開けると今度は花を備える魔物達が目に入って衝撃を受ける。
学ラン風の羽織を着たリザなんちゃらやゾンビ化していたコボなんちゃら。ライオンっぽい魔物にウサギっぽい魔物が手を合わせながら暗い顔で花をベッドに置いていく。…おい!? マジで死んだのか、俺!!!
困惑は最高潮に高まれども、何故だが身体は動かない。これは本気で死んだのかもしれないとゴクリと喉を鳴らす。確かに身体はかなり限界だったが、死んでしまうとは…。
「いや、死んでないからねぇ。君。」
これが死後の世界…。なんて、突拍子もない結論に至った最中、突如視界の全てを埋めた変態がバッサリと否定する。
脈の確認などの触診を一通りやると、変態は少し困り気味に花を一輪摘んだ。
「コタくん…。君はこれだけの生き物達を惹きつけて、新たな宗教でも開くつもりなのかい? 君が寝ている間にお見舞いという名のお供物の数が処理できない程、増えたんだよ!? 君は僕の家をお供物の山で埋め尽くすつもりなの?? 」
「お供物の片付けはもう嫌!! 」と、ワッと嘘泣きを始める変態に釣られて、何故だかリザなんちゃら達も泣き始めてお葬式感が更に増す。
とりあえず、頭に響くから泣くのをやめろと言いたいが、喉がカラカラで声が掠れて上手く音にならない。
「毎日毎日煩いよ!! 」
どうしたものかと苛立ちを募らせているとバタンッと扉が勢いよく開き、怒声と共に光の矢が変態に当たるか当たらないかのスレスレで床に刺さる。
不機嫌丸出しで部屋の入り口でもう一矢、打とうと弓を構えるラヨネ。それを大急ぎで廊下を走ってきたあの狼野郎が羽交い締めにして止める。…何故、お前がいる?
「おいおいおいおい。王子さん。それは流石にやめとけって言ってんだろ。」
「アンタも煩いよッ。誰が何時、気安く僕に触って良いって言ったの? …僕はただコタに群がる羽虫を全員撃ち落としたいだけだよ。」
「は、羽虫!? ただコタの兄貴を心配してお見舞いにどいつもコイツもきてくれてるだけだろ。」
「お見舞い? お見舞いっていう名のすり寄りでしょ? …その中には勿論、アンタも含んでるんだよ。分かる? アンタもその中に入ってるの。……ああ、ごめんね。駄犬だから難しい事は分からないんだね。ごめんね。」
「なんでこの王子はこんだけ性格が捻くれてるんだ…。」
目の前で繰り広げられやり取りに目が点になる。
何時の間にそんなに仲良くやり取りする程、お前達の間のわだかまりが無くなったのか…とか。なんで狼野郎が俺の事を『コタの兄貴。』なんて呼んでんのか…とか。言いたい事は山程ある。
何はともあれ、起きない事には収集が付かないかと立ち上がろうとしたが、シーツに足をとられて全く起き上がれない。身体がかなり弱ってる…。
「コタッ!! よかった…。目が覚めたっ…。」
起き上がれずにシーツと格闘をしていると狼野郎と揉めていたラヨネが一切の躊躇いなく狼野郎の股間に蹴りをかまして、拘束から抜け出した。
その間、コンマ数秒。
流れるような速さで何事もなかったかのように股間を抑えて蹲る狼野郎をガン無視して、歓喜の涙を流し、ギュッと飛びついた。
「三ヶ月。コタはずっと起きなかったんだよ。良かった。良かったっ…。」
身を起こす事すらままならない俺の身体を小さな腕が抱き寄せる。
聞きたい事、言いたい事はいっぱいあったが、山吹色の瞳から流れ落ちる涙に罪悪感が湧く。その涙を拭おうと重怠い手を頰に寄せるとその柔らかな頰をふにっとくっ付けて優しい笑みを浮かべた。
「ありがとう。でも、大丈夫だよ。」
潤む山吹色の瞳には強い意思を感じさせる光が差し、幼い顔は少し頼もしい顔つきへと変わっていた。
小さな手がもう腫れの引いた頰を撫でるように添えると顔を寄せる。鼻頭と鼻頭を合わせるラヨネ特有の何時もの朝の挨拶。
「おはよう、コタ。」
朝の挨拶とともにコツンと額がぶつかる。
「ぶつかっちゃったね。お口じゃなくて残念。」と、茶目っ気のある笑顔を浮かべると自身の身体にもたれ掛からせるように抱き寄せ直し、変態の前にスッと手を出した。
「何ぼけっとしてるの? 水持ってきなよ。長く生きてるのにそのくらいの気も使えないの? 」
「リスっ子ちゃんが自分で取ってきたら良いんじゃないかな? 僕はコタくんのお世話を手取り足取り腰取りしなければいけないからねぇ。」
「誰がアンタみたいに救いようのない変態にコタを任せると思う? …頭おかしいの? ああ、頭おかしいから変態なのか。ごめんね? 」
バチバチと何時ものように変態とラヨネの間で火花が散る。更に変態との確執が深くなっているような気がするのは気の所為だろうか?
まるで子を守る猫のように毛を逆立たせてラヨネは俺を庇い、変態を威嚇している。
最終的に水を持ってきたのは股間を蹴られて蹲っていた狼野郎。
ぶっきらぼうに「ほらよ。」と水を渡してきた狼野郎の尻尾はブンブンとはち切れんばかりの喜びを表現していた。…なんでだ。
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた
キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。
人外✕人間
♡喘ぎな分、いつもより過激です。
以下注意
♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり
2024/01/31追記
本作品はキルキのオリジナル小説です。
ある宅配便のお兄さんの話
てんつぶ
BL
宅配便のお兄さん(モブ)×淫乱平凡DKのNTR。
ひたすらえっちなことだけしているお話です。
諸々タグ御確認の上、お好きな方どうぞ~。
※こちらを原作としたシチュエーション&BLドラマボイスを公開しています。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました。
おまけのお話を更新したりします。
異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い
八神 凪
ファンタジー
旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い
【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】
高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。
満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。
彼女も居ないごく普通の男である。
そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。
繁華街へ繰り出す陸。
まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。
陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。
まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。
魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。
次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。
「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。
困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。
元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。
なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。
『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』
そう言い放つと城から追い出そうとする姫。
そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。
残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。
「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」
陸はしがないただのサラリーマン。
しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。
今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる