その召喚獣、ツッパリにつき

きっせつ

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え? 俺死んだ??

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赤や青に黄色に紫。
色鮮やかな花達が風に揺られ、ひらひらと踊っている。

鼻腔をくすぐるその花達の香りに妙に懐かしさを感じて肺一杯にその空気で満たし、その場に寝そべる。


随分と幼い頃に誰かとここで寝そべっていた気がする。

その人はこの花達と同じ香りを漂わせて、とある物語を何度も何度も俺に紡いで聞かせていた。


それはとある王の始まりと終わりの物語。
それは救いと破滅の物語。


しかし、その物語の内容を思い出そうとしてもまるで頭の中に靄が掛かったように思い出せない。
この物語を聞かせてくれたその人の顔も優しく笑う口元しか思い出せない。

それはとても大切で忘れてはいけない事だった気がする。

思い出そうと記憶を漁る最中、その美しい花の世界すらも靄が掛かり、忘れてしまった記憶達のように何処か遠くへと消えていく。




…………。
………………。



花の香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
その心地よい匂いに誘われて細く目を開く。

すると視界の中では花達が咲き乱れていて自身は花畑にいるのだろうかと一瞬、錯覚した。…が見慣れた部屋の風景も同時に視界に映り、寝ぼけた頭にはてなマークが浮かぶ。

何故、部屋の中に花畑が出来てるのか。
重い瞼をもう少し開けて、更に困惑が増す。

花は部屋中に咲き乱れているのではなく、ベッドの上に自身を囲むように置かれている。

ー え? 俺、死んだのか??

その光景を見て、最初に連想したのは棺桶だった。
棺桶の中に死体を囲むように花が詰められているイメージ。

俺はあのまま死んだのかと考え、「いやいや。」と否定する。幾らなんでも呆気なすぎる。

タラタラと汗を掻き、眠気が吹っ飛ぶ。
恐る恐るもう少し瞼を開けると今度は花を備える魔物達が目に入って衝撃を受ける。

学ラン風の羽織を着たリザなんちゃらやゾンビ化していたコボなんちゃら。ライオンっぽい魔物にウサギっぽい魔物が手を合わせながら暗い顔で花をベッドに置いていく。…おい!? マジで死んだのか、俺!!!

困惑は最高潮に高まれども、何故だが身体は動かない。これは本気で死んだのかもしれないとゴクリと喉を鳴らす。確かに身体はかなり限界だったが、死んでしまうとは…。


「いや、死んでないからねぇ。君。」

これが死後の世界…。なんて、突拍子もない結論に至った最中、突如視界の全てを埋めた変態がバッサリと否定する。

脈の確認などの触診を一通りやると、変態は少し困り気味に花を一輪摘んだ。

「コタくん…。君はこれだけの生き物達を惹きつけて、新たな宗教でも開くつもりなのかい? 君が寝ている間にお見舞いという名のお供物の数が処理できない程、増えたんだよ!? 君は僕の家をお供物の山で埋め尽くすつもりなの?? 」

「お供物の片付けはもう嫌!! 」と、ワッと嘘泣きを始める変態に釣られて、何故だかリザなんちゃら達も泣き始めてお葬式感が更に増す。

とりあえず、頭に響くから泣くのをやめろと言いたいが、喉がカラカラで声が掠れて上手く音にならない。


「毎日毎日煩いよ!! 」

どうしたものかと苛立ちを募らせているとバタンッと扉が勢いよく開き、怒声と共に光の矢が変態に当たるか当たらないかのスレスレで床に刺さる。

不機嫌丸出しで部屋の入り口でもう一矢、打とうと弓を構えるラヨネ。それを大急ぎで廊下を走ってきたあの狼野郎が羽交い締めにして止める。…何故、お前がいる?

「おいおいおいおい。王子さん。それは流石にやめとけって言ってんだろ。」

「アンタも煩いよッ。誰が何時、気安く僕に触って良いって言ったの? …僕はただコタに群がる羽虫を全員撃ち落としたいだけだよ。」

「は、羽虫!? ただコタの兄貴を心配してお見舞いにどいつもコイツもきてくれてるだけだろ。」

「お見舞い? お見舞いっていう名のすり寄りでしょ? …その中には勿論、アンタも含んでるんだよ。分かる? アンタもその中に入ってるの。……ああ、ごめんね。駄犬だから難しい事は分からないんだね。ごめんね。」

「なんでこの王子はこんだけ性格が捻くれてるんだ…。」

目の前で繰り広げられやり取りに目が点になる。

何時の間にそんなに仲良くやり取りする程、お前達の間のわだかまりが無くなったのか…とか。なんで狼野郎が俺の事を『コタの兄貴。』なんて呼んでんのか…とか。言いたい事は山程ある。

何はともあれ、起きない事には収集が付かないかと立ち上がろうとしたが、シーツに足をとられて全く起き上がれない。身体がかなり弱ってる…。

「コタッ!! よかった…。目が覚めたっ…。」

起き上がれずにシーツと格闘をしていると狼野郎と揉めていたラヨネが一切の躊躇いなく狼野郎の股間に蹴りをかまして、拘束から抜け出した。

その間、コンマ数秒。
流れるような速さで何事もなかったかのように股間を抑えて蹲る狼野郎をガン無視して、歓喜の涙を流し、ギュッと飛びついた。


「三ヶ月。コタはずっと起きなかったんだよ。良かった。良かったっ…。」

身を起こす事すらままならない俺の身体を小さな腕が抱き寄せる。

聞きたい事、言いたい事はいっぱいあったが、山吹色の瞳から流れ落ちる涙に罪悪感が湧く。その涙を拭おうと重怠い手を頰に寄せるとその柔らかな頰をふにっとくっ付けて優しい笑みを浮かべた。

「ありがとう。でも、大丈夫だよ。」

潤む山吹色の瞳には強い意思を感じさせる光が差し、幼い顔は少し頼もしい顔つきへと変わっていた。

小さな手がもう腫れの引いた頰を撫でるように添えると顔を寄せる。鼻頭と鼻頭を合わせるラヨネ特有の何時もの朝の挨拶。

「おはよう、コタ。」

朝の挨拶とともにコツンと額がぶつかる。
「ぶつかっちゃったね。お口じゃなくて残念。」と、茶目っ気のある笑顔を浮かべると自身の身体にもたれ掛からせるように抱き寄せ直し、変態の前にスッと手を出した。

「何ぼけっとしてるの? 水持ってきなよ。長く生きてるのにそのくらいの気も使えないの? 」

「リスっ子ちゃんが自分で取ってきたら良いんじゃないかな? 僕はコタくんのお世話を手取り足取り腰取りしなければいけないからねぇ。」

「誰がアンタみたいに救いようのない変態にコタを任せると思う? …頭おかしいの? ああ、頭おかしいから変態なのか。ごめんね? 」

バチバチと何時ものように変態とラヨネの間で火花が散る。更に変態との確執が深くなっているような気がするのは気の所為だろうか?

まるで子を守る猫のように毛を逆立たせてラヨネは俺を庇い、変態を威嚇している。


最終的に水を持ってきたのは股間を蹴られて蹲っていた狼野郎。

ぶっきらぼうに「ほらよ。」と水を渡してきた狼野郎の尻尾はブンブンとはち切れんばかりの喜びを表現していた。…なんでだ。
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