その召喚獣、ツッパリにつき

きっせつ

文字の大きさ
42 / 160

初めての感情②(ラヨネ視点)

しおりを挟む
頭がふわふわする。

喉が痛くて苦しくて手を伸ばすと力強く優しい手が僕の手を握り、視界に少し白髪の混じった金のたてがみが映る。

猫特有の縦に切長の瞳孔の瞳からは優しい眼差しが注がれ、お兄様と同じで獅子の獣人なのにとても優しい柔らかな笑みをその人は浮かべる。

「ラヨネ。大丈夫かい? 熱が高いと聞いたよ。」

公務の途中で抜け出して僕のお見舞いに来てくれたお父様が僕の肩を優しく抱き寄せて水差しで、熱でカラカラになった喉を潤してくれる。

優しい眼差し。
優しい表情。
大好きだったあの温もり。

全て今も心に残っているのにもうこの世界のどこにもいないその温もり。目を瞑れば何時だってお父様の夢を見るのにもう何処にも居ない。

いっそ、夢だと気付かなければいいのに何時だってこれは夢だと気付いてしまう。


「眠れないのかい? じゃあ、御伽噺でも聞かせてあげようか。」

夢の中のお父様はあの頃何度も読み聞かせてくれた絵本を取り出し、読み始める。



ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー




昔。昔。
この世界には獣人、魔族、人族以外にも数多の種族達が住んでいました。
しかし、彼等は皆傲慢で自身達こそが優れた種族だと主張し、争いばかりしていました。やがて争いで多くの種族達が絶滅していきました。

しかし争いは絶える事はなく、それを憂いた大魔法使いは自身が持っていた剣にある魔法を施し、岩に刺しました。

『この剣は世界の意志が宿っている。この剣を岩から抜きし者こそ、全種族をまとめ、世界の王となる者。』

その言葉に皆、その剣を抜こうと躍起になりましたが、どんな権力者でも勇猛果敢な騎士や冒険者でもその剣を抜く事は出来ませんでした。


皆がその剣を抜く事を諦め始めた頃。
一人の心優しき少年がその剣に手を掛けました。

少年は王などには興味はなく、その剣の価値も知りませんでした。
その見事な剣をどうしても騎士である自身のお兄さんにあげたいという一心で抜こうとしました。

すると全ての挑戦者を拒絶するかのように岩から抜けなかった剣が最も簡単に抜けたではありませんか。

少年は喜び剣を掲げました。
きっとこの素晴らしい剣をあげたらお兄さんも喜んでくれるに違いないと。

『優しく欲のない者よ。貴方こそ、この世界の王に相応しい。』

剣を掲げると一陣の風が吹き、剣に魔法をかけた大魔法使いが姿を現し、少年に王になるように告げました。勿論、王に興味がない少年は自身はその器ではないと断りました。

『一切の欲に溺れず、一心に誰かを思いやれるその心こそ、この世界に必要なのです。傲慢で満ち溢れてしまったこの乱世には。』

このままではこの世界から知性ある全種族が滅びるまで争いは無くならないでしょう。
それを阻止する為に力を貸してほしい。

大魔法使いの願いに心を打たれ、少年は王になる決心をしました。


この少年は後に幾多の困難を乗り越えて、大魔法使いの預言通り王となりました。
少年の後ろには何時も大魔法使いと種族の垣根を越えて少年を慕う騎士達が付き従い、支えていました。

少年の自身の為ではなく、一心に誰かを思える心が自身達こそが一番だと傲慢に争っていた種族達の心を変えたのです。

争っていた全種族が手を取り合い、世界は平和になったのでした。



ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



絵本がパタリとしまり、お父様は優しく絵本の背表紙を撫でた。
とても穏やかで優しい眼差しを絵本の中の少年に向けていた。

「これはもう何百年も前からある物語の一部でね。この少年の、王の名は、皆から忘れ去られてしまっても決して誰の心からも消えなかった《彼の王》の話。……ラヨネも決してこの物語を忘れてはいけないよ。」

これは受け継がれなければいけないものなんだ。
お父様はそう僕に言い聞かせる。

「私達の先祖は彼の王に騎士として仕えた隻腕の騎士ベディヴィア。隻腕であっても戦場で獅子奮迅の活躍をして《彼の王》を支えた者のひとり。時代が流れ、世代が、立場が、変わってもこの忠義だけは忘れてはならない。」

ぼんやりと夢の世界が徐々に遠のく。
お父様の姿も声も掠れ、世界が崩れていく。

「ラヨネ。お前は……だ。」

優しい夢は消え去り、何時も残るのは暗い感情ばかり。

何故。いなくなってしまったの?
お父様はあの時なんて言ったの?

ねぇ、お父様。
お父様が呼んでくれた絵本の通りこの世界は本当に平和になったの?
平和になった世界でも人族の血が混ざっている僕達は許されざる存在なの?

ねぇ。お父様…。お父様……。



…………。
…………………。




シトシトと雨の降る音がする。

意識が浮上し、目を開けようとしたが雨の音に一人になった日を思い出して、目を開けるのが怖くなった。

目を開けたらまたあの場所に居たらどうしよう。そんなありえない事が頭を駆け巡り、恐怖で手に力を入れると誰かの手の感触がした。

それはお父様のものとは違い、ふさふさの毛はなくつるっとした肌で、指一つ一つが細長い。

「コタ? 」

目を開けるとそこにはすぅすぅと寝息を立てて幸せそうに眠る大好きな人の顔があった。

その姿を見た途端、恐怖は消え去り、心に残るどうしようもない暗い感情はその身体に抱きついている間は何処かへ消えてしまう。

「ねぇ。コタは世界から要らない存在の僕でも一緒に居てくれる? 」

そう寝てて答える筈のないコタに問い、ほんのり桃色に染まるコタの血色のいい頰を撫でる。すると頰を撫でる手をギュッとコタが抱き寄せ、更に幸せそうな寝顔を浮かべる。

それだけで必要とされている気分になり、心が満たされる。


「コタ。僕の世界にはもうコタだけでいい。…コタだけがいいんだ。」

コタは半獣人で草食階級の僕でも助けてくれた。孤独にしないと言ってくれた。

コタの隣は心強くてとても温かい。
だけどコタの隣以外の世界は僕には冷たく、僕を拒絶する。

そんな世界なら要らない。
僕にはもうコタしか要らない。他の奴なんて居なくていい。

「君は《彼の王》への忠義を捨てるのかな? 」

ふと二人だけの世界に余計な声ノイズが響いた。
その声はまるで僕の全てを分かっているかのように一番聞きたくない、忘れたい言葉を忘れるなと言わんばかりに吐く。

振り向くとそこにはコタに毎日セクハラ行為をする今、この世で僕が最も煩わしく思っているエルフが薬の乗ったお盆を持ち立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

毒を喰らわば皿まで

十河
BL
竜の齎らす恩恵に満ちた国、パルセミス。 ここが前世でやり込んだゲーム、【竜と生贄の巫女】の世界だと思い出した【俺】だったが、俺は悪役令嬢の娘・ジュリエッタと共に破滅の未来が待っている宰相アンドリムに転生してしまっていた。 だけど記憶を取り戻したからには、そう簡単に破滅などしてやらないつもりだ。 前世の知識をフルに活かし、娘と共に、正義の味方面をした攻略対象達に逆転劇を披露してみせよう。 ※※※ 【第7回BL小説大賞】にエントリーさせて頂きました。 宜しくお願い致します(*´꒳`*) ※※※ 小説家になろうサイト様※ムーンライトノベル※でも公開をしております。 また、主人公相手ではないですがNLカプも登場してきます。

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~

結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】  愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。 ──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──  長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。  番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。  どんな美人になっているんだろう。  だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。  ──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。  ──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!  ──ごめんみんな、俺逃げる!  逃げる銀狐の行く末は……。  そして逃げる銀狐に竜は……。  白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...