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戸惑い

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山賊のカチコミから一週間が経つ。
このラヨネという幼い少年は狼の獣人に乱暴な扱いを受けていた檻の中の少年。

檻から出た後もラヨネは俺に引っ付いたまま離れなかった。
他の半獣人はモモの提案で鬼の魔物オーなんちゃらの集落で世話になる事になったが、それでもラヨネは俺から離れなかった。

最初の五日間くらいは全てが怖くて俺から離れられない感じだった。だが今は……。



美味しそうな朝食の匂いが漂い、匂いに誘われて食卓に着く。すると引いた椅子を食卓に近付ける間もなく、モフンと柔らかいものが膝の上に座った。


「コタはパンには蜂蜜とバター付けるの好きだよね。ウィンナーも食べてね。これ、僕が切ったの。」

「そう、なのか…。」

足をほぼ無くした可哀想なタコさんウィンナーをラヨネがブスッとフォークでトドメを刺し、俺の口に寄せる。

向かいの席では可哀想なタコさんウィンナーをフォークで持ち、変態が眉を八の字に下げていた。

「なんて可哀想なクラーケンウィンナー…。」

「可哀想と思うなら食べなきゃいいんじゃない? …外で泥でも食べてなよ。」

「いやいやいやいや、朝食作ったのはほぼ僕だよ!? とんだ暴言だよ。…聞いたコタくん!? これがこのリスっ子の本しょ…。」

「コタ。お口開けて? コタにはいっぱい助けてもらったからいっぱいお世話したいの。」

うるうるとした山吹色の瞳がこちらを見ている。
もふもふとした尻尾が触ってと言わんばかりに腹を優しくくすぐり、食べてと言わんばかりに可哀想なタコさんウィンナーが唇をノックしている。

男同士でアーンはどうなんだろうな…。
子供相手との正しい距離感が全く分からない。


一生子供に好かれる事はないと思ってた。子供に泣かれる人生だと思っていたのに何故こんなに戸惑う程に好意を向けられているのか分からねぇ。

戸惑い思わず変態を見やる。

「食べてあげれば? そんなあからさまに困らないでよ、コタくん。…『男として』は取り敢えず置いといてしたいようにすればいいんじゃないかな。」

君、絶対一人っ子でしょ、と少し呆れた顔で頬杖をつき、変態が見守る。…よく分かったな。兄弟も姉妹もおろか従兄弟すらいねぇよ。

覚悟を決めてパクッと可哀想なタコさんウィンナーを食べるとニパッと嬉しそうな表情を浮かべてぴょこぴょこと小さな耳が上下する。

男相手にどうかと思うが、それがとても可愛く見えて頭を撫でてやるとリス耳がこれまたツヤフカで撫でてて気持ちいい。「まぁ、男でも幼児だしな。」と言い気になって思っていると今度はバターと蜂蜜がたっぷり掛かったパンが口に付けられた。

……先に言っておくが俺は決して甘党じゃねぇ。
俺は男だから辛党。だから蜂蜜は普通。好物ではない。


覚悟を決めて、パクリッと食べると蕩けるような甘い幸せな味がする。

「……コタくんはホント、蜂蜜好きだよね。寝てる時の次に幸せそうな顔してるよ。」

好きなら好きでいいのにねぇと溜息をつき、変態が追加の蜂蜜の壺を持ってくる。
ラヨネはラヨネで全て手ずから食べさせる気だ。

顔が崩れそうになるのを必死に堪えて、顔をフイッと背ける。耳まで真っ赤になってるのが自分でも分かる。

正直、子供に泣かれないで好かれているこの状況がとても嬉しい。甘いものも好きだよ。悪いかッ!!

「別に誰も悪いなんて言ってないからねぇ。君が天邪鬼な上に強情ってだけで。」

勝手に人の心を読み、変態が返答する。
反論しようとするが、もう既に変態の興味は新しい忌々しい玩具の開発へと向いていて、パンを齧りながら設計図を見ている。

ドリルのような棒が描かれていて、それをとても真剣な職人の目で見ている。


朝食中でも仕事に取り組む程のプロ意識なのか。
作っているものはアレだがその心意気は感心するものがあるなと思っていると至極真剣な表情のまま変態が話し掛けてきた。

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