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旅立ち
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漂ってくる芳ばしい匂いを辿り、ダイニングへ行けば焼き魚と葉の物を挟んだホットサンドなるものと野菜のスープがテーブルに並んでいる。
「成長が著しい…。」
変態から料理を教わり作るのでは飽き足らず、最近、料理本を読み漁っているミドリ。
日に日に食事がオシャレで手の凝ったものへとなっていく。
ミドリの知識欲はかなり高く、変態の家にある料理本を全て読破すると他の本にも興味を持ち始めた。文字は料理本を読む中で食材の絵と名前を照らし合わせて覚えたとか。
席につき、ホットサンドを口にするとトロッと魚の脂が濃厚で甘く口の中に広がり、葉のものと味付けのレモンベースのソースが脂っぽさを消し、口の中に爽やかな味が残る。
コイツは何処まで料理スキルを上げる気なのか。そんな事を考えながらソースのついた指をペロッと舐めるとミドリの視線を感じた。
まるで俺の姿を焼き付けるようにじっと見つめる目。
目があった事に気付くと何かを言い掛けたがフイッと目を逸らし、誤魔化すようにホットサンドに齧り付いた。
「……何か俺に言いたい事があんのか? 言わねぇと伝わんねぇぞ。」
ポンッと気合いを入れるように背を叩けば、ミドリは眉を下げ、不安をその顔に表した。…が、フッと息を吐き、幸せそうにホットサンドを咀嚼する変態を見て、次に俺を見ると決意の灯った目で手に持っていたホットサンドを皿に置く。
「コタ。ボクは強くなりたイ。自分の主張が通せる程強ク。自分が守りたいものが守れる程強ク。力も心も頭も…もっともっと強くなりたいんダ。」
強くなりたい。
そう言葉を紡ぐミドリの表情はこれまでに見た事ないくらい固い意志の感じる顔だった。
よく考えてみれば、ミドリは向上意識はあったが、強くなりたいと口にしている姿は見た事がなかった。
揺らがず、じっとこちらを見る目は真摯的でいい面構えをしている。
「だからっ…。だから強くなる為ニ、武者修行に出ようと思ウ。だから…、だからネ……。」
ミドリの小さな両手がまるで祈るかのように俺の手を包む。ミドリの瞳が揺らぎ、ギュッと包む両手に力が入る。
「強くなって帰ってくるから待ってテ。」
その言葉に、その表情に、胸の辺りがギュッと掴まれたように苦しくなった。
仲間を失うのをただ泣いて見ている事しか出来なかったあの小さな緑色の生き物。
俺を求めて、ついて回っていたらあの小さな存在。
一緒に背を預けて喧嘩して、同じ釜の飯を食べた舎弟のミドリ。
コイツはまだたった出会って一年も経っていないのに瞬く間に成長の階段を駆け上り、また一歩また一歩と今も成長しようとしている。
それがふと寂しいと感じた。
ー そこは喜ぶ所だろうが…。アホ。
舎弟の成長は一緒に喜んでやるもんだ。
舎弟が成長に向けて進んでいくなら頑張れよと喝を入れて送り出してやんのが男だろ。
そう寂しさを心の底へ押し込めて、ポンッとミドリの頭に手を乗せる。上手く笑えてるかは分からない。
「お前が求める強さ…。絶対、手に入れて帰って来いよ。くたばらずに待っててやるからさ。」
「コタ…。うん。絶対…。絶対だかラ。」
ミドリが涙を押し込めるようにグッとへの字に口を結び、小指を差し出す。それは舎弟にする時に教えた『ゆびきりげんまん』。
初めて会った時より一回り大きく、顔付きも凛々しいものへと変わってしまっているが、根本的なもんはあの日から何も変わらない。
小指を絡ませると教えた通りに口上を述べて、ゆびをきりをした。
「こんな早朝から青春だねぇ。……二人とも青春に夢中で残りのホットサンドはいらないみたいだからここは僕が美味しく……。」
大人しく年長者らしく俺達のやりとりを見守っていた変態が駆け巡る様々な想いと思い出に身を浸している俺達の目を盗んで俺達の分のホットサンドに手を伸ばすが…。
「あ、痛っ!? 」
食事とは弱肉強食。
弱ければ自身の取り分すら奪われ、強ければたらふく食べられる。それが食卓という名の戦場。
人の取り分を狙って迎撃されるのも、また当たり前。
俺もミドリも互いに思いを馳せながらも指切りしてないもう一つの手は変態の手の動きをとらえていた。
まるで食事にたかる蝿のように俺…だけでなく、ミドリにも思いっきり手を叩かれた変態は驚愕で目を丸くした。
「ミ、ミドリくんが僕の手を打った!? ひ、酷いっ…。君だけは僕の味方だと思ってたのに……。」
「人のご飯を取るの良くなイ。横取りは嫌われル。」
「知ってるか? この世で一番面倒臭いのは食べ物の恨みだ。…よく覚えとくんだな。」
「いや…、それ。君にだけは言われたくないよ!! どんなに『包丁を使え。』、『匙使って測って。』って言っても我が道を行くと言わんばかりに断固として聞き入れてくれなかったよねぇ、君!? 」
解せないと言わんばかりにダンッとテーブルを叩く変態。
反省の色なしと見なし、変態の皿から最後のホットサンドを奪い、ミドリと半分こして口に放り込む。
すると変態は「年寄りからご飯を奪うなんて酷いっ。悪魔!! 」とワッとテーブルに伏せて癪に障る嘘泣きを始めた。
普段、自身はまだまだ若いとまだ六千三百歳だもん…と、主張する癖に都合の良い時だけ年寄りぶるその性根が何より癪に障る。
しんみりした雰囲気は奴の所為で完全に壊されたが、ミドリが半分こして食べたホットサンドをリスのように頬張って笑うからこっちまで楽しい気分になる。
ミドリが武者修行に向けて旅立って行ったのはそれから三日後の事。
魔族領にある迷宮と呼ばれる腕試しの場で三年間修行するんだとか。
「成長が著しい…。」
変態から料理を教わり作るのでは飽き足らず、最近、料理本を読み漁っているミドリ。
日に日に食事がオシャレで手の凝ったものへとなっていく。
ミドリの知識欲はかなり高く、変態の家にある料理本を全て読破すると他の本にも興味を持ち始めた。文字は料理本を読む中で食材の絵と名前を照らし合わせて覚えたとか。
席につき、ホットサンドを口にするとトロッと魚の脂が濃厚で甘く口の中に広がり、葉のものと味付けのレモンベースのソースが脂っぽさを消し、口の中に爽やかな味が残る。
コイツは何処まで料理スキルを上げる気なのか。そんな事を考えながらソースのついた指をペロッと舐めるとミドリの視線を感じた。
まるで俺の姿を焼き付けるようにじっと見つめる目。
目があった事に気付くと何かを言い掛けたがフイッと目を逸らし、誤魔化すようにホットサンドに齧り付いた。
「……何か俺に言いたい事があんのか? 言わねぇと伝わんねぇぞ。」
ポンッと気合いを入れるように背を叩けば、ミドリは眉を下げ、不安をその顔に表した。…が、フッと息を吐き、幸せそうにホットサンドを咀嚼する変態を見て、次に俺を見ると決意の灯った目で手に持っていたホットサンドを皿に置く。
「コタ。ボクは強くなりたイ。自分の主張が通せる程強ク。自分が守りたいものが守れる程強ク。力も心も頭も…もっともっと強くなりたいんダ。」
強くなりたい。
そう言葉を紡ぐミドリの表情はこれまでに見た事ないくらい固い意志の感じる顔だった。
よく考えてみれば、ミドリは向上意識はあったが、強くなりたいと口にしている姿は見た事がなかった。
揺らがず、じっとこちらを見る目は真摯的でいい面構えをしている。
「だからっ…。だから強くなる為ニ、武者修行に出ようと思ウ。だから…、だからネ……。」
ミドリの小さな両手がまるで祈るかのように俺の手を包む。ミドリの瞳が揺らぎ、ギュッと包む両手に力が入る。
「強くなって帰ってくるから待ってテ。」
その言葉に、その表情に、胸の辺りがギュッと掴まれたように苦しくなった。
仲間を失うのをただ泣いて見ている事しか出来なかったあの小さな緑色の生き物。
俺を求めて、ついて回っていたらあの小さな存在。
一緒に背を預けて喧嘩して、同じ釜の飯を食べた舎弟のミドリ。
コイツはまだたった出会って一年も経っていないのに瞬く間に成長の階段を駆け上り、また一歩また一歩と今も成長しようとしている。
それがふと寂しいと感じた。
ー そこは喜ぶ所だろうが…。アホ。
舎弟の成長は一緒に喜んでやるもんだ。
舎弟が成長に向けて進んでいくなら頑張れよと喝を入れて送り出してやんのが男だろ。
そう寂しさを心の底へ押し込めて、ポンッとミドリの頭に手を乗せる。上手く笑えてるかは分からない。
「お前が求める強さ…。絶対、手に入れて帰って来いよ。くたばらずに待っててやるからさ。」
「コタ…。うん。絶対…。絶対だかラ。」
ミドリが涙を押し込めるようにグッとへの字に口を結び、小指を差し出す。それは舎弟にする時に教えた『ゆびきりげんまん』。
初めて会った時より一回り大きく、顔付きも凛々しいものへと変わってしまっているが、根本的なもんはあの日から何も変わらない。
小指を絡ませると教えた通りに口上を述べて、ゆびをきりをした。
「こんな早朝から青春だねぇ。……二人とも青春に夢中で残りのホットサンドはいらないみたいだからここは僕が美味しく……。」
大人しく年長者らしく俺達のやりとりを見守っていた変態が駆け巡る様々な想いと思い出に身を浸している俺達の目を盗んで俺達の分のホットサンドに手を伸ばすが…。
「あ、痛っ!? 」
食事とは弱肉強食。
弱ければ自身の取り分すら奪われ、強ければたらふく食べられる。それが食卓という名の戦場。
人の取り分を狙って迎撃されるのも、また当たり前。
俺もミドリも互いに思いを馳せながらも指切りしてないもう一つの手は変態の手の動きをとらえていた。
まるで食事にたかる蝿のように俺…だけでなく、ミドリにも思いっきり手を叩かれた変態は驚愕で目を丸くした。
「ミ、ミドリくんが僕の手を打った!? ひ、酷いっ…。君だけは僕の味方だと思ってたのに……。」
「人のご飯を取るの良くなイ。横取りは嫌われル。」
「知ってるか? この世で一番面倒臭いのは食べ物の恨みだ。…よく覚えとくんだな。」
「いや…、それ。君にだけは言われたくないよ!! どんなに『包丁を使え。』、『匙使って測って。』って言っても我が道を行くと言わんばかりに断固として聞き入れてくれなかったよねぇ、君!? 」
解せないと言わんばかりにダンッとテーブルを叩く変態。
反省の色なしと見なし、変態の皿から最後のホットサンドを奪い、ミドリと半分こして口に放り込む。
すると変態は「年寄りからご飯を奪うなんて酷いっ。悪魔!! 」とワッとテーブルに伏せて癪に障る嘘泣きを始めた。
普段、自身はまだまだ若いとまだ六千三百歳だもん…と、主張する癖に都合の良い時だけ年寄りぶるその性根が何より癪に障る。
しんみりした雰囲気は奴の所為で完全に壊されたが、ミドリが半分こして食べたホットサンドをリスのように頬張って笑うからこっちまで楽しい気分になる。
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