上 下
13 / 160

貢ぎ物

しおりを挟む
あれは夢か現実か。
背筋にゾクリッと寒気が走り、テントの中を見回したが、ミドリと俺以外の痕跡は見当たらなかった。

気持ち悪くなり、痕を掻くと「掻きむしるの良くなイ。」とミドリが止めたられる。掻き過ぎて血が滲んでいるようで痒み止めではなく、傷薬を塗られた。

「舐めときゃ治るって。」

「駄目。ちゃんと手当てしないと傷残ル。」

「…傷は男の勲章だろ。」

「コタの綺麗な白い肌。傷残って欲しくなイ。」

「男に綺麗はやめろよ。」

傷薬だけでなく、グルグルと清潔な布で過剰な手当てをするミドリ。
そんなミドリの姿に苦笑する。

ミドリは仲間を失ったからか仲間が傷を負うのを恐れている節がある。小さな擦り傷や軽い打撲程度でも眉の根が下がり、不安そうな顔になる。

そして、まるで大事な宝物を扱うような優しい手つきで丁寧に丁寧に手当てする。それがむず痒くてむず痒くてしょうがない。

それでも綺麗だと小さな緑色の手がするりと肌を撫でる度見せる表情があまりに幸福そうで、俺はむず痒くてもやめろという事が出来ないでいる。

ー どうしたもんかな…。

ポリポリと頭を掻き、現状から少し目を逸らす。
このミドリから醸し出されるふんわりとした雰囲気が喧嘩三昧だった俺にはなれない。

もうちょい雑な扱いでいいんだけどな、と心の中でボヤきつつ、テントの窓からぼんやり外を見ていると、不意に外からニュッと手が入ってきてボトボトと魚を落とした。

「オイッ!? またかよ!!! 」

目的を達成し、シュバッと窓から抜かれた手を追いかけて、テントから出ると遠くにペタペタと走り去っていく爬虫類の後ろ姿が三つ。
学ラン風の上着を満足気に靡かせて、奴等は自身の集落へ向けて帰ろうとしていた。

「オイ。コラッ、リザなんちゃら。いらねぇって言ってんだろがッ!! 」

いい加減にしろと叫ぶが戻ってくる事はなく、貢がれた魚だけが手元に残った。

「ちくしょうっ。またやられた。」

あまりの悔しさに地面を蹴った。



リザなんちゃらへのカチコミの後。
リザなんちゃらは毎日、俺達に魚を貢ぐようになっていた。

お前達に貢がれる義理はねぇ。
自分の魚くらい自分でとる。

そう最初の頃、俺は魚をリザなんちゃらに突き返していた。その度、リザなんちゃらは悲しそうにトボトボと貢物の魚を持って帰っていく。それが一時期朝の恒例になっていた。

だが、どうしても受け取って欲しいのか。
リザなんちゃらは正攻法で来ると受け取ってもらえない事を学習してこの方法を取るようになった。……何故、そこまでして貢ぎたいのか? 俺には全く分からねぇ。


苛立ちに任せ、バリバリと頭を掻きながら魚をミドリに渡すと、ミドリは器用に魚を捌き、天日干しにする。テントの周囲は天日干しにされている魚達に囲まれていて非常に生臭い。

しかし、テントの周りに置かれているものは魚だけではない。


「臭ぇな。色んな匂いが混ざってやがる。」

イノシシっぽい生き物の肉や果物に花。
朝、起きると何時の間にやらテントの周りにお供物のように置いてある。

実は貢物をしてくるのはリザなんちゃらだけではない。
カチコミをした魔物達全員から毎朝毎朝、貢がれてる。

ー 俺はあいつらの中でどのポジションなんだろうな……。

俺の目的はこの森の頂点に立ち、白龍と喧嘩し、日本に帰る手立て及びこの不調をどうにかする事。
その目的は着々と達成しつつあるが、俺が求めてる形とはなんか違う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...