怖くないホラーSS集

隣人

２

「昼間はお仕事でしょう？
夜は電気はつけるわけですし、ほら、こっちの部屋は明るいですよ。」

「はぁ…」

「この辺りはとても静かですし、スーパーも近い。
お家賃も安いですしこんな良い物件逃したら、他にはなかなかありませんよ。」

 「そ、そうですか…」

不動産屋さんに押し切られるような感じで、結局、僕はそこを契約してしまった。



古くて、狭くて、暗くて、僕の理想とはかなり違うけど…
今日からここは僕の城だ。
そう思ったら、なんとなく気分が弾んできた。



 （さて、と…そろそろ挨拶にでも行こうか。）



「２０２に引っ越して来た沢田と言います。
どうぞよろしくお願いします。」

これまた初めての事で緊張はしたけれど、僕は、洗剤を持って挨拶周りに出かけた。
 ２０１の部屋にいたのは、中年の男性だった。



「ご丁寧にどうも。俺は高坂だ。
あんた、一人暮らしかい？」

「え、は、はい。」

「俺もだ、よろしくな！」



 次は２０３…
そこの住人は小柄なおばあさんだった。



「これはこれはどうもありがとうございます。
私は山岡と言います。どうぞよろしくね。」

「は、はい。よろしくお願いします。」



本来なら一階も行かなきゃならないのだけど、手持ちのお金もかなり厳しくなって来たことだし、二階だけにしておいた。
都会は人間関係が希薄だとか聞いていたけど、両隣の人達は良さそうな人達で安心した。



そんなわけで、新居での初めての夜は、心穏やかに眠ることが出来た。