硝子の塔の大魔王

１３

＊



 （あれは……！）




 塔の一番上から見下ろす人間と目があった時、勇者・ライアンの鼓動は急に速さを増した。



 （な、なんだ、なんだ？
 何か違うぞ…僕と、何か違う……
あ、そうだ…！あれは女だ！
 母ちゃんと同じ『女』なんだ！）



 ５歳の時に、勇者養成所に入所してからというもの、勇者・ライアンは女性というものを見たことがなかった。
 勇者・ライアンの心は、その美しき女性に鷲掴みされてしまった。



 （あぁ…なんて綺麗で可愛いんだろう…！
 決めた！
 僕、あの人と結婚する！）



そこらへんの子供より純粋な心を持った勇者・ライアンは、一瞬で恋に落ち、結婚を決意してしまったのだ。
もはや、本来の勇者のなすべき「魔王討伐」のこと等、すっかり忘れはてていた。



 （よ～し！頑張るぞ～！！）



 全身に気合いを込めた勇者・ライアンは、つるつるした硝子の塔をよじ登り始めた。
 普通の人間にはとても不可能なことだが、勇者・ライアンは熱い恋の力でべったりと塔に貼りつき、美しい女性のいた上の階を目指して登り続けた。