忘れえぬ人

神在琉葵(かみありるき)

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奴をもとの世界に戻した鏡…



あれは、おそらくセシリアの家で私が罠にかけられたあの鏡だと思う。



つまり…アラステアと同じことをすれば…
私もここを出られる…そういうことだろう。
スコットは、この鏡の結界を解いてしまったのだ。



だが、それがわかっていても、私はアラステアと一緒に出て行こうとは思わなかった。



 万一、試してみてだめだったら…
その時のことを考えると、やはり私は怖かったのだ。
 私は情けない程臆病者だ。



それに…ここを出てどうなる…?
セシリアはもういない…
仮にあの時、セシリアが死んだというのが嘘だったとしても、あれからは途方もない時が流れた。
それは、人間が生きられるような長さではない。



そう…彼女がこの世にいないことはどうしようもない事実なのだ。



ならば、元の世界に戻ろうが、このひんやりと冷たい世界で暮らそうが、同じことではないか。



 彼女を救えなかったことで、まだ自分自身を許せないでいるのかもしれない。
 牢獄のようなこの場所にいることを、私は罪滅ぼしのように考えているのかもしれない。



 元の世界に戻りたい気持ちはもちろんあるが、様々な想いが邪魔をする。



 (私にはここがお似合いだ…)



 鉛色した空を見上げた。
いつもいつも変わらない空の色…
だが、この空は妙に私の気持ちを落ち着かせてくれる…
それは、この色が私の心の中と同じ色だからなのかもしれない…
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