ミステリーSS集

夜空の方舟

４

それから、僕は魂の抜け殻のようになって一人寂しく暮らした。
 仕事も何もかも、もうどうでも良いような気持ちになっていた。
 楽園のことも全く考えなかった。



 妻が亡くなって、数か月が経ったある晩、僕は胸に痛みを感じ、必死に家政婦さんの名前を呼んだ。
それから僕は意識が無くなった。



どのくらい経った頃だろうか？
ドアを開ける音がして、僕は意識を取り戻した。
 入って来たのは、あろうことか亡くなった妻だった。
 私は幻を見ているのかと思った。



 「君は生きていたのか！？」

 「私は、ずっとあなたが来るのを待っていたのよ。さぁ、行きましょう！」

 「行くって、何処に？」



 妻は私の手を引き外に出て、どんどん先に歩いていく。
やがて着いた場所には、一艘の舟が留まっていた。
 間違いない。何度も見たことがある、楽園行きのあの舟だ。
 僕は妻に手を引かれ、舟に繋がる階段を上がり、乗り込んだ。



 「君は知ってたのか？この場所を…」

 「ええ。これから舟に乗って楽園に行くのよ。」

 「やっぱりそうか。僕が子供の頃からずっと夢に見ていた舟に乗るんだね？」

 「そうよ。あなたはやっと楽園に行く切符を手にしたの。私はあなたと一緒にいきたかったから、この日をここで待っていたのよ。」



 僕は、ついに幼い頃からの夢を叶えた。
 舟は僕らを乗せ、やがて、ゆっくりと浮き上がり、空高く舞い上がった。