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奇妙な依頼
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次の日、飯田が出勤したのを確かめると、私は庭に身を潜めた。
昨日、飯田が現れた方向にカメラを構える。
そろそろ時間だ。
「あっ!」
飯田が現れた。
昨日と同じく、何もない所から空間を切り裂くようにして…
私は必死でシャッターを切った。
その様子に飯田も気付き、血相を変えて私の所へ駆けて来た。
「カメラをよこせ!」
「じ、事情を話して下さい!」
飯田はすぐにおとなしくなり、私達は近くの公園に向かった。
「飯田寛之さんですね?」
「ああ、そうだ。」
「しかし、飯田さんは研究所に行ったはずですが…」
飯田は、ベルトのバックルのようなものを指さした。
「これは、試験運用中のタイムマシンだ。」
「えっ!?こ、これがタイムマシン?
では、あなたは…」
飯田はゆっくりと頷く。
「そうだ。今から三年後の未来からやって来た。」
「未来から!?で、でも、なぜそんなことを…?」
飯田の顔に暗い影が差した。
「啓子はもうじき死ぬ…」
「えっ!?」
「……突然の病だった。
彼女は、誰にも看取られず…一人で死んでしまった。
僕は、結婚してからもずっと忙しく、彼女と旅行に行ったこともなければ、ゆっくり話したことさえなかった。
彼女を失ってようやく、彼女の大切さに気が付いた。
だけど、彼女は死んでしまったんだ。
もうどうにもならない。」
飯田は、溢れる涙を指で拭った。
「だけど…今年になってついにタイムマシンが完成したんだ!
僕は、最後のチャンスを手に入れた。
この試験運用中の一か月間を、彼女と過ごしたいと思った…」
「罪滅ぼしということですね?」
「いや…とにかく彼女と一緒にいたかったんだ。
でも、それも今日で終わり…今日で終わりなんだ…」
飯田は人目もはばからず、子供のように泣きじゃくった。
*
その二日後、夫人が亡くなった。
『過去を変えてはいけない。』
飯田に釘を刺されていたから、飯田の家には行けなかった。
もしかして、今、行けば夫人は助かるのではないか?そんな気持ちと闘いながら、私はたとえようのない程辛い時間を過ごした。
昨日、飯田が現れた方向にカメラを構える。
そろそろ時間だ。
「あっ!」
飯田が現れた。
昨日と同じく、何もない所から空間を切り裂くようにして…
私は必死でシャッターを切った。
その様子に飯田も気付き、血相を変えて私の所へ駆けて来た。
「カメラをよこせ!」
「じ、事情を話して下さい!」
飯田はすぐにおとなしくなり、私達は近くの公園に向かった。
「飯田寛之さんですね?」
「ああ、そうだ。」
「しかし、飯田さんは研究所に行ったはずですが…」
飯田は、ベルトのバックルのようなものを指さした。
「これは、試験運用中のタイムマシンだ。」
「えっ!?こ、これがタイムマシン?
では、あなたは…」
飯田はゆっくりと頷く。
「そうだ。今から三年後の未来からやって来た。」
「未来から!?で、でも、なぜそんなことを…?」
飯田の顔に暗い影が差した。
「啓子はもうじき死ぬ…」
「えっ!?」
「……突然の病だった。
彼女は、誰にも看取られず…一人で死んでしまった。
僕は、結婚してからもずっと忙しく、彼女と旅行に行ったこともなければ、ゆっくり話したことさえなかった。
彼女を失ってようやく、彼女の大切さに気が付いた。
だけど、彼女は死んでしまったんだ。
もうどうにもならない。」
飯田は、溢れる涙を指で拭った。
「だけど…今年になってついにタイムマシンが完成したんだ!
僕は、最後のチャンスを手に入れた。
この試験運用中の一か月間を、彼女と過ごしたいと思った…」
「罪滅ぼしということですね?」
「いや…とにかく彼女と一緒にいたかったんだ。
でも、それも今日で終わり…今日で終わりなんだ…」
飯田は人目もはばからず、子供のように泣きじゃくった。
*
その二日後、夫人が亡くなった。
『過去を変えてはいけない。』
飯田に釘を刺されていたから、飯田の家には行けなかった。
もしかして、今、行けば夫人は助かるのではないか?そんな気持ちと闘いながら、私はたとえようのない程辛い時間を過ごした。
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