ミステリーSS集

神在琉葵(かみありるき)

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見知らぬ花嫁

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「お、岡林さん…!」

 岡林は、花嫁の体を抱きかかえ、車椅子に座らせた。



 「あと少しだったのに…」

そう言って、岡林は涙を拭った。



 「あんなに楽しみにしてたのに…昨夜、こいつは突然逝っちまったんだ。」

 僕の思った通り、花嫁は死んでいた。



 僕らは、亡くなった美津子さんを車に乗せ、岡林の家に戻った。



そこで、僕は今回のおかしな結婚式についての話を聞いた。



 「こいつは、本当に可哀想な奴なんだ。
 子供の頃からずっと病気ばっかりでな。」

 横たわる美津子さんを見る岡林の視線は、優しさに溢れたものだった。



 「どうにかこうにかここまで生き抜いてくれたんだが、最近はどうにも具合が悪くてな。
 気持ちも弱ってたのか、あいつ…俺に言ったんだ。
 人並みに結婚してみたかったってな。
でも、あいつはいつ死ぬかもわからない体だ。
そんな奴と結婚してくれるとしたら、そりゃあ金に目が眩んだ奴だけだ。
それでも良いかと思ったりもしたが、やっぱり悩んだ。
それで、あんたにこの話を持ち掛けた。」

 「どうして僕を?」

 「あんたは、誠実だからだ。
 毎月欠かさず、利子を払ってくれた。
 俺に悪態を吐くこともなかったし、ママも良い人だって言っていた。
 少なくとも俺の知る人間の中では、一番マシだったんだ。」

 「そうでしたか……」

 冷淡な面しか知らなかった岡林も、身内には違ったのだとどこか意外な気がした。



 「約束通り、これであんたは自由だ。」

 「ありがとうございます。」



 *



 (あれからもう三年経ったんだね。早いもんだね。)



 僕は、墓の前で手を合わせた。



 人生は何が起きるか、本当にわからない。
あの結婚以来、僕の生活は一変した。



 美津子さんが死んで半年後に、岡林が急病で呆気なく亡くなった。
それには驚いたが、もっと驚いたのは、岡林が資産を全部僕に託すと遺してくれた事だ。



そのお陰で僕は、働かなくても済む豊かな生活を手に入れた。



 (また来るね…)



 僕は岡林家の墓に向かって心の中で呟いた。
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