ミステリーSS集

神在琉葵(かみありるき)

文字の大きさ
上 下
35 / 89
見知らぬ花嫁

しおりを挟む
教会に入ると、岡林がすでにいた。



 「あ、岡林さん…こん……」

 「あの部屋で、服を着替えて来い。」

 「え?は、はい。」



 挨拶さえする暇も与えてもらえず、僕は部屋に向かった。
 今日の岡林は、なんだか機嫌が悪そうだ。
 元々愛想の良い人ではないが、今日は沈んでいるようにも見えた。



 部屋に入ると、礼服が準備されていた。
 僕は、言われた通り、それに着替えた。
 鏡に映った僕には、純白の礼服が全く似合ってない。
あまりに似合わな過ぎて、笑いが込み上がる程だ。
 日に焼けた、結婚をするには老けすぎている顔が浮きまくっている。



 僕の両親は、この姿を雲の上から見ているだろうか?
 見ていたら恥ずかしい…
それに、心配をかけて申し訳ない。



 (父さん、母さん…どうか、僕を守って下さい。)



 申し訳ないとは思いながら、つい心細くて、心の中でそんなことを祈った。



 「準備は出来たのか?」



 不意にドアが開いて、岡林が顔をのぞかせた。



 「は、はい。」

 「じゃあ、早く来い!」



 礼拝堂の扉を開くと、そこに参列者は一人もいなかった。
 花嫁は車椅子に乗り、すでに主祭壇の前にいた。
 具合でも悪いのか、それとも何らかの障害か?
 別にそんなことはどうでも良いが…



その場所に神父はいなかった。
おかしいなと思いながらも、僕は、花嫁の後ろ姿を見ながらひとりでバージンロードを歩いて行った。



 「あ、あの…今日はよろしくお願いします。」

 僕は小声で花嫁に声をかけた。
 花嫁は俯き、何も返事をしなかった。



 「大垣満は岡林美津子を妻とするな?」

 僕らの前に立った岡林が神父の真似事をする。
 彼は今『岡林美津子』と言った。
 岡林の身内なのだろうか?



 「は、はい。」

 僕にはそう言うしかない。



 「よし、これでお前たちは晴れて夫婦だ。」

そう言うと、岡林は花嫁の車椅子の後ろに回り、それを動かした。
その時、ぐらりと花嫁の体が前のめりに車椅子から転がり落ちたのだ。



 (ま、まさか!?)



 床に転がったその体は、ぴくりとも動かなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。 飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。 ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた—— 「そこに、"何か"がいる……。」 科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。 これは幽霊なのか、それとも——?

赤いドレスの女

神在琉葵(かみありるき)
ミステリー
あの人は一体…?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...