ミステリーSS集

神在琉葵(かみありるき)

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この世で一番醜い顔

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俺の腕は、映画や広告、イベント等で早速重宝された。
しばらくすると、俺の名は業界でもそこそこ知られるようになっていた。



 「おいっ!皆!赤沢作品のオファーが入ったぞ!」

 上司の弾んだ声に、工房は色めき立った。



 「ほ、本当ですか!?」

 「あぁ、本当だ!」



 (赤沢……)



 赤沢雄一は、新進気鋭の映画監督だ。
ファンタジーやSFものを得意とし、彼の作品は海外でもいつも高い評価を得ている。
なんと、その赤沢作品からオファーがかかったのだ。



 *



 「違う!僕がイメージしてるのはこんな作り物の顔じゃない!」

 俺とたいして年も変わらないのに、赤沢はたいそう気難しく、妥協を許さない。
だが、俺だって妥協する気なんてない。
 俺達は、毎日遅くまで作業を続け、いつしか俺は赤沢と親しくなっていた。



 「あんたみたいにしぶとい奴は初めてだ。
 普通なら、すぐに逃げ出すのに…」

 「俺も監督と同じく、妥協が出来ない性質だからな。」

そう言うと、赤沢はくすりと笑った。



 「あんたのおかげで、今度の作品は良いものになりそうだ。ありがとな!」

 赤沢は、機嫌の良い顔をしてグラスの酒を飲み干した。



 本当にハードな仕事だった。
ゆっくり眠る暇さえない。
だが、出演者もスタッフも、懸命に自分のやるべきことをやりつくした。
 途中で、主役の若い女の子が体調を崩し、クランクアップは予定よりも一か月程遅くなってしまったが、それでもついに映画は完成した。



 苦労した甲斐があり、映画は大ヒットした。
 満員御礼が連日続いている。
 今までの赤沢作品の中でも、一番の興行成績を叩きだした。
 俺は、誇らしい気分を感じていた。
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