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 「二人共、疲れただろう?よく頑張ったな。
でも、もう少しだ。
ここをまっすぐに行った所に、僕の住む村があるんだ。」



ルリが目を覚ました次の日、ようやくリタが目を覚ました。



 二人が助かったことに、僕は心の底から感謝した。
 僕にはわかっていた。
 二人が助かったのは、僕のおかげなんかじゃない。
そして、助かったことに理由等いらないということが……



二人は、あれほど弱っていたにも関わらず、その回復力は目覚しいものだった。
とはいえ、身体は元気になってはきても、二人の今までの暮らしを考えれば心の傷はまだ血を流し続けている事は容易に推測出来、それが不憫だった。
しばらくして、親類の者達が二人を探しているという話を聞いた時、僕の心は決まった。
もちろん迷いがなかったわけじゃない。
だけど、迷いよりも決意の方がほんの少し強かった。
 僕は、彼らを守るため村に戻ることを決め、神父もそれに賛成してくれた。



 本来であればもうしばらく静養させた方が良いとは思ったが、彼らをもうあんな鬼の所へ返すわけにはいかない。
 彼らの体調を考えながら、ついに僕らは夜明けを待って町を離れた。
 出来るだけ早く町から遠い所へ行きたいと思い、彼ら二人を背負い、僕は真夜中の街道を幾晩も歩き続けた。
 幸いにも旅の間に二人が体調を壊すことはなく、日が経つごとに二人の重さは増していく。
そのことが僕にはとても嬉しかった。



 *



 「……あれぇ?」

リタが道の手前で小首を傾げ、立ち止まった。



 「リタ、どうかしたの?」

 「私…ここに見たことがある。」

 「嘘だよ。
ボク、来たことないもん。」

 「だって本当にあるんだもん!」



 弟に嘘吐き呼ばわりをされ、リタは泣きそうな顔を僕に向けた。



 「リタ、僕は信じてるよ。
きっと、ルリが知らないうちに来たんだね。」

 「うん!そうだと想う。
この道でね、綺麗なお姉さんが私達に手を振って、お帰りーって言ったの。」

 「リタの嘘吐き!」

 「嘘吐きじゃないもん!」
 私、寝てる時に本当にここに来たんだもん。
お姉さんはジュストを待ってたんだもん。」



リタのその言葉を聞いた途端、僕は胸がいっぱいになり、体が震えるのを感じた。



そうか…リタは本当にここに来たんだ。
そして、僕達を出迎えてくれた女性は……



「寝てるのに来られるわけないじゃないかー!」

 「本当に来たんだもん!」

 「そんなこと出来るわけないもん!ねぇ、ジュス…ト……
どうしたの!?ジュスト、どうして泣いてるの!?」

 「ほら!ルリが私のこと苛めるから、ジュストが泣いちゃった!」
ジュスト、泣かないで…!
 私達、仲良くするからもう泣かないで…!」

 小さな手が、僕の手をしっかりと握り締めた。




 「……ありがとう、リタ。
 僕はもう大丈夫だから、心配しないで。」



 間違いではなかった。
ここに戻って来たのは、きっと、間違いではなかったんだと…そう想えた。



また僕はここで診療所の医者として働くのか……これからのことはまだ何もわからないけど…

とにかく、僕はこの村に住む。
そうだ、まずは家の中を片付けて…
そして、マリアにあらためてこの二人のことを報告に行こう。
それからのことは、またその時に考えれば良い。




 「さぁ、行こうか。」

 僕は、両手に小さな手を繋ぎ、懐かしいあの村に向かって歩き始めた。



 (……ただいま。)



 ~fin

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