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 「ジュスト…本当に大丈夫なの?」

 「ええ…心配はいりません。」



 彼女は医者の診立てよりも早くに旅立った。
 僕が彼女の命を縮めたんだという後悔と罪悪感に、僕は完全に打ちのめされた。

 子供の頃から憧れていた医者という職業にも絶望した。
 僕には人を救うことなんて出来ない。
 薬屋から買って来た薬でも飲んで、身体を休めていれば自然に良くなるようなそんな病気をほんの少し早く治すのがせいぜい堰の山だ。
なのに、村の人達におだてられ良い気になって…
僕が一番救いたかった人は、救うどころか苦しい想いをさせた挙句に命を縮めてしまった。
 僕は、医者どころか死神だ。
 人間として生きる値打ちさえない。




マリアの葬儀を済ませ、無理を言って診療所の引継ぎ済ませた僕は、村の人達には故郷に帰ると言って村を離れた。
もちろん、僕の行き先は故郷なんかじゃない。



 僕が行くべき先は地獄だ。
マリアに会いたいが、合わせる顔もない。
 彼女は最期に何を言いたかったんだろう。
それがどれほど酷い恨み事であったとしても、聞く事が出来ていたら、まだ少しは落ちつく事が出来たのに……



(君はあの時、何を言おうとしたんだ…)




いくつかの町を旅して、僕は、少しも時分の気持ちが変わらない事を確信した。



 死神はこんな所にいちゃいけないんだ…
僕は、罰を受けなきゃならない。



 (そろそろ、ここを離れるよ…マリア…
君に会って詫びたいけれど、君のいる天国には僕は行けないから……)
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