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 (こ、これは……!)



 花畑に横たわる二つの小さな身体…
最初はまさか人間だなんて思わなかった。
こんな真夜中に小さな子供が花畑にいるなんて、普通、そんなこと考える筈がない。



しかし、人間だということは……



僕は息を飲んだ。
 身動き一つしない二つの身体は、痩せこけてぼろ布のような粗末な衣類を身に着けている。



 殺されて棄てられた……?
それとも、行き倒れ?



 僕は恐る恐る二人の傍に近付き、そして、二人がまだ生きている事を知った。
しかし、その命の灯火は今にも消えそうに儚いもので……
二人がどういう暮らしをしてきたのかは知らないが、おそらくは乞食なのだろう。
 長年の栄養失調で、身体の隅々までもが衰弱しきっている事は診察しなくともすぐにわかった。



 僕はそっと立ち上がり、その場を離れた。




 二人はおそらくもう助かるまい。
ならば、もう関わるのはやめよう。
 僕には、彼らを救うことなんて出来やしない。
そんな力は僕にはないんだ。
 医者もやめた。
 僕みたいに何も出来ない者が、医者だなんてお笑い種だ。
 医者をやめるだけじゃない…
僕はもう人間であることさえもやめるつもりで旅に出た。



その決心が着くまで、僕はあてもない旅を続け……
そして、ふらりとこの町に立ち寄った。



 (あぁ……
なんて、美しい月なんだろう……)



ぽっかりと空に浮かんだ丸い月を僕は見上げた。
この美しい月明かりを導きに、僕はほんの少しだけ散歩するつもりが、いつの間にかこんな町はずれまで来てしまった。



 (そして、こんな子供達をみつけてしまうなんて…)



でも、考えてみれば、こんな美しい月の夜に逝けるなんて幸せなことだ。
きっと、この二人は毎日ひもじい想いをして、辛い毎日を過ごしてきたのだろう。
その苦しみとももうおさらばだ。
こんなにやすらかに眠ったままで……目が覚めたらあの世に逝けるなんて、幸せ以外のなにものでもない。
せめて、マリアも……




(さようなら……
悪い夢はもう終わりだ…
僕も、そのうち、そっちへ行くよ……)



 僕は両手を組んで、短い祈りの言葉を口にして……
無情にもその場を後にした。



 (いや、これはあの子達にとっての幸せなんだ。
これで、もう苦しみは終わったんだから…
その方が生きているよりもずっと楽しいんだ…
解放されるんだ…



 ……それにどうせ僕には助けられないんだから……)




 僕はのしかかってくる罪悪感を振り払うべく、そんなことばかりを考えながら、明るい月明かりの下、宿に向かって引き返した。

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