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 「アリシア…さっきはどこにいた?」

 夕食の席で、アリシアの父・モーリスが低い声で訊ねました。



 「え?…さ、さっきですか?部屋にいましたわ。」

 「部屋におまえはいなかった。」

 「そ…それなら、ちょうど庭を散歩していた頃だと思います。
 薔薇を見ておりました。」

ディランに会いに行っていたことがバレたのではないかと、アリシアは内心ドキドキしていましたが、そんな気持ちを押し殺し、ひたすら平静を装いました。 



 「そうか…
それはそうと、アリシア…週末は家にいなさい。」

 「週末…ですか?週末に、何かあるのですか?」

 「おまえに会わせたい者がいてな…」

アリシアはその言葉にいやな予感を覚えました。 



 「私に…会わせたい…人?」

 「そうだ。リチャードと言ってな。
シャリアー家の息子だ。
シャリアー家といえば、申し分のない家柄だし、リチャードは、次男だからうちに来てくれるそうだ。」

 「うちに…って、まさか、その人は…」

アリシアの父親は深く頷きました。 



 「そう…おまえの伴侶にと考えている。」

 「わ、私…まだそんな…」

 「おまえももう二十歳…結婚に早過ぎる年ではない。」

 「で、ですが…私はその…」

 口籠り、俯いてしまったアリシアを、モーリスは険しい視線でみつめました。



 「まさか、おまえ…あの薄汚い農夫と付き合ってるんじゃないだろうな。」

 「えっ…!」

アリシアは心臓が口から飛び出しそうになるのを懸命に押さえました。
 以前、たった一度だけですが、アリシアがディランと話しているところを、モーリスに見られたことがあったのです。



 「忠告したはずだぞ。おまえはこのヒルストン家の一人娘だ。
 農夫等と気軽に話すものではないと。
あの時、あいつのことをただの知りあいだと言ったのは嘘ではないだろうな?」

アリシアは唇を噛み締めました。 



 「……申し訳ありません。
なんだか頭痛がしますので、失礼させていただきます。」

 「アリシア!」

 背中にかけられた声を無視して、アリシアは食堂を後にしました。
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