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鏡の中と外

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「恥ずかしいからその話はやめておくれよ。
ねぇ、レオ…いつか君の事を話してくれるかい?」

 「さぁな…気が向いたらな。
そんなことより…早く運動したらどうなんだ?」

「そうだね……」

痛みに顔を歪ませながら、アラステアはゆっくりと立ち上がった。



「レオ…君にはずいぶんと世話になったね。
ありがとう。」

「一体何のことだ?私はおまえの世話などした覚えはない。
そんなことよりも、いつもの無様な運動を早く見せて笑わせてくれ。」

「……あぁ、わかったよ。」



アラステアは、壁に掛けられた鏡をじっとみつめた。




「レオ……よく見ててよ。」

アラステアは、足を引きずり鏡に向かって懸命に走った。
しかし、それは歩くのとさほど変わらないもたもたとしたものだった。



「レオ…また会おう!」

ほんの少し振り返り、そう言って鏡にぶつかったアラステアの姿はその場から掻き消え、それと同時に壁の鏡から飛び出すアラステアがレオナールの目に映った。



「いた……」

どすんという大きな音と共に、アラステアは地下室に戻った。



(……戻れたんだ……)



アラステアが感傷に浸る間もなく、不意に扉が開いた。




「……あ……アラステア!」



スコットはすぐにアラステアを発見し、彼の元に駆け寄った。




「アラステア!」

「遅くなってごめんよ。」

「そんなこと……
構わないよ…こうして戻って来てくれたんだから。」

ぽろぽろと丸い涙をいくつもこぼしながら、スコットはアラステアの身体を強く抱きしめた。



「あ、いたた……」

「え?」

スコットは驚き、アラステアから身体を離した。



「どこか痛むの?」

「詳しいことは後だ。
まずは、つまらない期待をして集まってる親戚たちに帰ってもらおう。
スコット、ちょっと肩を貸してもらえるかな?」

「あぁ、良いよ。」

スコットは、アラステアに肩を貸しながら、ゆっくりと地下室を歩いて行った。



そんな二人の姿を、鏡の向こう側からレオナールが目を細めてみつめていた。
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