上 下
49 / 50
鏡の中と外

22

しおりを挟む




「おまえは本当に強情だな。」

レオナールは、アラステアをひょいと抱き上げ、長椅子の上にそっと寝かせた。




「……どうしても戻りたいのか?」

「理由は前に言っただろ?」

「スコットは、お前の財産等欲しがらないだろうがな。」

「それだけじゃない。
僕は、この寝巻きとガウンしかないからね。」

「そんなものなら私が…」

アラステアはゆっくりと首を振る。



「僕は子供の頃からメイソンの仕立てたものしか着ないんだ。」

「……なるほど。」

レオナールは、穏やかに微笑んだ。



「アラステア……もしも、元の世界に戻れたら……お前はこの鏡をどうするつもりだ?」

「どうもしないよ。」

「なぜだ?ここにお前の愛しいフィリスはいない。
いるのはこの私だけなのだぞ。」

「……そうだったね。
ここに僕の愛しい人はいない。
いるのは…………意固地な友人だけだ。」

レオナールの瞳が一瞬大きく見開かれ、その視線は急に落ち着き失い、宙を彷徨う。



「アラステア……私は……」

「君も一緒に戻る?」

「私はここから出られないと言っただろう。」

「……僕は諦めないよ。」

「……そうか、メイソンの仕立てた服はここでは手に入らんからな。」

アラステアは小さく笑ってゆっくりと身体を起こした。



「そういうこと。
さて…それじゃあ……」

「やめておけ。」

「僕は諦めが悪いんだ。」

「そうじゃない。
たまには違う運動にしてみたらどうなんだ?」

「……え?」

レオナールは、立ち上がり、視線を向かい側の壁に向けた。




「スコットの前でも、フィリスの時のように素直になれたなら、きっともっと仲良くなれるだろうにな。」

「……レオ……
君は、戻らないの?」

「愛称で呼ばれたのはずいぶんと久しぶりだ。照れくさいものだな。
 何度も言っているだろう…私は戻りたくても戻れないのだ。
だが、おまえは違う。」

 「え?」

 「アラステア、今更なんだが……フィリスのこと……騙してすまなかったな。」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。

あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。 夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中) 笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。 え。この人、こんな人だったの(愕然) やだやだ、気持ち悪い。離婚一択! ※全15話。完結保証。 ※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。 今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。 第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』 第二弾『そういうとこだぞ』 第三弾『妻の死で思い知らされました。』 それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。 ※この話は小説家になろうにも投稿しています。 ※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...