地下の初恋

神在琉葵(かみありるき)

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side アラステア

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「アラステア……どうしたの!?」

「フィリス……」

その晩、僕は久しぶりに彼女の元を訪ねた。
フィリスにはスコットが来てる間は会えないと言っておいたけど、今日はどうしても会いたくてたまらなくなって、その気持ちを抑えることが出来なかった。



彼女の顔を見るだけで、僕はどれほど癒されることか……
僕は、スコットの話をフィリスに話して聞かせた。
余計な心配はかけたくなかったから、当り障りのないことばかりを……
そんな他愛のない会話でも、彼女と話すと胸が弾む。




「あなたは本当にスコットのことが好きなのね。」

「あぁ、好きだよ。
彼ほど信頼出来る人はいない。」



次の日も…そのまた次の日も、僕はフィリスの元を訪ねた。
それはとても楽しいひと時だったけど、そんなことをしていて、僕のひ弱な身体がもつはずがない。
睡眠不足が祟って、僕はついに倒れてしまった。



(こんなことになることはわかっていた。
だから、彼が来ている間はフィリスには会わないと決めていたのに……)

後悔してももう遅い。



いつもの診療所に運ばれ、どうにも情けない気持ちで手当てを受けて、僕は屋敷に戻った。
こんなことになったのだから、今夜こそはもう行かないと決めていたのに、いつもの時間になると僕は部屋でじっとしてられなくなって……








「そうなの?それは楽しかったでしょうね。」

「あの風景をいつか君にも見せてあげたいよ。」



倒れたことは彼女には言わなかった。
ひ弱な人間だと思われたくなかったから……

僕は診療所の風景のことを少し大げさに話して聞かせた。
いつもと同じ…他愛ない会話を交わすだけだけど、僕にとっては最高に幸せな時間……



それを突然の騒音が打ち破った。



「アラステア、僕だ、スコットだ!
ここを開けてくれ!
アラステア…お願いだ!!
開けてくれ!」

「スコット…どうしてここに…!?あっ……」

わけもわからず扉の前に立ち尽くす僕は、突然、スコットに抱きしめられた。
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