同じ日に生まれて

２５

「早く戻ってあげなさい。」
 父上はとても心配しておられる。」

 心配しているんじゃない。
 父さんは金がなくて困ってるだけだ。
そんなことを心の中で呟いて、僕の口端はわずかに上がった。



 「父上は話しておられた。
 奥様を亡くされてから、何もする気になれず、死んでしまいたいと思われていたようだ。そのことから酒に溺れるようになり、そのうちに酒がやめられなくなり、体調も悪くなった。
このままではきっと病気になる。
そうすれば、ますます君に迷惑をかけるようになる。
そう思われて、君に愛想を尽かされるようにとわざと飲んだくれたそうだ。
なのに、君はどんなに辛くあたられようとお父上から離れなかった。
父上は、仰っておられた。
あの子は昔からとても優しい良い子なのだと……」

 「う、嘘だ！」

 僕は、自分でも気づかないうちに感情的な声を上げていた。
だって、それはあまりにも信じられない話だったから。



「嘘ではない。
君は父上の誇りだ。
君がどれほど優秀な人間かということを、父上は目を輝かせて私達に話して下さった。
そして、今回、君の様子がおかしいことでお父上は酷く心配になり、君のことをどこかから聞きつけて、このあたりを探しに来られたのだそうだ。
オリヴィエのことを知り、君がオリヴィエになにかしたのではないかと心配しておられたよ。
何もないと答えると本当にほっとされてね…
今回のことがきっかけとなり、お父上は君とはやっぱり絶対に離れられないことを悟られたらしい。
だから、今度こそ本気で立ち直ろうと決心されたそうだ。」

 「……そんな……嘘だ……父さんはいつも僕をなじってばかりで……
そ、それに、あの強い父さんがそんなことを、いくらオリヴィエの里親だからって、見ず知らずのあなたに打ち明けるはずがない……」

 「カミーユ…どんなに強い人でも、その状況によっては強さを保てないことだってある。
私だって、いつそうなるかはわからないんだ。」

そう言われても、ローランドさんの話は衝撃的過ぎて、僕にはとても消化出来るものではなかった。