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それからの父は、毎日、酒場に通うようになった。
酒で少しでも母さんを亡くした悲しみが癒されるなら……そう思って、父さんのやりたいようにさせていた。
ところが、酒量がどんどん増えるばかりで、父さんの気持ちは癒されるどころか、どんどん悪くなる一方だった。
生活は不規則で、あんなに几帳面だったのに、服も着替えなければ風呂にも入らなくなった。
酷く感情的になり、言動が粗暴になった。
ほんの数年で父さんはすっかり別人になってしまった。
僕は、後悔した。
酒を飲ませるべきではなかったと。
今のようになってしまう前に、何か手を打つべきだったと。
だけど、もう遅い。
父さんの悪態には、心の底から腹が立つことがある。
だけど、離れるわけにはいかない。
父さんには僕しかいないんだから。
とはいっても、時には見捨ててしまいたい気持ちになることもある。
どんなに一生懸命に働いても、労ってもらえないばかりが、稼いだ金は酒やばくちに消えてしまう。
一体、何のために働いているのかわからない。
ふと空いた時間に空を見上げると、浮かんで来るのは母さんのにこにこした顔と、まだ6歳のまんまのダニエルの顔だった。
ダニエル……どうしてるんだろう?
幸せでやってるだろうか?
どこのどんな人にもらわれたのかわからないけれど、あいつは昔から愛嬌があって、誰からも好かれてたから、きっと大丈夫だろう…
あいつはどこか頼りなく、身体も弱かったし、運動神経もあまり良くなかった。
だから、僕はいつもダニエルのことが気がかりで……
僕がもらわれて行く時、ダニエルは酷く心細そうな声で言ったっけ。
「早く帰って来てね…」って。
風邪で熱を出してベッドに横になりなってるあいつを置いて出て行くのはいやだったけど、あの時の僕はそのまま帰って来られないなんて思わなかったから…だから、僕は……
「カミーユ!」
「は、はいっ!」
束の間の物思いは、店主の声ですぐに破られた。
「急なことですまないが、配達を頼む。
少し遠いが、頼んだぞ。」
「わかりました。」
酒で少しでも母さんを亡くした悲しみが癒されるなら……そう思って、父さんのやりたいようにさせていた。
ところが、酒量がどんどん増えるばかりで、父さんの気持ちは癒されるどころか、どんどん悪くなる一方だった。
生活は不規則で、あんなに几帳面だったのに、服も着替えなければ風呂にも入らなくなった。
酷く感情的になり、言動が粗暴になった。
ほんの数年で父さんはすっかり別人になってしまった。
僕は、後悔した。
酒を飲ませるべきではなかったと。
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だけど、もう遅い。
父さんの悪態には、心の底から腹が立つことがある。
だけど、離れるわけにはいかない。
父さんには僕しかいないんだから。
とはいっても、時には見捨ててしまいたい気持ちになることもある。
どんなに一生懸命に働いても、労ってもらえないばかりが、稼いだ金は酒やばくちに消えてしまう。
一体、何のために働いているのかわからない。
ふと空いた時間に空を見上げると、浮かんで来るのは母さんのにこにこした顔と、まだ6歳のまんまのダニエルの顔だった。
ダニエル……どうしてるんだろう?
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どこのどんな人にもらわれたのかわからないけれど、あいつは昔から愛嬌があって、誰からも好かれてたから、きっと大丈夫だろう…
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だから、僕はいつもダニエルのことが気がかりで……
僕がもらわれて行く時、ダニエルは酷く心細そうな声で言ったっけ。
「早く帰って来てね…」って。
風邪で熱を出してベッドに横になりなってるあいつを置いて出て行くのはいやだったけど、あの時の僕はそのまま帰って来られないなんて思わなかったから…だから、僕は……
「カミーユ!」
「は、はいっ!」
束の間の物思いは、店主の声ですぐに破られた。
「急なことですまないが、配達を頼む。
少し遠いが、頼んだぞ。」
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