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本編 最終部 ~運命の姫君はパーティーにて~

サイラスのお相手

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「フローラ様、お誕生日おめでとう御座います。」



殿下とのダンス二回戦を終えた私は・・・予想通り駄目駄目でクタクタであった。
本来であれば・・・私の誕生パーティーなので、来て下さったゲスト一人一人と挨拶を交わさなくてはいけない所なのだが、
ダンスで心身ともに大ダメージを受けてしまった私は、一先ず甘いもので回復を図ろうと立食テーブルの近くへと来ていたのだ。

そんな私がようやく大好きな甘菓子を口に頬張っていると、声を掛けて来たのは・・・

「サイラス・・・!」

満面の笑みで何故か手には、私が好きそうな料理ばかりを綺麗に盛り付けたお皿を持っているでは無いか・・・。

「ぷっ・・・勿論、フローラ様の為に取って来たものですから・・・どうぞ?」

笑いながらそう皿を差し出すサイラスに、お皿の上の料理ばかりを凝視してしまっていた自分にはっと気付かされて、少しばかり恥ずかしくなってしまった。

「あ、ありがとう御座います・・・。」

(ーーーはっ!でもこれって・・・よくよく考えて見ればチャンスなのでは・・・?!!)

皿を受け取ると同時に今日の使命を思い出した私は、今この状況を逃してはならないと閃いてしまった。

「サイラスも一緒に頂きましょう?1人で食べても味気ないもの?」

「え?えぇ、喜んで。」

サイラスの返事を最後まで聞く前に手を掴んで、奥のソファへと向かう。
そんな私の行動にサイラスは訳が分かっておらず、少し足がもつれてしまっていたが・・・手を振り解きはせずに付いて来てくれた。



「ここで座ってゆっくり食べたいわ!」

「私は構いませんけど・・・フローラ様は今日の主役ですよね?良いのですか?」

ソファに先に座った私を見下ろしながら、そう困り顔で問いかけるサイラスの心配はご尤もだったが・・・
一先ずサイラスが帰らない様に釘を刺しておく方が先決だと思い、自分の隣の場所をポンポンと叩き座る様に促す。

「主人の婚約者となる女性の隣になど座れませんよ・・・」

「今日は王宮執事としてでは無く・・・サイラス・クリプトンとして招待しているのよ?何の問題も無いわ?・・・それに、ここは丁度死角になっていて会場からは見えないわよ!」

とにかく早く座って欲しい一心でそう伝えただけだったのだが・・・
サイラスは何故か驚いた様子で私をじっと見て来たかと思えば、すぐに薄ら笑いを浮かべて隣に腰を下ろした。

「・・・期待しても良いのですか?」

座るや否や、髪を掻き上げながらそう耳元で囁かれてしまい・・・
私の顔は一瞬で赤くなってしまった。おまけに開始早々だというのに・・・サイラスの醸し出す色気に既にノックダウン寸前の状態になってしまった。

「キキキ、期待・・・?何を・・・?」

「気付いているんでしょう?私の気持ち・・・」

気付いている・・・けど、御免なさい。
想い人のメイドさんには、殿下とくっ付いて貰いたいのよ・・・!

「ノーコメントで・・・。」

「何それ?・・・私の気持ちは困るって事ですか?」

切なそうに、そう私の顔を覗き見るサイラスの顔に流石に良心が傷んだが・・・

「困るか困らないかで言えば・・・困っています・・・。」

「はっ・・・!面と向かって言われてしまうと・・・結構きますね・・・。」

私の返事にそう言いながらも頭を抱えながら俯いてしまったサイラスは・・・どう見ても落ち込んでいる様子だ。
そんなサイラスを横目で見ながら・・・慰める資格も無い私は、居心地悪そうに隣に座っている事しか出来ない。



「・・・・・・。」

「・・・・・・?」

「・・・・はむっ」

「・・・・・・・!?」

「あむ、・・・・もぐもぐ。」



「あははっー!人を振っておいて・・・すぐ横で料理を食べるなんて・・・!流石はフローラ様ですね、最後まで笑かしてくれますよ、本当。」

いやだって・・・元々、腹ごしらえをしたくて来ていたんだもの・・・。
目の前に料理もあるし、サイラスは俯いたまんま動かないし・・・そりゃ一口、二口食べちゃうでしょう。

ーーーん?人を振っておいて・・・?



(ーーー!!!!!)



そんな・・・サイラスーーー・・・。
私ったら何て無神経な事をしてしまっていたのかしら・・・?!



(もう想い人のメイドから振られてしまっていたのねーーー?!!)



「ーーサイラス!貴方ほど素敵な人が一生独身だなんて事は絶対に無いわよ!今は辛いかもしれないけれど・・・。そうだわ!私で良ければ付き合うから・・・今日は最後まで是非残っていらして?夜通しでも付き合うから・・・!」

殿下を応援する余り『困っています』と無神経にも伝えてしまった罪悪感も相まって・・・私はとにかくサイラスの失恋の傷を癒してあげねば!と思ってしまった。

料理の乗ったお皿を横のサイドテーブルに置き、両手でサイラスの左手をギュッと握り締めて真摯にそう伝えてみるが・・・当のサイラスは、私の変わり様に驚いてしまったのか・・・失恋の場面でも思い出してしまったのか・・・顔を赤くしながらも目を見開いて私を凝視している。

「え・・・あ・・・はぁ、とりあえず、分かった。」

あの、いつも余裕たっぷりなサイラスにしては珍しく・・・目を泳がせながらもそう返事をしてくれた。

「良かったわ・・・!じゃあ、私戻るけれど、サイラスもあんまり深く考えては駄目よ?ね?」

サイラスがそう約束をしてくれた事も去る事ながら・・・殿下との婚約破棄が大きく一歩前進した事にとにかく安心した私は、サイラスの肩をポンポンと叩くとソファから立ち上がり、会場の方へと軽やかなステップで舞い戻った。



「いや・・・え?!一体どういう意味なんだ・・・?訳が分からない・・・!俺、振られて無いの・・・?!!」

ーーーと、
サイラスが頭を抱えながら呟いていた声は勿論、私には全く聞こえなかった。

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