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本編 第三部 〜乙女はアカデミーにて〜

お兄様は私が守るわ!

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「あら・・・?珍しく客人がいらっしゃると思ったら、フローラじゃ有りませんか!」

殿下の顳顬のピクピクに気付き、一刻も早く手を離してしまいたかった私には・・・声を掛けてくれたエレノアが天使に見えた。

「エレノア・・・!!」

殿下と同じく生徒会役員で書記官を務めている・・・私の親友エレノア・キースランドが私達を見付けて声を掛けてくれた。
私が殿下の手を離しエレノアに抱きつくと、いつもの感じでエレノアがよしよしとしてくれる。

「どうしましたの・・・?生徒会に何か御用が有ったのですか?」

「うん。まぁ・・・色々と物申したい事があってね・・・あはは。」

私の返事からきっと良くない事だと察したエレノアは、少し困った表情を浮かべながらも目配せをしていて、お兄様の存在に気付くと不思議そうな顔を浮かべながらも丁寧に礼を取っていた。

「あ、紹介するね?私の兄でー」

「存じ上げておりますわ、きちんとご挨拶するのは初めてだけれど・・・。お初にお目にかかります、私はエレノア・キースランドと申します。」

私の言葉を遮って、私の前へと歩みを進めたエレノアはお兄様に丁寧に礼をする。

「あ、こちらこそ・・・!ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。ヴァンス・アナスタシアと申します。いつも妹がお世話になっている様で・・・」

慌ててエレノアの礼に応えたお兄様を見るに・・・お互い名前と顔は知っていたが、きちんと面と向かって話すのは初めてという感じなのが伺えた。

「それで・・・?会長に何を物申しに来たのですか?フローラは・・・。大方、兄君の陰口を聞いて、居ても立ってもいられなくなったという所ですか?」

(す・・・凄い・・・!何でわかるの?!エレノア・・・!超能力の類の使い手なのかしら・・・?!)

溜息まじりに見事言い当てられた私は、目を見開いて思わずエレノアを凝視してしまう。

「さすが、エレノア嬢・・・ご名答だ。」

固まってしまった私の代わりに殿下がそう肩を竦めながらそう答える。
どうやらご機嫌が戻った様である。

「でもそれって・・・ヴァンス殿の問題でしょう?何故、フローラが出てくるの?」

「え?だってお兄様のことが大好きだから?」

エレノアもお兄様も私の返事に何故か頭を抱えてしまった・・・。



(え?何で?何で?ーーなんか私、やらかしてしまったか・・・?!)



二人の視線の先を辿ると・・・私の後ろに座する殿下へと辿り着いた。

「ひっ!!」

思わず悲鳴を上げてしまう程・・・黒い笑みを浮かべた殿下の背後にはゴゴゴと燃ゆる炎すら見える。

(何で・・・?!さっき、機嫌戻ったと思ったのに・・・!!)

無視だ無視・・・。とにかく見なかった事にしよう・・・!

「と、とにかく!お兄様の事は私が守るの!!だかー」

続きを話そうと開いた口を思わずエレノアの手に塞がれてしまった私は、フゴフゴとしか言葉を発する事が出来なくなってしまう。

流石に息苦しくなって来た私は、ギブアップという意味を込めてエレノアの手をパチパチと叩き、ようやく口を解放して貰った。

「っぷはぁ・・・!びっくりしたぁ!もう、急に何なのよ?!」

「寧ろ、感謝して頂きたい程ですわよ。」

「そうだぞ、フローラ!全く・・・。婚約者の前で何て事言うんだ!誤解を産むような言動は慎む様にと、馬車でも言ったろう?」

何故か二人からお叱りを受けた私は、反論したかったが・・・その呆れを通り越した二人の表情を見て、言葉をグッと飲み込んだ。

すると、今まで一連のやり取りを黙って見ていた殿下がゆらゆらと立ち上がり、私の肩に手を置いた。

「そうか、そうか。フローラは兄君の事が余程好きなのだな・・・!」

「えっえぇ・・・。まぁ、そりゃ・・・兄妹ですからーっ?!」

返事をしながら殿下の方へと顔だけ向けると・・・その表情は先程と変わらず黒い笑みを浮かべたまま・・・いや、更に背面に燃ゆる炎は激しくなっているかもしれない・・・。

「会長・・・落ち着いて下さいませ。フローラに他意は有りませんわ?」

「そうです!フローラは少し、言葉選びが下手なだけで・・・僕達の間には何もー」



「えぇ、えぇ。分かっています。他意が無いことは・・・ね。」



「・・・・・・っ、」

エレノアの言葉に続ける様にお兄様が放った言葉は何故か殿下に遮られてしまう。

そしてまた何故かさっぱり分からないが・・・殿下の言葉に何かを察した様子のお兄様は顔を俯かせてしまった。

(・・・え?何これ?何の沈黙なの・・・?!)

何故、こんな空気が重いのか欠片も理解出来ない私は3人の顔を順番に凝視する事しか出来ない。

(誰か・・・!誰か何か言ってよぉぉお!全くさっぱり分からない!)

私が頭を抱えながら悶絶していると、ふとエレノアと目が遭った。

「致し方有りませんわね・・・。このまま睨めっこをしていても埒がありませんし。御二方共、剣の腕が経つとお噂ですから、決闘でも為さったら如何ですか?勿論、模擬刀で。」

私の様子に小さく溜め息を零したエレノアは、大きめの咳払いをした後に、何故かそんな事を言い出した。

(・・・え。何で?何で、そうなるの?!!)

「ふむ。良い提案だな・・・。俺は良いぞ?」

(ええぇぇ?!!嘘でしょ?!殿下・・・!!)

「ならば僕も・・・。お相手致します。」

(えええええ?!お、お兄様、どうしたと言うのですか?!!)

「フローラも・・・それで宜しいですわよね?」

(ほえ?ーーー私・・・関係有るのか?)

「まぁ・・・お2人がそれで宜しいのならば。」

全く理解が追い付いていないが・・・一先ず、模擬戦を行う2人が良いと言っているのだから、私がズベコベ言うのも違うだろうしとそう伝えると、
私の返事を聞いたエレノアが手を叩いた。



「では、決まりです!場所は庭園内の広場にて!明日の放課後に致しましょう!」
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